若き頃の話を終えた勝家と出張終わりが見えた六三郎
「と、まあ。これが儂が元服して間もない頃の話じゃな。今から六十年前の話になる。何か聞きたい事はあるか?」
勝家は若かりし頃の話を終えると、周囲に居た面々に話を振る。面々の中で、最初に質問したのは秀吉だった
「親父殿のお父上である土佐守様は、当時まだ二歳だった大殿が天下統一を成し遂げるとその時点で分かっていたのですな!見事な御慧眼としか言えませぬ!
それでですが、親父殿。失礼ながら土佐守様は、親父殿が何歳の時に身罷られたのですか?話を聞くに、親父殿が十代の頃、尾張国は混乱期で弾正忠家による統一はまだ先に思えましたが」
秀吉の質問に勝家は
「まあ、父上は弾正忠家による尾張国統一の直前に、病で亡くなったから、儂が三十歳を少し超えたあたりじゃな。色々と口うるさい父ではあったが、
もしも六三郎の初陣や元服の際に生きておったら、儂以上に口うるさく言っておったかもしれぬな」
「義勝が生きていたら、自分以上に六三郎を怒っていたかもしれない」とその場に居た全員から納得する内容を話す
勝家の話を聞いていた市から
「権六様。六三郎が戻って来ましたら、一度尾張国へ行って、権六様の両親の墓に手を合わせたいのですがよろしいでしょうか?
どうせならば、六三郎や道乃達は勿論、甲六郎達も連れて手を合わせたいと思っております」
「一回、義勝や家乃の墓に家族で行こう」と提案された。市の言葉に勝家は
「そうじゃな。六三郎が六歳の時に領地変更してから一度も墓参りをしておらぬからのう。情勢が落ち着いたら、殿と大殿に申し出てみよう」
「六三郎が帰って来て、情勢が落ち着いていたら、信忠と信長にお願いしてみる」と答えた。こうして、この日はもう夜も遅かったので、毛利家一同と秀吉達は、柴田家屋敷で寝泊まりする事になった
同日夜
全員か寝静まった頃、勝家は自室の中で1人ある文に目を通すと
「父上。そろそろ、初めてお会いした時に吉法師様が仰られた「戦無き日の本」が見えつつあります。その壮大な天下統一という大仕事に、
拙者の倅、つまり父上の孫が見事な働きを見せております。拙者が四十五歳の時に授かった倅ですが、
甘やかさないで育てた結果、周りから「日の本随一の武将」と呼ばれておりますぞ。親として、嬉しいかぎりにございます」
文の主は、勝家の父の義勝だった様で、勝家は義勝に対して、六三郎の事を誇らしげに語っていた。そんな中で勝家は
「父上、拙者も父上が亡くなった歳を超えて古希を迎えております。六三郎のおかげで、出陣する事は無くなりました
だからこそ、父上が亡くなる前に拙者に伝えた「柴田家の始まりに関する秘密」を、六三郎に話す事をお許しくだされ。六三郎ならば、たとえ秘密が露見しても
「自身は柴田家の人間だ!」と言って、周りの者達を黙らせるでしょう。来年か再来年になると思いますが
嫁と六三郎と六三郎より下の子達と孫達を連れて、父上と母上の眠る円盛寺に行きますぞ。間もなく、間もなく戦が無くなるのです
改めてですが父上、拙者も年寄りになりました。数年もしないうちに、そちらへ逝くかもしれませぬ。その時は酒でも呑みましょう」
「柴田家の始まりに関する秘密」と言う、気になる言葉を口にした勝家だったが、市にも聞かせていない辺り、とても重大な内容の様だが勝家は
「六三郎が帰って来てからじゃな。それまでは、誰にも言わぬ」
そう決断し、寝床に入った。父の勝家が終活の準備の様な動きをしていた頃、陸奥国の田村家で働いている六三郎はと言うと
天正二十三年(1595年)九月十日
陸奥国 田村家屋敷
「殿!遂に、遂に!やや子を授かりました!」
「清!誠か!遂に、遂に!儂にも子が出来るのか!何とも嬉しいかぎりじゃ!」
「遂に!殿にお子が!」
「ご先代様が身罷られて十年!遂に!」
「何年ぶりの慶事じゃ、誠に嬉しい!」
皆さんおはようございます。現在、朝から田村家当主夫婦の懐妊発表に沸き立つ大広間に居ります柴田六三郎です
いやあ、4月の頭頃に田村家当主の次郎殿の食事改善から始まり、六月になったら食事を人並みに食える様になったので、筋トレを少しずつやらせてみたら
一気にハマった様で、今じゃ出会った頃の青白い顔が嘘の様な細マッチョになっております。そこから筋肉がついて自信もついて、子作りを頑張った結果、
清姫さんの妊娠と言う事です。やっぱりまだ二十代半ばだからこそ、妊娠も早かったんだろうな。これからの事を考えると、清姫さんが安定期に入った場合
俺は帰って良いと思うんだよねえ。その為に、少しばかり悪知恵を働かそうじゃないか!
「次郎殿、清姫殿。おめでとうございます」
「柴田様!柴田様が拙者の身体を鍛えてくださったからです!誠に、誠に、どれ程の御礼を申し上げたら良いか!」
「私からも、御礼をどれ程申し上げたら良いか!柴田様が殿を立派な殿方に鍛えてくださったからです!」
六三郎が言葉をかけると、2人は六三郎に感謝を述べていた。そんな2人に六三郎は
「お二人が頑張った結果です。拙者はあくまで手助けしたに過ぎませぬ。それではお二人、特に清姫殿に気をつけていただきたい事を、いくつかお伝えしておきます」
そう言って、寧々や比左に対して教えた「妊婦が気をつける事とやってはいけない事」を清姫に教えると
「な、なんと!その様な事が!わ、分かりました!殿、私は子が産まれてくるまで、化粧をしませんし、食事も飲み物も徹底的に気をつけます!身体も冷やしません!
なので殿も、体調に気をつけてください!この子が男児ならば嫡男として、田村家存続の希望になるのですから!」
「勿論じゃ!だが清、そなたの身体が最優先じゃ!だから、皆!清の身の回りの事、しっかりと気をつけてくれ!」
「「ははっ!」」
「次郎殿、清姫殿。万が一を考えまして、次郎殿の姉君が嫁いでおられる伊達家に産婆を派遣していただく等の協力を要請すべきかと。羽柴様も北条家も主家に産婆の派遣を要請しておりましたので」
「それは良き事をお聞きしましたぞ!早速、姉上に文を送りたいと思います!」
2人は新たな決意を固め、家臣の皆にも清姫の事を気をつけてくれと命令する。こうして、六三郎は少しばかり肩の荷が降りた気分だったが、六三郎が忘れている事として、
「楽をしようとする事は、次の仕事が激務になるフラグである」と言う事なのだが、本人は勿論、周りの者達もそんな事は知る由も無かった。




