⑤(京香視点)
ここから2話分、視点が変わります。
そのため本日は続けて2話投稿しますので、読み飛ばしにご注意下さい。
──三日前に亮司が私の目の前で、大型トラックに突き飛ばされた。これから一緒に出掛ける予定だったのに、私が忘れ物をして取りに行ったせいで、亮司は事故に遭った。
大型トラックのブレーキを踏む音が耳に劈いて、目の前で起こった事故に気を取られていた私はハッとして、公園から少し距離のある電柱の近くまで飛ばされた亮司に急いで駆け寄る。亮司の意識はまだあった。未だ上手く動かない脳みそをなんとか叱咤し、次に取るべき行動を思い浮かべる。震える手でショルダーバッグからお揃いのスマホケースを取り出し、救急車を呼んで病院に付き添った。けれど、今日の朝方に亮司は治療のかいなく亡くなってしまった。
医者が言うには、突き飛ばされた後の打ちどころが悪かったらしい。もう少し違うところだったなら助かっていたかも、という話だ。私は両目から溢れ出る涙を抑えることは出来ず、その後の医者の話は何も入ってこなかった。
小さい頃から一緒だった亮司。結婚を考えていてくれた亮司。私の、大切な人だった亮司。
その亮司がもういない?
信じられなかった。いや、今も信じたくない。その思いは私だけじゃなく亮司の両親も同じみたいで、呆然と白いベッドの上で白い布を顔にかけられた亮司の遺体を見つめている。
それからどのくらいの間、人目をはばかることもなく泣いて亮司を想っていたのだろうか。それまで呆然と亮司の遺体を見つめ続けていた亮司の両親が、私に話しかけてきた。
「京ちゃん、もうしばらくここにいてやってくれないかしら。私たちは亮の葬式の準備をしないといけないから」
「京香ちゃんだって辛いときに、こいつの傍にいてもらうのは心苦しいが、きっとこいつは最後の瞬間まで京香ちゃんが傍にいてくれた方が安心すると思うんだ。頼めるかな?」
それをぼんやりと聞きながら、小さく頷く。火葬される瞬間まで、亮司の傍にいたいのは私も一緒。だから、迷わず頷いた。ありがとうと何度も言いながら、亮司の両親は慰安室から出ていき、私だけが残った。
それからまた暫く、亮司と過ごしてきた日々を思い出しながら、亮司、と呼び続ける。もういない相手だと、頭では分かっていてもひょっこりと生き返るんじゃないかと期待してしまう。
だって、亮司は私より先に死なないって言ってたもの。期待してしまっていいでしょ?
望みのない希望はすぐに打ち砕かれる。更にあれから数時間が経ったころ、一人の男性が部屋に入ってきた。
「篤志さん……」
篤志さんは、私の大学のサークルの先輩。亮司と喧嘩したときや亮司の誕生日にサプライズするときなどには、よく相談に乗って貰っていた頼れる先輩だ。
「……京香ちゃん」
私の姿を見て何を思ったのかは分からないけれど、呼びかけに弱弱しく笑い返した。そのあと一時間くらい、何も言うこともなく私の傍にいてくれた。その優しさが嬉しい反面、傍にいてくれるのが亮司だったらと、篤志さんに対して失礼なことを思ってしまった。