戦が始まると赤備え達は止まらない
天正二十三年(1595年)十一月一日
陸奥国 某所
「それでは出陣じゃあ!我々蘆名の一千人で田村家の青瓢箪を驚かせて、降伏させようではないか!」
「「「「おおお!」」」」
前日に休息を取っていた盛春達は、夜明けと共に要衝の山を目指して出陣を開始した
一千五百人の軍勢のうち、一千人を連れて来るという程、気合いが入っていたが、伊達家の黒脛巾組の者が盛春達の動きを見張っていた為、その動きは即座に昌幸達に報告された
黒脛巾組が走りに走って、源太郎達を見つけると
「あ、あの!お武家様!自分は、山の麓の方に住んでる百姓なのですが、家の近くの林から田村様の物とは違う旗を掲げた集団が、この山を目指して進んでいます!助けてください!」
偶然を装って、源太郎に盛春達が山に近づいている事を伝える。それを聞いた源太郎は
「そうか!よくぞ伝えてくれた!反対側に逃げなされ!その者達は、我々が殲滅させる!だから早く逃げなされ!」
「早く反対方向に逃げろ」と促し、黒脛巾組の者も素直に逃げた。逃げた事を確認した源太郎は
「金之助!済まぬが、喜兵衛殿へこの事を伝えて来てくれ!」
「承知した!」
共に前線に居る金之助へ、昌幸に伝える役を頼み、金之助も承知して、昌幸の元へ向かう。昌幸の元に到着した金之助がこの事を伝えると
「金之助殿!忝い!それでは源太郎殿の元に戻りなされ!」
「忝い!」
昌幸は金之助を源太郎の元に戻した。金之助の姿が見えなくなると昌幸は
(これで敵の存在を百姓が教えて来たのが二回目。知らせてくれた百姓は恐らく、間者であろうな。それも伊達家の間者と見て間違いない
だが、儂達に対してここまで用意周到に細かく教えてくれると言う事は、伊達様は殿や儂達に対して全幅の信頼を置いておるのじゃろうな
普通、歳が近いと何かと競い合うのじゃが、殿の人徳とでも言えば良いかのう。競い合ったり張り合ったりする相手が居たとしても
いつの間にか、殿の為人に絆されて友誼を結んでおるからのう。柴田家に仕えて十年を超えたが、まだまだ殿の知らない部分が出て来るとは、やはり面白い!
まだまだ隠居するつもりは無いからこそ、皆と共に大暴れしようではないか!)
百姓の正体を見抜きながらも、六三郎の底知れぬ魅力と柴田家の面白さに改めて心が踊っていた。そんな昌幸の昂りを知らない赤備え達は
「そろそろ敵が来るぞ!」
「気合いを入れておけ!」
「殿を驚かせようぞ!」
既に戦の始まりが近い事を肌で感じていた。そんな事を知らない盛春達が源太郎達の潜んでいる場所に到着する。何も警戒せずに進むと
ビュン!ビュン!ビュン!
盛春の軍勢に弓矢の雨が降り注ぐ。完全に虚を突かれた盛春達は
「ぎゃあ!」
「て、敵襲じゃあ!」
「警戒せよ!」
「囲まれておるぞ!!」
軽いパニックに陥った。そんな軍勢をまとめる為に盛春は
「落ち着け!!むやみやたらに動くな!」
大声を出す。その直後
ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
盛春の乗る馬の足元に弓矢が大量に刺さる。それで馬が驚いて、盛春は落馬した。それを見ていた源太郎が盛春達の前に出て来ると
「はっはっは!馬もマトモに操れない者が大将とは、不意打ちで蘆名家当主を殺した情けない軍勢の大将は更に情けないのう!」
軽く盛春を煽る。煽られた盛春は
「おのれ〜。何処の馬の骨か知らぬが喚きおって!お主ら、あの者を討ち取るぞ!突撃じゃあ!」
怒りに任せて突撃を命令する。兵達も不意打ちに怒り心頭だった様で
「「「おおお!」」」
「あの様な卑怯者の軍勢、叩きのめしてしまえ!」
「ちゃんと戦えば我々の方が強い!」
「突撃じゃあ!」
周りも見ずに源太郎達を追いかける。その様子を木の上から見ていた新田家の次男の小次郎は盛春達の軍勢が通り過ぎた事を確認すると、狼煙を上げて源次郎達へ軍勢が向かっている事を伝える
狼煙を確認した源次郎、銀次郎、新左衛門の3人は
「来た来た来たあ!」
「この一本道は地獄への一本道と知らぬとは!」
「さあて、どれ程の強者が居るのか楽しみじゃ!」
それぞれにテンションが上がっていた。そして、源次郎達が追われながら、それぞれの一本道を通り抜けると3人が立ち塞がり
「「「不意打ちでしか攻撃出来ぬ針生の軍勢よ!此処を通りたくば、儂を倒して行け!」」」
打ち合わせしたわけでもないのに、同じ言葉で盛春達を煽る。怒り心頭の状態で更に煽られた盛春は
「おのれ〜!たった一人で何が出来る!お主ら、あの者を討ち取れ!」
「「「おおお!」」」
突撃を命じるが、狭い一本道では縦にしか進めない為必然的に一対一の形になる。その状態で3人に勝てる武士の居ない盛春の軍勢は徐々に数を減らしていく
盛春の兵達が3人の強さに怖気付いた時には、3人合計でおよそ200人が討ち取られていた。自分の順番が近づいて来た兵の1人が
「あ、あんな鬼みたいな奴と戦うなんて、真っ平ごめんだあ!」
その言葉を口に出すと、盛春の軍勢がパニックに陥る。それを聞いた3人は
「頃合いじゃな!」
「儂達も撤退じゃあ!」
「兄上!任せましたぞ!」
一本道を撤退していった。それを見た盛春は
「お主ら、敵が逃げたぞ!追え!追わぬか!」
兵達に追いかける様、命令する。しかし、パニックに陥った兵達に盛春の声は聞こえていなかった。だからなのだろう
昌幸達が前日に束ねていた木が自分達に向かって転がって来ている音に気づかずに、一本道で右往左往していた
そして
ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!
盛春の兵達が木によって潰されていく。それぞれの一本道に準備していた木が転がり終えると、
「へ、兵達が、潰されて、おる」
一本道が盛春の兵達の血の海になっていた。あまりの惨劇に盛春が固まっていると
「突撃じゃあ!」
「「「「おおおお!」」」」
昌幸の号令が響き渡り、赤備え達と田村家家臣が一斉に襲いかかる。盛春が動けない中で家臣の1人が
「殿!お逃げくだされ!この戦は我々の負けです!此処は我々が受けます!なので、早く屋敷へお逃げくだされ!周りの者も殿を護衛しながら逃げよ!」
盛春の馬の尻を叩いて、盛春を逃す。盛春や護衛達およそ50人が逃げた事を確認した家臣は
「殿が逃げ切るまで、一人たりとも通してはならぬ!皆、気合を入れよ!」
自身も含めて残って200人で赤備え達に立ち向かったが衆寡敵せず、10分前後で全滅した。この時、まだ時間は午前中であったので、
実質5時間もかからずに一千人で出陣した盛春達の軍勢は、9割もの大損害を出す大敗で戦は終了した。




