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そして現在に戻る。
僕は交通事故のことを思い出し、急いで僕が運ばれたであろう京香が出てきた病院内に入り、僕が安置されている慰安室に向かう。二人の話から、僕は今日の朝未明に死亡が確認されたらしい。どうやら僕はそれまでずっと危険な状態だったみたいた。
あの時、京香が焦っていたのは大型トラックが来ていたから。今ならそれが分かるのに、何で僕はそのとき気付かなかったんだろう。情けないことに完全に僕が京香しか見えていなかった証拠だ。一生守って大事にすると、口約束だったが結婚まで予定していたのに。悔しい。約束を守れないばかりか、京香を一人にしてしまったことが。
記憶を取り戻した今、僕は自分のことよりも京香のことが心配になる。僕を失った彼女が馬鹿なことを考えやしないか。彼女の心に一生消えないトラウマを植え付けて、彼女は夜ぐっすりと眠ることが出来るのか。彼女の笑顔が消えないか。
それから数分後。病院内にある慰安室で僕の遺体を見つけ、ゆっくりと傍に近づいて見下ろす。
ははっ、自分の亡骸見てるなんて変なの。
どこかでまだ自分が死んだことを信じていなかった。けれど、僕の遺体がすぐそこにある。手を伸ばせばすぐに触れられる距離に。嘲笑に似た笑いが勝手に口から出てしまい、ぼんやりと現実を受け入れていく。それと同時に、僕の今の姿は実体でない幽体であることを悟った。
どれくらいの間、自分の眠っている亡骸を見下ろし続けていたのだろうか。
突然、慰安室の扉が開いた。暗くて無機質な空間に、光が差し込んでくる。
誰が来た? 今ここには僕の遺体と、幽体しかいないはずだ。
看護師だろうかと怪訝に思いながら、開けられた扉に立っている人物を見てみると、そこには京香が立っていた。逆光で京香の表情は見えないけれど、確かに京香だ。僕が見間違えるはずがない。
え、なんで? さっきまで外にいたんじゃないのか? 家に帰るところだったんだろ? それにあの男が何故いないんだ?
前触れもなく現れた京香に戸惑いつつ彼女の動向を見守っていると、彼女は僕が予想していなかった言葉を口にした。
「……亮司?」
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