前門の虎と後門の鬼
元亀三年(1572年)十二月二十二日
遠江国 浜松城門前
「まだか。まだ武田の殿軍は見えておるのか?」
家康を始めとする徳川家の面々は直ぐにでも出陣出来る様に準備を終えていた。既に馬に乗っており、物見からの報告を待ちこがれていた
そして間もなく
「ご報告致します。武田の殿軍が城より四分の一里程の距離になりました」
「よし!皆、静かに出陣じゃ!付かず離れずの距離を保て。三方ヶ原までは我慢じゃ」
「「ははっ!!」」
こうして徳川方も出陣した。焦る心を押さえつける様にゆっくりと武田の一軍を追っていた
そんな徳川方の動きを武田の物見は信玄に逐一報告していた
「徳川が出陣したか。ならば徳川の殿軍が城から半里離れたら出陣する様、馬場に伝えよ」
「ははっ」
信玄は物見にそう指示を出すと、物見は急いで二軍の元に走った
「馬場様。お館様より「徳川の殿軍が城から半里離れたら出陣せよ」との命令にございます」
「うむ。忝い!お館様より徳川を挟撃する重要な二軍の大将を任されたのじゃ!気張らねばいかぬ!お主達物見も重要な役割じゃ。出陣の合図を頼むぞ」
「ははっ。では、元の場所に戻ります」
そう言って再び物見は元の場所に戻った
そして、一刻程経過すると
「馬場様!合図の狼煙が」
「うむ。皆、徳川の城を守る兵の事は気に止めずに徳川本体を叩く事のみを考えよ」
「ははっ」
「出陣じゃ!」
鬼美濃こと馬場信春率いる二軍の出陣を家康達は知らないまま、決戦の時が近づいて来ていた。




