高代のケアに行く六三郎と開戦する上杉と松田
「ほう。六三郎殿によって、虎次郎殿が保護され、仁科殿は戦を回避したのですか!なんとも運命的な縁ですな」
「拙者も、そう思います。それに加えて、六三郎殿は武田家だけでなく、甲斐国の民の為に国土の復興の陣頭指揮を取ってくださり、
そこから甲斐国へ銭が落ちる様に、米を作れる場所が少ない甲斐国で作れる南蛮人が好むワインという酒の原材料である
葡萄という果物を甲斐国全体で育てる様に計画し、領民達が管理と育成を行ないながら、
杜氏達にワインの作り方を教えて、最終的に甲斐国の人間だけでワインを作り、出荷まで出来る様に順序立ててくれましたかから、誠に感謝しかありませぬ!」
「なんと!幻庵翁の文のとおり、六三郎殿は他者の為に働く若武者なのですな!いやあ、源三兄上が生まれたばかりの娘を六三郎殿の嫁に!と推挙する理由が分かる話ですな!」
「六三郎殿の事を、それ程に高く評していただけるのは、我々武田家も嬉しいかぎりです!」
助五郎と虎次郎と五郎が、六三郎との昔話で盛り上がっていた頃、六三郎は高代の部屋の前に来ていた
「高代!儂じゃ!入るぞ!」
六三郎は声をかけると、高代の返事を聞かずに部屋に入る。中には侍女と高代が居たが、六三郎は部屋に入るなり、襖を閉めると
「高代!怖い思いをさせて、済まなかった!」
高代に平伏し、謝罪した。その様子に高代は
「六三郎様!おやめ下さい!六三郎様は何も悪くありませぬ!」
六三郎を止めようとしたが、六三郎は
「いや!儂が高代を鉢形城へ呼んだ事が原因じゃ!だからこそ、この様に頭を下げて詫びるしか出来ぬ!」
高代への詫びの意味を込めて、頭を下げていた。その六三郎の言葉に高代は
「六三郎様。お気持ちは充分な程いただきました。なので、頭をお上げください」
六三郎に頭を上げてくれと頼み、六三郎も言われたとおり、頭を上げる。そして、そこから高代は
「六三郎様。徳川家の於義伊様が助けてくださったので、事なきを得ました
そこでです!於義伊様の縁談を成立させましょう!それこそが、於義伊様への恩返しだと、私は思います!」
自身を助けてくれた於義伊の縁談を成立させる事で、恩返しとしよう!と六三郎に提案する。高代の提案に六三郎は
「それは良き提案じゃが、於義伊殿はなんだかんだで徳川家の次男じゃ。生半可な家の娘では、徳川様が納得しないと思うのじゃが。そもそも、相手は見つかっておるのか?」
高代の提案を受け入れつつも、相手は居るのか?と、高代に問う。すると高代は
「実は、於義伊様には良き中の姫君が既に居るのですよ?六三郎様が知らないだけで。ですよね、皆」
於義伊に相手が居る事を六三郎に伝え、更に侍女の皆にも確認すると、話を振られた侍女達は
「はい。高代様の仰るとおりです」
「甲斐国での復興作業では、その姫様もお手伝いしておりましたから」
「でも、於義伊様は元服前である事を気にしておられたのでしょうか、そう言った事は考えてない様な感じで働いてありましたから」
於義伊と件の姫の事を話す。その意味深な内容に六三郎は
(マジか!まあ、於義伊くんも数えで20歳、実年齢は19歳だし、この時代なら嫁さん候補が居てもおかしくないか!じゃあ、高代さんを助けてくれたお礼に、
縁談ジジイになって、於義伊くんの嫁取りを成立させないとな!虎次郎くんに加えて於義伊くんも、嫁取りの為の戦になったけど、まあ、それくらいは良いだろう!)
自分で自分の仕事量を増やしている事を忘れる程、頑張る決意を固めた。そして、
「高代の希望を出来るかぎり、叶えよう。それでじゃが、その於義伊殿と良き中の姫君は誰じゃ?」
六三郎は高代に相手が誰かを聞くと、高代から
「それは、、、◯◯姫です」
名前を教えてもらい
「成程、そう言う事ならば、確かに!高代、改めて怖い思いをさせて、申し訳ない!この戦を出来るかぎり早く終わらせる事は当然として、
虎次郎殿の元服と江の嫁入り、そして恐らく徳川様は於義伊殿を元服させるだろうから、その準備と嫁取り、やる事は多いが、ひとつずつ成し遂げなければな!
それでは高代、また評定に参加してくる!何かあったら、遠慮なく呼んでくれ!」
そう言うと六三郎は部屋から出て行った。六三郎がほんの少しだけとはいえ、高代のケアを終えた頃、
天正二十一年(1593年)五月一日
越後国 某所
越後国と関東を結ぶ要衝のひとつである三国峠からの進軍ルートを選択した上杉軍は、三国峠まで目と鼻の距離まで来ていた。そこで兼続より景勝へ
「殿!三国峠まで残り半里を切りました。軒猿からの情報によりますと、松田とやらの軍勢は一万以下で、三国峠とは逆の方向に進軍しているとの事です!」
松田の軍勢の近況報告がされていた。その報告を聞いた景勝は
「今ならば、松田の後ろから攻撃出来るな。土屋殿!六三郎殿に会う前に、負担を減らしますぞ!!」
「是非とも!」
銀次郎へ開戦を伝えて、銀次郎も了承する。そして景勝は
「皆!静かに早く進み、松田達を叩く!声は松田達を見つけてからじゃ!分かった者は、右手を天に突き上げよ!」
静かに進む決断を下し、家臣達は言われたとおりに右手を天に突き上げた。それを確認した景勝は
「それでは出陣じゃ」
静かに出陣の号令を発した。上杉軍が静かに、そして早く進んでいる頃、松田の軍勢はと言うと
「風祭よ、三国峠とは反対に進んで、更に軍勢を増やすと進言したお主の策、中々見事な策じゃ!これて我々の軍勢は九千人に増えた!此度の戦に勝利した暁には
お主にも、それなりの褒美を取らせるからな!期待しておけ!はっはっは!」
「楽しみにしております。それでは、拙者は殿軍に戻りますので、失礼」
「うむ!気をつけよ!」
風魔衆の頭領、風魔小太郎の弟である風魔小次郎が、風祭と言う名の家臣に扮し、知恵と口の巧みさで、松田の軍勢を館林城は勿論、三国峠からも遠ざける事に成功していた
そして、殿軍に戻って行ったが、その殿軍は合計100人になるが全員風魔衆だった。その殿軍に戻った小次郎は
(兄上!幻庵様!もう、これ以上は無理です!上杉の軍勢も見つけました!戦に巻き込まれない為にも、これより先は撤退します!)
松田の軍勢から離れる事を決めた。そして、小次郎達が姿を消して間もなく
「居たぞ!松田の軍勢じゃあ!」
「叩きのめしてしまえ!」
「徹底的に叩け!!」
「「「「おおおお!」」」」
上杉軍が松田軍の本来の殿軍を見つけた。小次郎達が知らせてくれると余裕ぶっていた結果、松田軍の殿軍は壊滅した
ここから、上杉軍と松田軍の戦が始まる。




