伊達政宗が話を聞いて下す沙汰と愚か者の悪手
「針生殿。落ち着いた様ですな?それでは、針生殿の兄が、此度の出陣を決断した理由を話してくだされ」
政宗の言葉に促された盛秋は、意を決して話し出す
「伊達様。兄の平三郎は、元々ちゃんと領主の務めを果たしておりました。ですが、元々矜持が高い人でもあったのです。そんな兄の元に今年の睦月に蘆名家の当主様から
「伊達家に居る織田右府様から、伊達家に臣従するか否かを問う文が蘆名家に届いたので、針生家と評定を開き、意見を聞きたい」との連絡が届くと兄は
「何と弱腰な!この様な輩が蘆名家当主とは、何とも情けない!蘆名家の当主といえば、十六代目の当主である従四位下修理大夫様の頃、
会津を含めた陸奥国南部で最大勢力になった家なのじゃぞ!それなのに、織田家の家臣ではなく伊達家の家臣になれじゃと!ふざけた事を!
この様な弱腰当主なぞ、儂は認めぬ!平四郎!此度の評定、お主か儂の代わりに出て話し合って来い!」と当主様の態度や伊達家様に臣従する事を拒絶する様になったのです
そこから、いつの間にか軍勢を集めていた様で、前月の終わり頃に、「儂は針生の家を出て、蘆名家当主になる!だから平四郎!お主が針生家の家督を継げ」と文を残して姿を眩ませていたのですが、
まさか、此度の様な愚行を。伊達様、このまま兄を討ち取る事が遅くなってしまったら、陸奥国は」
盛秋がそこまで言うと政宗は
「殺された平四郎殿の実家の常陸国の佐竹家が暴れ、陸奥国の国土は荒れ果てるじゃろう。だが、その佐竹家を味方に引き入れるべく、動いておる者がおる!
針生殿。針生殿も叔父である平之助殿も聞いた事がござらぬか?「柴田の鬼若子」と呼ばれる、若き名将の名を!
その「柴田の鬼若子」こと、柴田播磨守六三郎殿が、常陸国へ向かっておる!柴田殿ならば、この様な最悪の状況でも、きっと覆す事が出来る!
それ程の名将じゃ!だから針生殿!希望を捨てるな!切腹して責を取るつもりならば、このまま針生家は伊達家に仕えて、死ぬ気で戦え!
それから切腹するかどうかを決めたら良い!だが今は何もせずに死のうとするな!良いか!?」
考えられる最悪の状況と、その状況を回避する為に動いている六三郎の事を伝えると同時に、伊達家に臣従して今回の騒乱を鎮圧する為に死ぬ気で戦えと盛秋に
伝える
政宗の言葉に盛秋は
「分かり、申した。針生家はこれから伊達家家臣として、粉骨砕身の思いで働きます。これで、良かったのです、よね、叔父上」
臣従する決断をくだすと同時に叔父の盛義に声をかける。盛義は
「平四郎、いえ殿。これで良かったのです。現在の針生家の戦力は武士と百姓を合わせても四百以下ですから、このままでは平三郎の軍勢に何も出来ずに蹴散らされていたでしょう
なので、伊達様の家臣として働くと同時に、針生家を存続させる事を頑張りましょう。伊達様が教えてくださいました柴田様にお会いした事はありませぬが、佐竹家を味方に引き入れてくれるに違いありませぬ」
盛秋をフォローしながら、「六三郎ならやってくれる」と期待感を口にしていた。そんな盛義の言葉に政宗も
「そうじゃぞ針生殿!柴田殿は、元服前の八歳で初陣を経験しただけでなく、その戦に勝利した。更に元服後の初陣では敵の半分以下の軍勢で、敵の砦を陥落させただけでなく、敵を全滅させたのじゃ
その様な戦において、日の本随一の武将でありながら、他者に対して慈しむ仏の様な一面もある!その様な柴田殿だからこそ、佐竹家を味方に引き入れる!」
六三郎へ全幅の信頼がある事を伝える。それを聞いた盛秋は
「伊達様、いえ殿。それ程の信頼を柴田様にお持ちなのですな。分かりました、拙者も柴田様を信じたいと思います」
政宗と同じく六三郎を信じる事にした、こうして、針生家が伊達家に臣従して、
今回の騒乱は「針生家を出奔した愚か者達の暴走」と盛春達を切り捨てる大義名分が出来た。そんな針生家に捨てられた盛春達はと言うと
「殿!針生家ではなく、田村家から攻めるとの事ですが、一体何故なのですか?」
当初の攻撃目標だった針生家ではなく、田村家に攻撃目標を変更した事に家臣が疑問を呈していた。その家臣に盛春は
「お主も知っておるじゃろ!田村家の当主は身体の弱い青瓢箪である事を、じゃが兵達はそれなりの数が居る。現状、儂達の軍勢は一千五百程じゃ
だからこそ、田村家を征圧してから針生家を攻めて、数の不安を解消して、他の家も征圧していく!そして最期に佐竹家を使いながら、伊達家を滅ぼす!
田村家を攻めるのは、最初の一手じゃ!あの様な青瓢箪の若造なんぞ、一捻りじゃ!くっくっく、さあて、それでは出陣準備に取り掛かれ!」
戦力を増やす事が目的である事を説明し、説明を終えると、出陣準備の命令を出す
「ははっ!」
家臣も命令を聞くと、準備に取り掛かった。まさかの田村家が最初の攻撃目標に変更となった
しかし、盛春達は田村家にはこの世界線で日の本随一の軍勢の柴田家の赤備えが居て、真田喜兵衛昌幸と言う、とてつもない知恵者が控えている事を知らないからこそ、後々軍勢が大ダメージを受ける事を、この時はまだ知らなかった。




