比左殿の出産は長丁場で大戦になる
源三達は急いで神棚の部屋の襖を開けると、そこにはすでに新太郎の正室の福と、源三の側室で3ヶ月前に出産を終えた、かな子ときく乃が居た。5人の姿を見て福は
「皆様!遅いではありませぬか!早く座って、安産祈願をしてください!!」
「今すぐ座って安産祈願をやれ!」と促す。促された5人は神棚の前に座り、安産祈願を開始する
一方その頃、出産に使われている部屋では
「比左様!ヒッ、ヒッ、フー!のヒッで息を吸って、フー!でいきんでください!ゆっくりで構いませぬから!」
「は、はい。ヒッ、ヒッ、フー!ヒッ、ヒッ、フー!」
高代が比左にラマーズ法を教えて、比左もその通りに呼吸を行なう。出産は少しずつ順調に進んでいるが、高代は
(側室の3人と違って、子供が下りてくるのが遅い!年齢的な不安があるのは仕方ない。でも、1年前から六三郎さんに鍛えられたから体力はギリ大丈夫のはず
じゃあ、何故こんなに遅いの?考えなさい高代!この状況で何が妊婦である比左様に必要なの?)
比左の出産が予想以上の難産である事を、年齢以外の原因があると判断したが、その原因を見つけられなかった、だが、高代は
(待って!確か、この時代は双子や三つ子は、「畜生腹」なんて言われて、良くない扱いを受けているけど、比左様も、もしかしてそうなのかもしれない!
医師の人は「懐妊した」としか言わなかったけど、もしかして、そこから先は言えなかったんじゃ?)
難産である理由を多産だと推測する。推測しながらも、手を止めない。そんな高代に、比左が
「高代、殿。私の、出産、が、遅い、理由を、考えて、くれ、て、いる、のですね。でも、私、は、分かります。やや子、が、複数、居る事、が、理由です」
出産が遅い理由を、「複数人、腹の中に居るから」と伝える。更に
「もし、も、男児、が、一人、だけ、で、他、は女児、なら、ば」
この時代の慣例に従って、双子だったら女児を出家させる様に頼もうとする。しかし、高代は
「比左様!これから新しい時代が、戦無き世が来るのです!だからこそ、そこから先は言ってはなりませぬ!
源三様も、我が子が増える事を、きっと喜んでくださります!だから、その様な事は言わないでください!!」
比左の言葉を遮り、古い慣例を口にしない様に伝える。その言葉に比左は
「分かりました。今は、無事に出産する事に集中しましょう」
そう言って再び、いきむ。この時点で既に日付は変わっていて、現在推定午前1時。寒さも強くなってきたので、部屋を暖かくする為、囲炉裏に火を焚べる
更に、比左の腹から下をお湯で絞った布で拭きながら温める。その様に色々とやって、比左が出産しやすい状況にしでいき、推定朝5時になり、とうとう
オギャー!オギャー!オギャー!
最初の子の産声が聞こえた。それを聞いた源三は
「産ま、れ、た。儂と、比左、の、子、が」
神棚の部屋で喜びに震えて、立ち上がれずに居た。その源三の元に、高代が赴き
「源三様!比左様の事でお伝えしたい事があります!どうやら比左様は、双子ないし三つ子を懐妊しております!
なので、全員を出産し終えるまで、またまた時がかかります!そして、複数の子が一度に産まれる事で、古い慣例では良くない事に思えるかもしれませぬ。ですが
これから戦無き、新しい世を産まれてくる子達が、過ごせる様に、分け隔てなく接してくださいませ!この通り!」
言葉は濁していたが、「畜生腹」とは言わずに、他の子達と同じく、分け隔て無く接してくれ。と頭を下げて頼み込む。高代の姿を見て、源三は
「高代殿。儂は今まで実子に恵まれなかった。そんな状況で、比左との子を諦めていた。そんな比左との子が産まれて、
それが複数人なのじゃ!喜ぶ以外の感情など、ありませぬ!」
比左との間の子が複数人である事を喜ぶだけだと、高代に伝える。それを聞いた高代は
「分かりました。差し出がましい事をして、申し訳ありません。それでは、引き続き比左様の出産のお手伝いをして来ます」
安心した様で、源三に頭を下げてから、比左の元に戻って行った
高代が到着した出産部屋では、引き続き比左がいきんでいた、産婆達が頑張っている部屋の中に、先程と違い、医者が居る事に気づいた高代は
「医師殿!比左様と、お子に何かあったのですか?」
医者に質問すると、医者は
「高代殿。恐らく、比左様の腹の中には、あと二人のお子が居ると思われます。ですが、比左様の年齢を考えると、最悪の事が起きる可能性もあります、なので、拙者も同席しているのです」
最悪の事態を想定して、スタンバイしていると説明した。それを聞いて高代は
「そうならないように頑張らないといけませんね!」
更に気合いを入れた。高代の気合いに引っ張られたのか、比左も
「ヒッ、ヒッ、フー!ヒッ、ヒッ、フー!ヒッ、ヒッ、フー!」
ラマーズ法を繰り返しながら、腹の子がおりてくる様に、試行錯誤している
そうこうしている内に、最初の子が産まれてから9時間後の、推定午後2時に
オギャー!オギャー!オギャー!
2人目が産声を上げる。しかし、
「あと一人です。皆様、もう、ひと踏ん張りお願いします」
高代の声で、安心した空気は一瞬で無くなる。そして、しばしの休息を取ってから、比左はいきみだす
その頃、神棚の部屋で安産祈願をしていた源三は、高代が来ない事で、比左が3人目を出産している状況ののだと理解している様で、神棚の前で
「大石家の父上と母上、そして北条家の父上と母上!何卒、何卒、比左とやヤ子をお守りくだされ!!」
比左の両親と、自身の両親にも安産祈願と神頼みを行なう。六三郎含めて、誰もそれにツッコミを入れる程、野暮ではないので、引き続き全員での安産祈願を続行する
そんな状況が広まり、松田との戦の為に集まった面々の家臣達も、先に出産した3人の側室も、そして、その侍女達、更には料理人達も、鉢形城全体が比左と子供の無事を祈っていた
そんな願いが通じて、2人目の出産から9時間後の午後11時、とうとう
オギャー!オギャー!オギャー!
3人目の産声が聞こえた。その声が聞こえて、間もなく、高代が源三の元へ赴き
「源三様!比左様は、三つ子を無事に出産なされました!比左様とお子達に声をかけてください!」
源三へ無事を伝える。高代の言葉を聞いた源三は急いで、比左の元へ向かう。部屋の襖を開けると
「源三様!おめでとうございます!二人の姫君と嫡男様にございます!」
産婆から子供の性別を知らされる。その知らせに源三は
「わ、わ、儂に、嫡、嫡男、が。諦めて、おった、嫡、男、が!比左!比左!誠に、誠に!ありがとう!どれ程の感謝を述べても足りぬ!比左!比左!!」
比左の手を握りながら、感謝を述べる。そんな源三に比左は
「源三様。私も、子を産む事を諦めてらおりました。ですが、ですが」
源三の子を産めた事に言葉が出なくなる。それを分かった源三は
「比左。今は、ゆっくり休んでくれ。出産に丸一日では足りぬ程、頑張ってくれたのじゃから、な」
比左に休む様、進める。比左も
「分かりました。今はゆっくり休ませてもらいます」
そう言って、ゆっくり横になった。こうして、戦国時代の最高齢出産は、三つ子を26時間かけて出産するという、異例づくめだったが、母子共に無事という奇跡で、幕を閉じた。




