有能な家臣は改善策を出す
天正二十三年(1595年)三月四日
近江屋 安土城
「五郎左!前日に頼んだ権六への文は書けたか?何やら一日待ってくれと言っておったが、どうじゃ?」
信忠は、一日待った結果の文の内容を長秀に確認すると、長秀は
「殿。一日待っていただいて申し訳ありませぬが、今、殿を播磨国に行かせる訳にはいきませぬ!」
信忠に「今は播磨国に行かないでくれ!」と伝える。長秀の言葉に信忠は
「五郎左!どう言う意味じゃ!まさか、権六が謀反を考えておると言うのか!?」
勝家が謀反を考えているのか?と、怒声で質問する。そんな状態の信忠に対し、長秀は
「その様なつもりはありませぬ!拙者が申し上げたい事は「大殿と殿の両者が安土城に居ない状況が良くない」という事です!」
「信長と信忠の2人が居ない状況を避ける為」と具体的に説明する。長秀の言葉に信忠は
「どう言う事じゃ?畿内に反抗勢力は居ないではないか!本願寺とも和睦し、京の良き場所に本拠地を移しただけでなく、
顕如殿から、考えの違う坊主共は追放したと教えてもらったのじゃぞ?その様な畿内で、何を心配する事があるのじゃ?」
畿内は安全だと具体的な理由を含めて、長秀に伝える。しかし長秀は
「殿。その追放された者達が徒党を組んでいる可能性もあるのです!だからこそ、大殿が陸奥国に居て今すぐに戻る事が出来ない現状で、
殿に何かあってはならないのです!万が一の可能性はひとつでも潰しておきたいのです!」
信忠の身を案じている旨を伝える
「五郎左よ、儂の身を案じてくれる事は分かる。じゃが、あまりにも考え過ぎではないか?」
しかし信忠は、長秀に考え過ぎではないかと確認をする。それでも長秀は引かずに
「殿。大殿が浅井家と朝倉家に挟撃された金ヶ崎の撤退戦の話は聞いた事があると思いますが、
あの時の大殿は、お市様が嫁いでいた浅井家は絶対に裏切らないと思っていたのに、裏切られたのです
だからこそ殿にも何かしらの危険が起きる可能性もあるのです!これだけは曲げられませぬ!」
この世界線の信長で、最も危険な状況であった「金ヶ崎の退き口」を具体例として信忠に話す
父である信長の人生最大の危機の話を聞くと、流石に信忠も納得した様で
「金ヶ崎の撤退戦の話を聞くと、確かに納得出来る。それでは、此度は文を届けるだけにしておいた方が良いか?」
冷静になり、長秀に今回は行かない方針にする事を伝えると長秀は
「殿。殿が動けないのであれば、次三郎様と吉姫に安土城に来てもらうのはどうでしょうか?それこそ、吉姫の父の藤吉郎に頼んで道中の護衛も兼ねると同時に
もしも、次三郎様が吉姫を嫁に迎えたいと思っているのであれば、殿と藤吉郎での話し合いをそのまま安土城でしても良いと思いますが」
出来うる限り現実的な改善策を提案する。長秀の提案に信忠は
「ふむ。確かにその方が話が早いか。じゃが藤吉郎にこの事を伝えるにしても、どの様に伝えるのじゃ?直接伝えては、話が要らぬ方向に拗れてしまいそうじゃが」
長秀の提案を受け入れる事を示しつつ秀吉へ、どの様に伝えるのかで悩みだす。そんな信忠に長秀は
「殿。此処は権六とお市様を通じて、藤吉郎を動かしてはどうでしょうか?藤吉郎は権六と六三郎の二代に渡り、関係は強いです。だからこそ、理不尽な頼みでなければ聞くはずです」
「柴田家と秀吉の関係なら大丈夫」と、信忠に伝えると、信忠は
「う〜む。六三郎に家督を譲って楽隠居したはずの権六や叔母上を働かせるのは忍びないが、それが確実な手か」
他に方法が思い浮かばない事に、しばらく悩んだ結果
「五郎左の提案で行こう!権六へ件の内容を書いた文を届けてくれ!それで権六に藤吉郎を動かしてもらおう!儂からだと命令になるが、権六からだと頼み事になる!それで進めてくれ!」
「ははっ!」
こうして、長秀の頑張りにより信長と信忠の両者が安土城から居なくなると言う最悪の事態の可能性を潰す事が出来た
そこからは信忠が急いで勝家への文を書いて、家臣に早馬で届けさせた
天正二十三年(1595年)三月十五日
播磨国 柴田家屋敷
「大殿!内府様からの文が届きました!」
「殿からじゃと?また、六三郎の奴が何かやらかしたのか?」
家臣が早馬でかなり頑張ったのか、10日程で信忠の文は勝家に届けられた。しかし勝家は、六三郎がまた何かやらかしたのかと疑っていた。そんな勝家に市が
「権六様、六三郎は兄上と共に陸奥国に居るのですから、勘九郎殿に対して何かやらかす事は多分、不可能です。だから先ずは文を読みましょう」
「少し不安だけど六三郎は何もやらかしてないはず」と勝家をフォローした。フォローされた勝家は
「そうじゃな。とりあえず六三郎が何もやらかしてない事を祈ろう」
気を取り直して
「先ずは読んでみよう。どれ、「権六へ、いきなりの文で驚いたじゃろう。安土城の勘九郎じゃ!前置き無しで伝えるが、実は儂の長男の次三郎が藤吉郎の長女の吉姫の事が気になって仕方ないそうじゃ!
そこで、儂としては命令の形を取りたくないので、権六と市叔母上には申し訳ないが、藤吉郎を柴田家に呼んで、次三郎と吉姫を安土城に連れて来る様、頼んでくれぬか?
このまま次三郎が吉姫を嫁に迎えたいと言った場合、藤吉郎と話し合いをしたいと思っておるのじゃが、先程も言ったが、儂の言葉だと命令になってしまう!
だからこそ、権六や市叔母上の頼み事としてもらいたい!やり方は任せる!よろしく頼む!」との事じゃが
市、殿の親心じゃ。やるべき事として納得してくれるな?」
文を読んだ勝家は、念の為に市に確認する。市は
「あら、権六様。私は藤吉郎が織田家の為に働く分にはとやかく言いませんよ。なので、勘九郎殿の希望を叶えてやりましょう」
勝家に「信忠の言う通りにやろう」と伝える。それを聞いた勝家は
「そう言ってくれて助かる。それでは文を」
そう言って文を書き始めようとすると
「大殿!羽柴様からの文です!」
秀吉からの文が届く。その知らせに勝家は
「恐らく同じ内容じゃろうな」
文を受け取り、目を通すと
「やはり。備前国に居るなら話は早い。急いで文を書いて届けさせよう!」
そう言って、文を書き始める。家督を六三郎に譲って早10年、今年で75歳になるのに勝家には、全く楽隠居出来る予感は無かった。




