浜松城攻防戦②〜定石無視は焦りか驕りか〜
武田の追撃軍が全員到着した。徳川方は帰って来た三千人と三方ヶ原に行かなかった者達千五百人を合わせた四千五百人で、城と水の手を守るが、対する武田は五千人で出発したが、本多忠真達の命懸けの猛攻により四千八百に数を減らしていた。
そして武田から見える位置には大量の徳川の旗指物が翻っていた。数は少ないが織田家の物も加わっている
それを見た馬場と山県は
「四郎様。三方ヶ原にて痛手を負わせたとはいえ、野戦と城攻めは別物とお考えくだされ」
「馬場殿の仰るとおりです。野戦では多少の人数の差は覆せますが、城攻めにおいては攻撃する側は守る側の三倍の数を持って攻めるが定石にございます。ここはじっくり囲んで策を練りましょう」
2人は、信玄が信廉を通して伝えた「5日目の夜に撤退しろ」を、どうやって勝頼に伝えるかを出発前に話し合ったが、直接言っては勝頼を信頼してない様に思われてしまう。その結果、「城を囲むだけで終わらせて信玄の元へ向かう様に動かす」策で行こう。との結論になった
しかし勝頼は、
「馬場殿も山県殿も、何を今の徳川に臆しているのですか?我々以下の人数で、手負い者が多数。定石は確かに大切ではあるが、力攻めもまた大切ではありませぬか!」
と、2人の言葉に返した。しかし2人は
「し、四郎様?仰っている事は確かに分かりますが、此処は抑えてくだされ」
「そ、そうですぞ。敵の首を取る事も武功ですが、敵が動かない様に抑えるだけでも武功であると、お館様は仰っておりましたし、無理をせずとも」
何とか勝頼に無理をさせない様に宥めていたが、それでも勝頼は
「今すぐは攻めないが、城の穴になりそうな場所を見つけたら、そこを徹底的に攻撃する!馬場殿も山県殿もそのつもりでいてくだされ!」
そう言って勝頼は、作らせていた陣幕内に入っていった。そんな勝頼に何も言えなかった2人は
「山県殿、大変な事になりそうじゃな」
「馬場殿、これは最悪な事にならない様に動くしかない」
勝頼が討ち取られるという最悪の事態が、頭をよぎっていた。




