その名前 【月夜譚No.152】
部の創設者である先輩が、もうすぐ卒業する。誰もいなくなった静かな教室で、彼女はぼんやりと物思いに耽っていた。
入学式、先輩が一人で勧誘のチラシを配っていたのを、今でも鮮明に覚えている。彼は一年の時に部を立ち上げようと決心して、けれど仲間が集まらず、同好会とすら認めてもらえずにたった一人で一年間活動をしていたらしい。
だから新しく入った一年生を勧誘するのに必死で、そんな彼のひたむきで真っ直ぐな横顔に惹かれて、彼女は入部を決意した。正直、活動内容は興味がなかったのだが、一年生が彼女の他に三人入部をして、ギリギリ部として活動ができ、皆で集まることは毎日楽しかった。
翌年も新入生が数人入部して、他と比べると少ないながらも、部としては今後も継続していけそうである。
安心したような彼の顔が脳裏に浮かんで、彼女は少し泣きそうになった。
部が存続できるのは喜ばしいことだが、もうすぐそこから彼の姿がいなくなってしまう。それが、堪らなく淋しいのだ。
彼女は日の暮れかけた窓の外を見遣って、自身の胸に手を当てた。この感情に名前をつけても良いのだろうか。名前をつけたら、次は行動に移さなければならない気がして、足踏みをしてしまう。
もう既に、名前は知っているはずなのに。