六三郎の居ない赤備え達の軍議
天正二十三年(1595年)十月二十七日
陸奥国 田村家屋敷
「そりゃああ!」
「なんの!まだまだ!」
「おお!赤備えの皆様、主君である柴田様が居なくとも自らを鍛える事に余念がない!我々も更に鍛えねばならぬぞ!」
「「「ははっ!」」」
伊達政宗が針生家を臣従させた翌日、田村家の屋敷では、赤備え達と田村家家臣達が身体を鍛えていた。そんな中で昌幸が源太郎に対し
「のう、源太郎殿。ふと思ったのじゃが、伊達様達が針生とやらの軍勢とかち合わない、それこそ針生とやらの軍勢か田村家を攻撃しに来た場合の事を想定した上で聞くが、殿が居ない現状、采を誰に託したら良いと思う?」
「六三郎が居ない場合の大将は誰が良い?」と質問する。昌幸の質問に源太郎は
「立場的な事で言えば、田村様が適任かと思われますが、戦経験はそれ程多くなさそうですから、不安ではありますな。田村家家臣の何方かに頼んでも良いと思いますが
喜兵衛殿。その様な質問が出るという事は、針生とやらの軍勢が田村家に来ると読んでいるのですな?」
質問に答えつつ、昌幸の真意を確認する。源太郎の言葉に昌幸は
「儂としては、針生とやらの軍勢の数が少ないという前提条件になるが間違いなく田村家を攻撃しに来ると見ておる!儂の戦経験から来る推測になるが、
針生とやらは田村家を攻撃した後、相馬家を攻撃して湊を奪う算段じゃろう。そのまま征圧地域を広げていき、最終的に佐竹家の協力を得て伊達家を攻撃すると思っておる
つまるところ、針生とやらが田村家に来た時、儂達が針生達を撃退するだけでなく、大打撃を与えたら殿が戻ってくるまでの時間稼ぎになると思わぬか?」
これまでの戦経験から来る推測を話しつつ、六三郎が戻ってくるまでの時間稼ぎを提案する。昌幸の提案を聞いた源太郎は
「喜兵衛殿、確かに殿が戻ってくるまでの時間稼ぎは必要です。ですが、殿は戦に関しては「武功は皆で挙げるもの」と考えておりますし
我々だけで敵を殲滅しても咎めるどころか、むしろ「良くやった!見事じゃ」と喜ぶお方である事は知っておられましょう。だからこそ、
殿が戻って来る前に殲滅、とまではいかずとも、被害を与えておけるくらいの準備はしておきましょう。だからこそ、針生とやらが田村家に攻撃しに来た場合を想定した軍議を田村様に開いてもらいましょう」
「とりあえず最悪の場合を想定した軍議を開こう」と昌幸に伝える。2人の会話が聞こえたのか周りには
「兄上!喜兵衛殿!軍議を開くのであれば、拙者達も参加させてくだされ!」
「飯富殿と真田殿!重要な軍議の様ですので、殿にも参加してもらいますので、是非とも殿と共に軍議を開いてくだされ!」
源次郎や田村家家臣から、「軍議を開いてくれ!」と頼まれて、あっという間に氏顕まで話が行くと
「飯富殿、真田殿!家臣達から聞いたのじゃが、針生達が田村家を攻撃する可能性を示唆しておるそうですな。どれ程の可能性があるのか教えてくだされ」
「田村家が攻撃される可能性を教えてくれ」と頼まれたので、昌幸が源太郎と話していた内容を氏顕に伝える。内容を聞いた氏顕は
「義兄上の軍勢をあえて避けて田村家を攻撃する可能性があるとは、やはり幾多もの戦場を経験して来た方の視野は広いですな!改めてですが飯富殿と真田殿!
拙者は当然として、家臣達もここ数年まともな戦を経験しておりませぬ。なので、お二人に采を託したいのですが、よろしいでしょうか?」
源太郎と昌幸に采を託したいと伝える。それを聞いた源太郎から
「田村様。采を託していただくとの事ですが、采を振る者が二人居ては、戦場が混乱してしまいます。なので、采は真田喜兵衛殿へ、託していただきたく存じます」
「采は真田殿へ」と、昌幸を推薦した。源太郎の推薦に昌幸は
「源太郎殿、赤備えの頭領は源太郎殿ではないか!良いのか?」
「お前が赤備えの頭領なのに良いのか?」と確認するが、源太郎は
「喜兵衛殿。殿が居ないだけでなく、田村家の皆様も采配に不安がある以上、この中で最も戦経験が豊富な喜兵衛殿が采を振るうのが適任でしょうから、気にしないでくだされ」
「戦経験豊富なお前が采を振るうのが適任だから、気にせずやってくれ」と答える。源太郎の言葉に昌幸は
「源太郎殿、分かった。田村様。采を託していただく事、誠にありがたき!主君、柴田播磨守様には劣るかもしれませぬが、針生達が来た場合は撃退してみせます」
氏顕に決意表明をした。それから昌幸は
「早速ですが田村様。領内の要衝を確認したいので、家臣の何方かを案内役としてお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
戦になった場合の重要な場所の確認の為の領地の見回り許可を求めた。昌幸のリクエストに氏顕は
「「備えあれば憂いなし」と言いますからな。どうぞ確認してくだされ。誰ぞ、真田殿を案内してまいれ」
「ははっ!では、拙者が案内役を」
「うむ。佐藤、頼む」
大広間に居た家臣の佐藤に案内役を命令する。1人の家臣が案内役を受けて、この日は終了した
翌日
「それでは真田殿、いえ真田殿だけでなく赤備えの皆様も一緒に確認するという事でよろしいのですか?」
昌幸を案内しようとした家臣だったが、赤備え全員が集合している事に驚きながらも、確認する。その中から銀次郎が
「喜兵衛殿!我々も殿が戻って来るまでに敵を殲滅したいので、共に動きますぞ!」
集合した理由を叫ぶと
「喜兵衛殿!儂もじゃ!」
「拙者も同じく!」
「殿が戻って来るまでに殲滅しようではありませぬか」
全員がほぼほぼ同じ事を叫んでいた。それを聞いた昌幸は
「はっはっは!皆も儂と同じく、殿の負担を減らしたいと思っておる様じゃな!佐藤殿、済まぬが全員まとめて案内をお願いしますぞ」
全員で回る事を案内役の佐藤に頼んで、そのまま案内がスタートした。そのままおよそ5時間程を場所確認に使い、終了して屋敷に戻ると昌幸は大まかな地図を書き出した
地図作りにおよそ3日費やしながらも、完成させた昌幸は
「伏兵を置くならば此処が良い。この一本道は敵も我々も通れる人数が限られる。ならば、此処に配置するのは」
頭の中でシミュレーションを繰り返しながら、配置する人員を決めていく。稀代の名将、真田喜兵衛昌幸が地の利を得た状態で敵を殲滅する為の策を準備している中
田村家の屋敷に百姓が飛び込んで来た。その百姓は門番の足軽に
「あ、あの!田村様とは違う旗を掲げてる武士がいっぱい見えました!あの山の向こう側の親戚の百姓が教えてくれました!」
そう報告する。報告を受けた足軽は
「ま、誠か!殿と真田様にお伝えせねば!伝えてくへて感謝する!おい、誰ぞ針生達が来たかもしれぬぞ!殿と真田様にお伝えしてくれ!残り八里程の距離に敵が来ておるぞ!」
他の足軽へ、事の次第を伝える。そんな慌ただしい大手門から去っていく百姓は
(頭。しっかりと針生達の事を伝えましたせ。柴田様が居なくても家臣の人達と田村家は大丈夫だろうと頭は言ってましたから、楽しみながら見てみたいと思います)
実は黒脛巾組の1人だった。こうして、昌幸の推測が見事に当たり、戦のスタートが近づいて来ていた。




