大殿の力技と戦の準備
天正二十一年(1593年)七月二十二日
武蔵国 忍城
「右府様。誠に申し訳ないのですが、娘を、甲斐を嗜めてもらえませぬか?甲斐が原殿に惚れたと言えど、特に知らぬ男に嫁に出すのは、あまりにも」
皆さんおはようございます。朝から忍城の大広間で、成田氏長さんが、大殿へ「甲斐姫を思い止まらせてくれ!」と頼んでいる現場に居る柴田六三郎です
うん、何だか前世の恋愛ドラマの中の「娘が無職のヤンキーに惚れて、結婚すると言っているのを止めようと必死な父親」に氏長さんが見えております
そうなると、新左衛門は無職のヤンキー男で、その新左衛門の主君の俺は、新左衛門に飯を喰わせたり、遊ぶ金を与えてるヤクザ者かマフィアの下っ端で、
大殿はヤクザの組長かマフィアのボスじゃないか!平成令和のドラマの世界では、甲斐姫の為に新左衛門が真面目に働いてハッピーエンドか、
甲斐姫が新左衛門の子を妊娠した事を知って、真面目に働こうとした矢先に、過去の因縁で殺される。みたいな展開だろうけど、この戦国時代でそれは無いからなあ
かと言って、俺が口出ししても良いものか?とも思うし、この件は大殿から話を振られないかぎり黙っておこう!
六三郎の考えが伝わったのか、信長は氏直へ
「のう、成田新十郎よ。確かに会って数日の男に娘を奪われるのは、心苦しいかもしれぬ。だが、此度はお主の娘の甲斐姫が、新左衛門に惚れたのであろう?
新左衛門は、そこにいる柴田播磨守六三郎の家臣として、二十年も長きに渡り戦場を渡り歩いておる!その期間で、多くの武功を挙げておる
それに、もしも暮らしの面で心配ならば、甲斐姫本人に聞いてみたら良い!新左衛門の領地が一万石くらいで良いのかを!
甲斐姫、お主は新左衛門の嫁になった場合、新左衛門の領地が一万石程であっても、新左衛門と共に暮らしていき、子を育てる覚悟はあるか?」
新左衛門のこれまでを説明し、甲斐姫へ新左衛門へ嫁入りする覚悟を問うと、甲斐姫は
「右府様!そして父上!勿論です!私は、新左衛門様の様に、武芸において手加減をせず、私を一人の武辺者として接してくださっただけでなく
私に「父上を心配させるな!」とも仰ってくださいました。ただの粗野な荒くれ者ならば、この様な言葉は出ませぬ。それに、それに、私に手を差し出してくださった時のお顔の見目麗しさが、もう!もう!!
すいません、取り乱してしまいました。改めてですが、そんな新左衛門様と暮らしながら、子を育てていくのに、
ある程度の領地は必要かもしれませぬ。ですが、一万石もあれば貧しい暮らしはしないでしょう!
それに、数日前に伊達様、佐竹様、小田様が柴田様との縁を強くする為に、此度出陣した事を聞いておりますので、
柴田様がそれ程に他者に慕われている主君であるのですから、きっと新左衛門様に苦しい暮らしをさせないでしょう。ですよね、柴田様?」
新左衛門に惚れた理由と覚悟を語った後で、六三郎に無茶振りをして来た。油断していた六三郎は
(何で、俺に振るんですか?新左衛門が成田家に取られなければ、俺はとやかく言うつもりはなかったのに!)
内心、焦りが出ていたが、そこは約20年の武将人生で培った腹芸で誤魔化す
「ええ。それは勿論。新左衛門を含めて、赤備えの皆、そして本拠地に居る家臣は全員、拙者の家族ですから!家族か苦しい暮らしをするなど、あってはなりませぬ」
六三郎の言葉に信長が
「成田新十郎よ。六三郎は親父が儂の妹と再婚した事で、織田家の一門衆になった。こ奴は勿論、新左衛門達家臣も、休みなく働く信頼出来る者達じゃ
なので、六三郎の言葉と儂の顔を立てるとして、甲斐姫と新左衛門の婚姻を認めてくれぬか?」
まさかの頭を下げて、氏長に頼んで来た。天下人に頭を下げられては氏長も
「わ、分かりました!分かりましたから、右府様!頭をお上げくだされ!」
慌てて婚姻を了承しつつ、信長に頭を上げてもらう。氏長に言われた信長は笑顔で
「そうか!認めてくれるか!誠に感謝するぞ!」
氏長の手を握って、感謝を述べる。こうして、信長の力技で甲斐姫と新左衛門の婚姻は成立した
翌日
「さて!六三郎と諸将よ、この三日間で色々とあったが、本来の戦の話をしよう!そろそろ松田の軍勢が忍城に近づいておるじゃろう!
そこでじゃが、我々の軍勢は三万を超えておる!はっきり言って大軍じゃ!その大軍が忍城から出陣していては時間ばかりかかる!
なので、この忍城までの道に軍勢を忍ばせて、忍城には成田家しか居ないと松田を油断させておきたい!
つまり、これから忍城の城下の者達の側に軍勢を移動させるか、松田の軍勢から身を隠す様に布陣する!
なので、忍城の城下へ行くとしよう!これより先、多少なりとも田畑を駄目にしてしまう事も含めての挨拶じゃ!成田新十郎よ、家臣を案内役として貸してくれぬか?」
信長は松田を騙して迎え撃つ為に、城下の百姓達へ挨拶をしに行くと宣言した。信長のいきなりの発言だったが
「成程、織田家ではその様に前々から準備しておくのか」
「田畑が荒れる事を事前に説明して、百姓達を逃しておくとは」
「柴田様の主君ですから、我々では直前になってからやる事を最初の段階てやるのですな」
諸将は「六三郎の主君だから」と言う理由で納得していた。こうして、やっと戦準備がスタートした。




