弟が兄に伝えた結果
信雄のやらかしのせいで精魂尽き果てた信包は、全てを投げ出して、尾張国へ帰りたくなっていた。しかし、若い頃から共に戦場に立っている、兄の信長が
戦場からの途中離脱をとても嫌う事を知っている為、信雄のやらかしを報告すると共に、信雄の事をどうにかしてくれとの意味を込めて、信長への文を書き、
自身の軍勢に潜入している信長の手の者に渡して、その日は、酒も呑まずにそのまま眠りについた
その信包の文を受け取った信長はと言うと
同日夜
武蔵国 某所
「大殿。三十郎様からの文にございます」
「うむ。この様な夜中に三十郎が文を寄越すとは、普通ならば、あり得ない事が起きたのじゃろうな。どれ」
信包へ食料を渡してから、足軽達は勿論、丹羽長秀の嫡男の長重と共に出陣していた信長は、鉢形城の近くに本陣を構えていた
そこで信包からの文を見た信長は
「あの阿呆は、戦場での愚行よりも、最悪な愚行を犯したか。救いようの無い阿呆としか言えぬ
しかし、北条家の面々は三介を斬首にしなかった事に関しては、誠に感謝しかないのう
しかし、六三郎憎しで高代を手篭めにしようとは。この様な事が起きた原因が、三介に嫁取りをさせなかった事だとしたら、儂の失策じゃ
しかし、今はそれよりもじゃ。どうにかして三十郎の負担を軽くしてやりたい。二郎三郎はとやかく言わぬじゃろう。北条家の面々も冷静さを持っておる。と、なると問題は」
信長がそこまで口にすると、側に居た長重は
「武田家の面々。ですな?」
信長にそう伝える。長重の考えを聞いた信長は
「流石、五郎左の倅じゃな。親父譲りの賢さじゃな。いかにも、現在の鉢形城の不安要素は武田家の面々じゃ!はっきりと申すが、武田家の面々にとって
六三郎は甲斐国を復興させ、暮らしやすくしただけでなく、銭を増やした神や仏の様な存在じゃ
その六三郎の身内、それも嫁に手を出すという愚行を犯した三介に対して、
武田家の面々は絶対に許さぬじゃろう!それを考えると、武田家の面々を六三郎の元へ行かせたほうが良いか」
信長がそこまで言うと、長重は
「大殿。武田家の面々を六三郎殿の元へ行かせるのであれば、高代殿も共に六三郎殿の元へ行かせた方が良いのではないでしょうか?
高代殿も六三郎殿の側に居た方が、安心出来ると思うのですが。それこそ、武田家の面々が護衛する形を取るのも、ありかと」
高代と武田家の面々を館林城へ移動させる事を提案する。その提案に信長は
「ふむ。確かに、その案ならば鉢形城内の緊張感も和らぐのう。それはひいては、三十郎の負担も減る事に繋がる。それで行こう!今から三十郎への文を書く!明日の朝一に三十郎へ渡してまいれ!」
「ははっ!」
採用する事を決め、急いで文を書き、明日に備える事にした。そして翌日
天正二十一年(1593年)四月十一日
武蔵国 鉢形城
「兄上。この策ならば、拙者の胃も少しは休めます。誠に、忝うございます」
信包は信長の文を見て、小さく歓喜していた。そして、その文を持って大広間へ行き、北条家の3人に家康と虎次郎と高代を呼んでもらった。そして、全員が集まると
「皆様!前日は、三介がやってはいけない事をやってしまい、誠に!誠に!申し訳ありませぬ!その事で、三介の父である右府様へこの事を伝え、
三介の処遇について質問したところ、返答の文が届きましたので、どなたか読み上げていただきたく」
信包は平伏しながら、信長からの文を読む役を誰かに頼んだ。しばらくは誰も動かなかったが、家康が
「立場的に、儂が読んだ方が良いじゃろうな。三十郎殿、文を」
「自分が読む」と言って、信包から文を受け取り、読み出す
「どれ。「鉢形城内で、来たるべき戦に備えている皆。織田右府じゃ。いきなりの文、驚いたと思うが、前置き無しに本題に入らせてもらおう。前日、愚息の三介が愚行を犯した事、誠に申し訳ない!
そんな三介に対して、斬首をしなかった北条家の方々、誠に感謝させていただく!じゃが、三介のせいで高代が不安を持っている事は、高代の夫の六三郎でしか解消出来ないと、判断させてもらった!
そこで、六三郎の居る場所へ虎次郎の武田家が高代の護衛をしてくれ!そして、そのまま六三郎と共に、松田の対策にあたってくれ!
鉢形城の軍勢を、少しばかり減らして申し訳ないが、虎次郎よ、高代を六三郎の元へ連れて行ってくれ!」とあるが、この字は間違いなく三郎殿の字じゃな
三郎殿と文のやり取りをしておる儂が保証する。それで、虎次郎殿と高代殿。六三郎殿の元へ行く様に言われてあるか、それで良いか?」
読み終えた家康は、高代と虎次郎に六三郎の元へ行くか?と質問する
その質問に虎次郎は
「今すぐにても、六三郎殿の元へ行きます!高代殿も、そうしましょう!」
すぐに行くと返事をして、高代に行こうと促す。虎次郎の言葉を受けて、
「私も、今は六三郎様の側に居たいです」
そう答えたので、
「ならば、すぐに出立しましょう!新太郎殿、源三殿、幻庵様!館林城への案内役を務める事が出来る方を、貸していただきたく!」
虎次郎は館林城への案内役を求めて、新太郎が
「分かった。家臣に案内役として行かせよう」
案内役を出す事を明言したので、虎次郎と高代は出立準備に取り掛かった、




