氏政の無自覚タップダンスは信雄の地雷を踏み抜く
「先ずは、こちらを。現在、柴田殿が駐留している、儂の弟の一人の新太郎が城主を務める鉢形城からの文なのじゃが、この鉢形城には新太郎には兄にあたり、
儂には弟の源三が正室と三人の側室と一部の共の者と共に、寝泊まりして、そこで柴田殿から一年間じっくりと子作り指導を受けたのじゃが、流石、柴田殿じゃ!
一昨年の霜月から始めた子作り指導で、源三と嫁達の身体を鍛えて、食生活を改善させながらの指導で、見事、二人がやや子を授かり、問題なく出産までこぎつけたのじゃ!それが前年の長月だぅたのじゃが、
諦め半分くらいだった源三に実子が産まれた。それだけでも儂達は嬉しい!じゃが、本人の喜びは儂達とは比べ物にならぬじゃろう!
四十歳後半にして、待ち望んでいた我が子じゃからのう!三十郎殿も一門にその様な者が居たら、やはり気になるじゃろう?」
氏政はとても高いテンションで信包に聞く。氏政のテンションにやや引いている信包は
「そうですなあ、織田家は基本的に子沢山な家なので、その様な男が居たら不安になりますが、その者に子が産まれたら、やはり盛り上がりますなあ」
なんとか答えを絞り出した。答えを聞いた氏政は
「そうじゃろう、そうじゃろう!だがな、柴田殿が素晴らしい若武者だと思うのが、源三達の子作り指導だけでなく、その間も安土城へ送る酒を作っていて、
そこで新たな酒をつくり出しただけでなく、新太郎達が呑みたいと希望した事で少し余分に作って、呑ませてやるという無理を聞いて叶えて、誠に働き者よ!
儂に独身の娘が居たら、嫁がせたいと思う程じゃ!まあ、内府殿と右府殿から話を聞いたら、九十万石もの大領を持っておるそうではないか!
若くして、それだけの大領を持つ有望な若武者じゃから、何としても縁を結びたい、おっと、済まぬ。話がそれたのう。話を元に戻すとしよう
先程、源三の側室二人が出産したと言ったが。どちらも姫であったから、三人目の側室に期待していたのじゃが、そこでまさかの驚きを知らされたのじゃ!
三十郎殿!その驚きじゃが、なんと源三と歳の近い四十代の正室が懐妊したのじゃ!いやあ、これを聞いた時は嘘ではないかと疑ったが、
これまで柴田殿が起こして来た奇跡的な出来事を考え、源三に実子を抱かせた事も踏まえ、弟達が虚偽を伝える訳はないのじゃから、誠なのだと決断した
そして、それが現実である事が、前月に新太郎からの文で判明したのじゃが、三人目の側室が前年の師走に出産した日の夜に、正室が産気づいたのじゃが、
これがとてつもない難産でな、一日以上も出産に費やしたそうじゃが、この難産の理由が年齢以外にもあってな、まさかの三つ子じゃったそうじゃ!
娘二人と嫡男が産まれたのじゃが、人によっては「畜生腹」と呼ぶじゃろう?その事で出産の手伝いに来ていた柴田殿の側室が源三に対して
「その様な状況で産まれた子でも分け隔てなく愛情を注いでくだされ」と頭を下げて頼んで来たとあったが
やはり、柴田殿の周りには不思議な者が男女問わず集まるのう!これで、柴田殿が子作り指導をした一年で源三は六人の子を抱く事が出来た!
それだけでなく、嫡男も産まれた!この事で、儂の祖父の弟で、北条家の長老の幻庵翁は柴田殿に
「儂の曾孫達の縁談も請け負ってくれないか?」と頼み込んだそうじゃ!この戦乱の世で人の汚い部分を数多く見て来て、
齢八十を超えて北条家以外の人間をほぼ信頼しなかった幻庵翁が曾孫の縁談を頼む程に信頼するとは、余程の事じゃ!その事も新太郎からの文に書いてあったが、
その時の幻庵翁曰く、「他者の為に働く柴田殿ならば」と言って、手を握っておったそうじゃ!まあ、柴田殿が他者の為に働く事は、甲斐国の復興の件でなんとなく察しておったが、
それでも柴田殿の様な素晴らしい人間は老若男女問わず、稀有な存在じゃ!そんな柴田殿だからこそ、内府殿も右府殿も信頼出来るが故に多くの役目を任せてしまうのじゃろうな
もしも柴田殿が北条家に居たら、儂も同じ様に多くの役目を任せてしまうじゃろう!三十郎殿、そんな柴田殿じゃが、柴田殿の子供達が最近臣従した者達から
「嫡男殿の嫁に我が家の娘を」や、「姫君を我が家の嫡男の正室に」と言った内容で婚姻の縁組を求められておりますぞ?それこそ、源三ですら産まれて間もない娘を推挙しておりますからな」
氏政の六三郎を持ち上げる話を聞いて、三十郎は、
「相模守殿。六三郎は正室が右府様の正室の血縁ですし、六三郎の父の越前守殿の再婚相手が右府様と拙者の妹なので、六三郎やその子の婚姻となると、
また安土城での話し合いが必要になってしまいますので、一筋縄では行きませぬぞ?」
「勝手に六三郎関連の婚姻を決めないでもらいたい」と釘を刺す。それを察した氏政は
「はっはっは!いやあ、申し訳ない。だが、それだけの価値が柴田殿と、柴田殿の子にはあるのも間違いないからのう!」
大笑いしながら、謝罪しつつ。六三郎と子供達がそれだけの存在であると伝える
そんな六三郎を持ち上げる話にとうとう限界が来た信雄は
「相模守様。三十郎叔父上。拙者は皆の元に戻っておきますので失礼します」
そう言いながら、大広間を出ていく。出て行きながら内心では
(なにが素晴らしい人間じゃ!なにが見事じゃ!家臣が主家や主家の同盟相手の為に働くなど、当然の事でははいか!それを、他の者はやらない様な言い方をして、
北条家は阿呆か!?こんな阿呆達の謀反を鎮める為に、何故織田家が戦わないといかぬ!まったくもって不愉快じゃ!三十郎叔父上も、何故その様なくだらない話を聞いておる!ええい、この怒り、何処にぶつけてやろうか!)
六三郎関連の話にイライラしていた。それを察しない信包ではないので、氏政と会話をしながらも
(また、六三郎の話で不満が出て来ておるな。戦場で顔を合わせた時、どうなるのか不安でしかない)
信雄と六三郎が顔を合わせた時を、今から心配していた。




