第28話 シグルの手記
〇月〇日
俺はこの日あり得ないものを見た。
それをここに記しておく。
そうだな、書き出しは……。
────それはまるで天使のようだった。
魔族が現れたと聞いてすぐに駆け付けた俺たちはそこであり得ない景色を目の当たりにした。
神々しい装備を纏った少女が魔族へ剣を突き立てていた。
崩落した天井から覗く陽光がその彼女だけを照らし、絵画のような景色を完成させていた。
すると彼女は壁の方へと歩き出した。
ふらふらと歩く途中で神々しい装備は光となって散り、血に塗れたメイド服に変わった。
(あのメイド服!昨日登録したばっかの新人なんじゃ?!)
彼女は手にポーションらしき物を持ち、壁の方に振りかけた。
(今のは……ポーションを作ったのか?となると彼女は薬師なのか?)
(でも、それでは先ほどの装備の説明がつかない)
(それよりも優先すべきは……)
「おい!あのメイド服が向かったところに人がいるかもしれねぇ!医療班はそっちに向かってくれ!」
「それで俺たちは周りのモンスターを探して念のために討伐しておくぞ!」
しかし、その心配は杞憂に終わる。
周辺のどこを見てもモンスターの影などなく、あるのは魔石。それも大量に。
一体ここで魔族の出現以外に何があったというのか。
もしや、魔族召喚の生贄にされたか?
いや、違うな。その場合は魔石すらも贄となるはずだ。
もしや、さっきの少女が?
あり得ない。
冒険者になりたての初心者が魔族を相手にしながら周りのモンスターを狩る?
そんな奴が居てたまるか。
周りにモンスターが確認されなかったので、俺たちは医療班の元へ。
そこでも耳を疑いたくなることを聞いた。
「なに!?服の状態から見て明らかに重症だと思われる奴に傷が一つもない!?」
それを聞き、現場へ走る。
そこには血塗れのメイド服の少女と、冒険者服に身を包んではいるが、俺たち冒険者にとって見慣れた存在である、シリカがいた。
あぁ、言っていたのはこういう事なのかと理解させられた。
シリカの服には血、傷、焦げ跡があるのに彼女の肌は一切の汚れもなく、まるで生まれたてのような綺麗さであった。
「全くの無傷……か。多分このメイド服の奴のポーションの効果だろうな」
「こいつは意識を失う寸前まで、重症のシリカの事を考え、ポーションを作り、振りかけ、傷を完治させた」
「まったく何者なんだ、この新人は」
魔族と多数のモンスターを同時に相手し、討伐。
重症と思われる傷をも完治させてしまうポーションを作成。
そして、あの神聖さの塊のような装備。
「あまりにも情報が多すぎる……」
とりあえず全ては彼女たちが目を覚ましてからだ。
「医療班はそのまま二人に治療を続行。回収班、魔石の回収は……終わったみてぇだな。記録班はスキルで場を記録しておけ!よし、引き上げるぞ!」
そうして俺たちはダンジョンを去った。
その後ギルドへ報告。
魔石の換金。
そして二人をギルドお抱えの治療スキル持ちに治療してもらった。
シリカは治療するところが無かったらしい。
明日、二人が目を覚ませば、事情を聞くこととなっている。
その結果も含めまた明日ここに記そうと思う。
───シグル




