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転生武将は戦国の社畜  作者: 赤井嶺


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連戦連敗な徳川と内情不安の武田

元亀三年(1572年)十二月十五日

遠江国と駿河国 国境にて


「おのれ〜武田め」


「本多殿、殿から撤退命令が出ております。口惜しいのは分かりますが何卒、抑えてくだされ」


「くそおおお!!」


「はっはっは!一言坂では見事な戦いを見せた徳川も兵の数が足りない時は呆気ないものじゃ!!」


「四郎様。あまり敵を甘く見てはなりませぬぞ。此度は連れてきた兵の数が少ないのは何か策があるかもしれませぬ。油断は禁物です」


「馬場殿は慎重過ぎるのう。山県殿はどうじゃ?赤備えの面々は満足しておらぬ様じゃが?」


「四郎様。確かに赤備え達は徳川に対して物足りない様ですが、兵の損失を抑える事が出来たと思えば、これで良いのです」


「まあ、確かにこれからの大戦を考えたらその方が良いかもしれぬな。ところで、お館様はどの様な状態なのじゃ?」


「お館様は、余程の事が無い限り呼ぶな。と申しております。あと、武藤殿。お館様は他に何か仰っていたか?」


山県に呼ばれた武藤殿とは、武藤喜兵衛昌幸、後に徳川家全体に恐怖を与える程、戦で甚大な被害をもたらした真田昌幸その人であるが、現時点では武田信玄の近習として側に仕えて働いている。


そんな昌幸からの報告は


「ははっ。お館様は四郎様に大将としての経験をつませる為にご自身は負け戦にならない限り、一切口出ししないので、何事も無いなら勝利後は軍勢をまとめてから、進軍せよ。との事にございます」


「ふむ。お館様がそう仰るなら、ここは徳川を追わず軍勢をまとめよう。しばし休息を取るから、各将は兵をまとめておくように」


勝頼はそう言って休息に入った。父である信玄の事は気になるが、臨時とはいえ軍の総大将を任されている身として、毅然とした態度を取って皆が不安にならない様に努めていた


本陣に勝頼だけが残った状態になると、一人の人物が入ってきた


「四郎。入るぞ」


「孫六叔父上」


声の主は武田孫六信廉。信玄の弟であり影武者も務めるだけでなく戦においても信玄には劣るが、それなりに有能な武将である


そんな信廉が勝頼の元を訪れた理由とは?


「四郎よ、徳川との戦に勝って駿河国だけでなく遠江国の制圧も始まったのだ。例え陣幕の中と言えど、その様な顔を見られては兵の士気が下がるぞ」


「分かっております。だからこそ叔父上や馬場殿や山県殿といった主だった者以外は通すなと言いつけております」


「やはりお館様の事が不安の原因か?」


「はい。色々な事情で拙者が嫡男となりましたが、ほとんどの者が拙者に対して「諏訪の人間が武田の嫡男の座にいるなどおかしい」とか、「お館様の後を継ぐなら他の若君が良い」等、拙者が疎まれている事は知っております。この様な状況では父であるお館様にもし万が一の事があっては」


「これ!その様な事を申すな!確かにお館様の体調は不安ではある。万が一の可能性もある。だがな、その様な状況でもお館様は四郎が武功を挙げ、そして周りが四郎を敬う様に取り計らったのだから、お主自身は堂々としておれば良い」


「拙者は堂々と」


「そうじゃ!確かにお主の母の事で色々言ってくる者が居る事は、儂もお館様も話は聞いておる。その様な者達を黙らせる為に要所でお主に采配を任せたのだ。その期待に答えるしかない事は分かっておるな?」


「はい」


「ならば、その様な不安な顔は見せるな!儂は勿論、馬場や山県といった重臣もお主を支える様に動く!だからこそ顔を上げて胸を張れ」


「はい」


「それで良い。我が甥よ」


そう言って信廉は本陣を後にした


その後、自らを奮い立たせた勝頼は軍勢をまとめ信玄に報告してから進軍を再開した


一方その頃


元亀三年(1572年)十二月十八日

遠江国 浜松城内大広間にて


「一言坂で負けて、国境でも負けた。このままでは兵が無駄死にしてしまう。ここは籠城すべきじゃ」


「籠城したとて何処から援軍が来ると思っておる!!?周りの城も落とされ、同盟相手の織田家は畿内から動けず。援軍の来ない籠城など自殺行為じゃ!」


「ならば、どの様にして武田に立ち向かうというのじゃ!?数で倍以上の差が有り、向こうは兵の損失もほぼ無い。その様な戦力差でどうやって武田を倒すというのじゃ?」


徳川家の軍議は過熱していた。むしろ過熱し過ぎていると言っていいほど、物々しい空気で行われていた。家康も内心は怒りで狂いそうだったが何とか抑えて家臣達の意見を聞いていた


それでも軍議の内容は「籠城すべき」、「野戦で戦うべき」を繰り返すのみだった。そんな状況で家康は


「今日は此処までとする。一旦冷静になり明日、他の策も出せる様になっておけ」


家臣達を解散させた。大広間に一人になって思わず


「信玄坊主の掌で踊らされている様じゃ。思惑を全て読まれていると言っても過言ではない。吉六郎の言っていた事を身をもって痛感するとは思わなんだ」


吉六郎の言葉を思い出して、自らの甘さと武田の強さに弱い心が出てきていた。

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