第23話 私は、友達のために
戦う。
そう決めたらやるしかない。
「≪身体強化≫!脚力、腕力集中!」
「≪五感強化≫!視覚、聴覚集中!」
強化シリーズはMAX値を振り分ける。
だから今は脚力と腕力に+50%ずつ、視覚と聴覚に+50%ずつの強化を施した。
これでいい。
他は強化しなくてもいい。
私にはこれが最善解だと思えた。
でも、まだ足りない。
Cランクのシリカちゃんを軽く打ちのめしてしまうルアはきっとC以上。
今の私じゃ勝てない。
なのになぜ強化を施したのか。
これは元からルアと戦うための強化じゃない。
ここはダンジョン。
つまりモンスターの巣窟。
いわば、《《経験値の巣窟》》なのだ。
「フッ!!」
私はルアには目もくれず、周りのモンスターに駆ける。
「なに?散々煽っておいて逃げんのかよ」
「残念だったな、シリカ。アンタのメンバー逃げたよ?」
「見捨てられちまったなぁ、ざまぁないね!!」
でも、シリカちゃんがやられないように立ち回る。
「≪火炎庫≫、【炎魔法:ファイアボール】!!」
飛んでいった炎の玉はルアに当たる直前、彼女から発せられた炎の壁に防がれる。
「チッ、ちょこまかとしやがって!!」
ルアは炎を鞭のように伸ばし大振りの一撃。
来るとわかっていれば躱せる。
私は後ろにステップを踏み射程から逃れる。
「あ゛あ゛腹立つなぁぁぁ!!!」
よし、こっちに気が向いた。
この間も周りのモンスターを狩ることを忘れない。
そんな攻防が続く。
もう何分こうして走ってる?
シリカちゃんは……大丈夫、気絶してるだけ。
≪身体強化≫と≪五感強化≫のレベルはそれぞれ6上がった。
けど、まだ足りないのか……!!
キュポッ。
何本目か分からないMPポーションを飲む。
そしてこれも何本目か分からない鉄剣を生成。
だんだん足に疲労が溜まってきた。
でも、足、止めるな!!
目の前のゴブリンを切り伏せる。
何体も何体も。
そして、ルアに炎魔法を飛ばす。
「あぁ!もう!鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!!!」
ルアはさっきから私に攻撃が当たらなくなってきて焦ってきてる。
敵はこうも崩れてきているのに手を出せない。
くそっ、シリカちゃんを今すぐにでも回復させてあげたいのに!!
そしてその時はやってきた。
『≪身体強化≫及び≪五感強化≫がLv.8になりました』
「きたッ!!」
私は直感的にルアと同じステージに立ったことを悟った。
同時にルアも何かを感じたのかこちらに振り向く。
「ルア!!これで終わりだぁぁぁっ!!」
地面を蹴る瞬間脚力の強化を+100%に。
全力で蹴りだす。
まるで一本の矢のように私の体はルアへ一直線で飛んでいく。
途中で腕力の強化を+100%に。
私は剣を全力で振りぬく────
────はずだった。
あり得ない程の力で横方向に薙ぎ払われる体。
とんでもない負荷が私を襲う。
ドォォォォォォォォォン!!!!!
「かはっ……」
肺の中から空気が抜ける。
息ができない。
うそっ、何が起きたの?
私の剣はちゃんとルアに届くはずだったのに。
「きゃはっ♪壊れちゃった?死んじゃった?」
「今、殺せるって思ったでしょ?」
「残念だったね?あははっ♪」
霞む視界で捉えたのはルアの背中から生える、黒光りの《《三本目の腕》》。
私はそこで意識を手放した。




