その戦が一方的に進んだ結果
「殿!た、大変です!殿軍が上杉軍に急襲されました!」
「なんじゃと!?何故、上杉が上野国に居る?」
「分かりませぬ!ですが、風祭殿を始めとした殿軍は、壊滅しております!」
上杉軍の急襲の知らせを受けた松田は、
(もう少し進めば、開けたところに出る。そこで上杉に反撃する!)
軍勢を展開出来る場所に出て、上杉軍と戦う事を決めた
「皆!この先の開けた場所で上杉に反撃じゃ!そこまで」
その場所まで持ち堪える様に命令しようとするが
「殿!上杉の軍勢は、止まりませぬ!我々との距離も縮まっております!このままでは!」
上杉軍の勢いは止まらず、松田軍の後方を蹴散らしていく。その上杉軍の先頭に立っていたのは
「どけどけ!!松田の頸を取って、早う殿の元へ戻るのじゃ!」
まさかの銀次郎だった。いつもの赤備えの甲冑を着て、暴れ回っていた銀次郎を見た松田の家臣達は
「ひ、ひいい!鬼じゃあ!」
「赤鬼が居る!逃げろ!」
「人喰い鬼じゃあ!逃げ」
「ぎゃあああ!」
恐怖のあまり銀次郎を鬼と勘違いし、赤鬼や人喰い鬼と勘違いしたり、足が竦んで動くなくなって討ち取られる等、後方は壊滅状態になっていた
この知らせを聞いた松田は
「ええい!上杉には人ならざる者が居るのか?このままでは全滅の可能性もある!仕方ない!このまま撤退じゃ!皆に伝えよ!」
撤退を決意する。家臣に撤退命令を伝えた松田は、一部の者を連れ、先に撤退する。残りの者達も松田に続いて移動速度を上げる
その結果、
「くそお!全滅させられなかったか!」
松田軍はなんとか逃げ切り、銀次郎はとても悔しがっていた。しかし、上杉軍の家臣達は
「土屋殿、ひとりで三十人くらい討ち取っていたよな?」
「それなのにも関わらず、あの悔しがり様。何とも志の高い」
「やはり、柴田家の武士は戦において日の本随一じゃな」
「しかも、まったく疲れた様子が無いとは。
銀次郎の事を、意識の高い超人の様に見ていた。それは景勝と兼続も同じ様で
「平八郎、土屋殿の様な働きを上杉家の武士達がひとりでも多く出来る様になれば、更に上杉家は強くなるじゃろうな」
「殿。千里の道も一歩からです。少しずつ、皆を屈強な体躯に鍛えて、一騎当千の軍勢を作っていきましょう」
赤備え達を超人だらけと見ていた。そんな中で景勝が兼続へ
「さて、とりあえず松田の軍勢を上野国の北部へ撤退させたと見てよいじゃろう
そこでじゃ、北条家との不要な戦を避ける為に、ここから南東に進んだ先にある館林城へ行って、挨拶をしようと思う。平八郎、皆へ伝えてくれ」
「ははっ!」
館林城へ進む事を伝える様、命令し、兼続も即座に動く。そして、全員に命令が伝わると
「「「「ははっ!」」」」
上杉軍は館林城へ進みだす。銀次郎以外は普通の人間なので、普通の速さで進みながら、館林城へ到着する
天正二十一年(1593年)五月十日
上野国 館林城
「上杉越後守殿!よくぞ来てくださった!館林城城主の北条助五郎と申す!
「上杉従五位下越後守喜平次にございます。三国峠の周囲で、松田の軍勢を撤退に追い込み、一千人程討ち取りましたが、
松田の軍勢は上野国の北部にて、まだ残存しております。とりあえず我々は、義兄の柴田播磨守殿の軍勢と合流させていただきます」
皆さんこんにちは。館林城に上杉家が銀次郎を連れて登場した事に驚いております柴田六三郎です
あの〜、俺は銀次郎に「上杉家に文を届けて、そこから文をもらってくれ」と命令したのですが、何故、文ではなく、上杉家そのものが来ているのですか?
そんな俺の考えが顔に出ていたのか、喜平次殿から
「六三郎殿。お久しぶりにございます。土屋殿に命令した内容と違い、上杉家そのものが来た事に驚いているでしょう
ですが、その事で土屋殿を攻めないでくだされ。此度の出陣は、茶々の希望なのです」
という事を言われました。俺がその言葉の意味を考えていると、今度は直江兼続から
「柴田様。柴田様の妹君で殿の御正室の茶々様は、武田虎次郎様の許嫁である妹君の江姫様が嫁げる為にと、殿へ出陣をお頼みしたのです」
具体的な説明をしてくれました。ああ、そう言う事か。なんだかんだで茶々はやっぱりお姉ちゃんだな
「そう言う事だったか。相変わらずのお転婆じゃが、これからも茶々の事を頼むぞ!喜平次殿」
俺がそう言うと、喜平次殿は姿勢を正して
「その事ですが、六三郎殿。いえ、義兄上。実は前月に茶々の懐妊が判明しました!なので、この場で報告させていただきます」
茶々の妊娠報告をしてくれた。その話を聞いて俺は
「誠か!なんとめでたい!知らせるのが遅くなったが、儂も4年前に嫡男が産まれて、3年前に長女が、2年前に次女が産まれたぞ!まあ、お役目が多いから
中々会う事は出来ないがな!それよりもじゃ!喜平次殿、おめでとう!茶々が懐妊したのじゃから、あまり喜平次殿に無理をさせる事は出来ぬな」
六三郎はそこまで言うと、少し考えて
「助五郎殿!お願いしたい事が」
何か思いついた様で、助五郎にお願いをする。助五郎は
「どの様な事でしょうか?」
恐る恐る、六三郎に聞くと、六三郎は
「助五郎殿!松田の軍勢を、明日にでも叩きのめしに行きたく!ですが我々は、上野国の地理に疎いので、案内役を受けてくださる家臣の方を貸してくだされ!」
「松田を叩きに出陣したいから案内役を貸してくれ!」
と助五郎に頼む。その言葉に助五郎は
「六三郎殿!その様な大事な事は、我々も出陣させてくだされ!松田という北条家の恥は北条家で始末しないといけませぬ!」
「自分達も出陣する!」と宣言する。宣言を聞いた六三郎は、
「では、出陣準備を兼ねながら軍議と行きましょう。武田家も上杉家も軍議に出てもらうぞ、喜平次殿」
「ははっ!」
こうして、上杉家が松田を急襲した事により、六三郎が出陣を決断した。




