高代を救った人物と信雄の処遇
信雄は振り向いた先に居た人物に
「貴様!どこの誰じゃ!儂は織田右府の次男じゃぞ!無礼ではないか!」
「無礼だ」と罵ったが、その人物は
「儂は徳川右少将の次男で、六三郎様に命を救われた徳川於義伊じゃ!六三郎様の身内に無礼を働く輩が居るのであれば、六三郎様に受けた恩を返す為に、戦う事は当然であろう!」
まさかの於義伊だった。その於義伊を見て、信雄は
「貴様!徳川様の次男か!元服もしていない童が、偉そうに口出しするな!儂は今からこの娘を!」
於義伊を一喝して、再び高代に手を出そうとした。しかし、
「やめろと言っておるのが、分からぬか!!」
於義伊は信雄を羽交締めにして、持ち上げた。六三郎と幼い頃から、肉を食べて身体を鍛えて長時間睡眠を実施していた於義伊は、源次郎や銀次郎を超える推定身長185センチの屈強な体躯に育っていた
そんな於義伊からしたら、多少は身長が高くとも、もやし体型な信雄を持ち上げるなど、造作もない事だった。信雄が持ち上げられた状態で居ると
「於義伊殿!曲者は、、織田様ではありませぬか!高代様まで!」
北条家の家臣達が集まってくる。その家臣達に於義伊は
「北条家の方々!この者、高代様を手篭めにしようとしましたので、この様に止めております!早く縄を!」
「「「は、ははっ!」」」
信雄に縄をかける様に伝え、家臣達も指示どおり動く。そして、縄で縛られた信雄は大広間に連れて行かれて、
「皆様!そして父上!この者、六三郎様の側室である高代様を手篭めにしようとしていたので、無理矢理捕まえて来ました!」
於義伊が説明を始める。説明を聞いた北条家の面々は
「なんじゃと!!」
「柴田殿にも高代殿にも、子供の事で、とても世話になったのじゃぞ!許せぬ!」
「尾張守殿!!この始末、どう責任を取るつもりじゃ?」
新太郎と源三が大声で叱責し、幻庵が低い声で責任を問う。更に大広間横の襖から
「高代殿に手を出そうとした者は何処に居ますか!」
「成敗してくれる!」
「その者の首を!」
「絶対に許してはなりませぬ!」
「北条家の恩人に無礼を働いた者、絶対に許さぬ!」
源三の4人の嫁と、新太郎の正室の福が長刀を携えた姿で、大広間へ入ってくる。それだけでなく、
「高代殿!ご無事ですか?」
「「「高代様!」」」
武田家の面々まで大広間に来て、殺意を信雄に向けていた。この状況で、1人だけ冷静だった家康が
「各々方。事が起きる前に倅か、三介殿を捕まえたので、未遂に終わりました。なので、武器を持っている方々は、武器を戻してくだされ」
そう言うと、源三の嫁達は
「「「「「徳川様が、そう仰るのであれば」」」」」
全員、元の部屋に戻って行く。福が高代の側に残り、武田家の面々も
「高代殿!何かあったら、すぐに呼んでくだされ!六三郎殿から受けた恩、高代殿をお守りする事でひとつくらいはお返ししたいのですから!」
高代に声をかけて、部屋に戻る。こうして、一応落ち着いた大広間で、信雄に対する処遇が話し合われた
「尾張守殿。申し訳ないが、この者が軍勢に居ては、士気に関わる!今すぐにでも帰らせてもらいたい!」
最初に「こいつを帰らせろ!」と言ったのは、源三だった
続いて新太郎は
「どうせならば、松田との戦の最前線に放り込んでしまえ!愚行を犯したのであれば、武功で相殺としようではないか!」
「戦の最前線に放り込め」と提案する。新太郎の次に幻庵は
「牢屋に入れて、父親の右府様に迎えに来てもらいましょう。そこでの右府様に処遇を任せても良いと思いますぞ」
「とりあえず牢屋に入れとけ」と提案する。3人共、怒りはあるが、斬首を提案しない冷静さは残っていた
そして、最終的に信雄の処遇は
「出陣する迄は牢屋に入ってもらう!そして出陣したら、最前線に放り込む!」に落ち着いた。信雄は何も言わずに、その処遇を受けた
信雄は、縛られた状態で歩き出して、大広間をあとにした。信雄が居なくなった大広間では、信包が高代に対して
「三介が誠に申し訳ない!」
これでもかと平謝りしていた。そんな信包に高代は
「尾張守様、は、何、も」
何とか言葉を口にしようとしたが、恐怖で体が震えて言葉が出て来ない。その高代を見て福は
「高代殿は、しばらく私が見ておきます」
そう言って、高代を連れて大広間を出た。最終的に大広間には北条家の3人と、家康と於義伊の親子と信包が残り、
今回の於義伊の働きに、源三から
「徳川様。子が産まれて間もない拙者が言うのはおかしな話かもしれませぬが、於義伊殿は元服前とは思えぬ程、立派な若武者ですな」
褒める言葉を受ける。更に新太郎からは
「柴田殿、いや、六三郎殿から受けた恩を返す為に、あの様な状況でも一歩も引かないとは!これ程の若武者が実子に居るのですから、徳川家の将来は安泰ですな!」
於義伊を褒めるだけでなく、徳川家の将来も褒める言葉が出る。幻庵からは
「徳川様。於義伊殿の元服と嫁取りの際は、此度の働きを話しても良いかもしれませぬな」
於義伊の来たるべき元服と嫁取りの事を話して、明るい未来を示唆した
北条家からの言葉に家康は
「子供だと思っていたのですが、この様な働きが出来るとは。六三郎殿が素晴らしい背中を見せてくれたからでしょうな
じゃが、於義伊よ。これで調子に乗るでないぞ?六三郎殿と共に戦場に立つ時、調子に乗っていては、六三郎殿の足を引っ張る事になるからな」
於義伊を少しは褒めつつ、調子に乗るなと釘を刺す。家康の言葉を聞いて於義伊は
「勿論です!調子に乗ってはいけないと、胸に刻みます!それでは失礼します」
そう答えて、大広間を出て行った。於義伊の背中を見た家康は
「元服したら、信濃国を任せるか」
元服後に信濃国を任せる決断をくだした。




