織田家は文を受け取ると悪手を使う
天正二十年(1592年)十月三十日
近江国 安土城
六三郎が文を書いてから2週間後、家臣はかなり頑張った様で、文を安土城へ届けていた
「殿!甲斐国に居ります、柴田様からの文でございます!」
「ほう、この時期に文とは。ワイン以外の新たな酒が完成したのかのう。どれ」
信忠は、過去2年のワインの売上が良かった為、甲斐国からのワインは勿論、新たな酒に期待をしていた。しかし、そんな淡い期待は文に目を通すと一気に無くなり
「父上と母上と松を連れて来てくれ」
「は、ははっ!」
家臣に信長と帰蝶と松姫を連れてくる様、命じる。命じられた家臣は、急いで3人の元へ行くと、信忠が呼んでいる旨を伝えて、大広間へ連れてくる
「勘九郎!何か起きたか?」
「勘九郎殿。六三郎に何かあったのですか?」
「勘九郎様!武田家に何かあったのですか?」
3人は、それぞれ信忠に声をかける。全員が揃った事を確認した信忠は
「六三郎から文が届いたのですが、その内容が、、とりあえず読みますので、聞いてくだされ。
「殿と大殿へ、現在は一時的に武蔵国で働いております柴田六三郎です。重要な事ですので、前置き無しでお伝えしますが、神無月の初頭に北条家で謀反が起きました
謀反の首謀者の名は、松田左衛門佐と言い、北条家当主である左京大夫殿の側室の父にあたります
その為、北条家でもそれなりの地位の重臣なのですが、謀反を起こした理由が、「武田家に割譲する上野国南部に嫡男の領地が有るので、奪われてなるものか」という事なのです
そして、その松田ですが、出陣時点で五千の軍勢を保持しており、もしも上野国一国を征圧したら、軍勢は一万に到達するかもしれませぬ
拙者が詰めていた、鉢形城という城には三千から四千程の軍勢しかおりませぬので、拙者は武田家の領地が奪われてはならないと判断した結果、勝手ながら
虎次郎殿の初陣として、武田家を参戦させる事を決めました。ですが、拙者が実家から甲斐国へ連れて来た七千の軍勢と、復興に従事している中から出陣希望者と
武田家の三千のうちの半分の一千五百を合わせたおよそ九千の軍勢でも、松田の軍勢が増えている可能性がある以上、安心出来ませぬ!
なので、動かしても問題無い軍勢を援軍として、関東まで向かわせていただきたく存じます!
もしも、関東の北条家への反抗勢力が、松田に同調したならば、関東が泥沼の戦になります。流石に拙者の権限で、
臣従したばかりの関東及び奥州の方々を参戦させる事は出来ませぬ!なので、
ここで食い止めて東国全体に織田家の存在を示すべきであると判断した次第にございます!何卒、援軍の件よろしくお願いします!
ちなみに、左京大夫殿の正室の督姫様から、ご実家の徳川家へこの事を伝える文が届いて、出陣している可能性もあります!」との事です
父上、六三郎はそう言っておりますが、徳川様が出陣している可能性を考えると、織田家も動かないといかぬでしょうが、誰を動かしますか?」
信忠は文を読み終えると、信長へ対応を問う。問われた信長は
「まったく、六三郎の奴は何故、これ程に戦を引き寄せる?それとも巻き込まれておるのか?ここ迄来ると、六三郎が居ない土地の方が平和の可能性まで出てくるではないか!」
六三郎がちょっとした疫病神じゃないのかと疑いだした。しかし、
「殿。そんな事はありませぬ。六三郎が居ると、相手の不穏な輩が炙り出されているだけです」
帰蝶が六三郎が疫病神ではないとフォローを入れる。帰蝶の言葉に信長は
「まあ、ただの偶然じゃろう。それよりもじゃ!関東に近い場所の軍勢となると、飛騨国の忠三郎と、伊勢国と伊賀国を見ておる三七が候補じゃが、
軍勢の数を考えると、この二人を動かすよりは、尾張国の三十郎を動かした方が早いか
勘九郎!儂は三十郎を動かした方が早いと思う。お主の意見はどうじゃ?」
信長は悩みに悩んで、尾張国を治める弟の信包を援軍の候補として挙げ、信忠に他に適任が居るかと問う
問われた信忠は、
「拙者としても、三十郎叔父上ならば安心ですが、いかんせん、三十郎叔父上の元に居る三介の事をどうしたら良いか」
「信包なら安心だけど、信雄が」
と、信雄が不安要素である事を話す。信忠の言葉を聞いて、信長は
「うむ。それならば、三十郎を大将にした援軍に三介を組み入れて、儂が後ろから三介を見張る為に、もう一つの援軍として出陣する事を、三十郎にのみ伝えよう!
それで、三介が武功も挙げずに横柄な振る舞いを取る等の見苦しい愚行を犯した場合は、一万石くらいの小さい領地に押し込めておくしかない!
勘九郎よ、それで良いな?いくら親族と言えど、まともに働かない者には最低限の領地で大人しくしてもらうしかないぞ!」
信忠に、「今回の行動次第で、信雄の扱いを決める!」と宣言した。それを聞いた信忠も
「拙者もそれが良いと思います」
賛同した。信忠の言葉を聞いた信長は
「よし、それでは三十郎へこの件の文を書く!出来るかぎり早く動いてもらわねばな!」
信包への文を書き始める。書き終えると
「急ぎ、三十郎の元へ届けよ!」
「ははっ!」
家臣に急いで渡す様、命令した。一通りやる事を終えた信忠は
「これで、三介が三十郎叔父上の言う事を聞いて武功を挙げてくれたら良いのですが」
明らかなフラグ発言をしていた。




