出陣後に届いた文を見た父は
天正二十年(1592年)十月十七日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「それでは出陣じゃああ!」
「「「「おおお!」」」」
「御館様の初陣じゃあ!」
「武田家の領地、奪われてなるものか!」
皆さんおはようございます。朝早くから、凄い熱量の皆さんの引率をしないといけない事に、とても胃が痛い柴田六三郎です
前日に於義伊くんから、「初陣を経験させてくれ」と頼まれたので、その事を了承する為の条件の1つである家康へ報告の文に、俺からの文を追加してから、
徳川家にもって行かせました。まあ、流石に督姫様からの文が先に届いているはずだし、既に出陣しているかもしれないな
そうなったら、於義伊くんを家康に渡して、俺は戦に集中しよう
そんな事を考えながら、六三郎は総勢九千人を鉢形城へ引率していた
その六三郎が「出陣しているだろう」と予想していた家康はと言うと
天正二十年(1592年)十月二十四日
遠江国 浜松城
「新次郎の件が片付いて、やっと落ち着けるのう。弥八郎よ」
「そうですなあ。新次郎様の件では、北条家が上野国半国を割譲する事を落とし所にした結果、誰も切腹せずに済みましたから」
「まったくじゃ。これで、関東での戦は回避出来た事を考えたら、新次郎の悪態を直してくれた六三郎殿と於義伊に感謝じゃな」
「殿。於義伊様へ、その様に思うのであれば、そろそろ元服を認めてもよろしいのではないでしょうか?」
「それは勿論、考えておる。於義伊は自らの立場を確立しようと奮起しておる。なので此度の甲斐国復興が終わり、戻って来たら元服させる
そして、信濃国か、能登国の五万石を統治させようと思う。その時に補佐につける者も考えておかぬとな
それにしても、このワインという酒は、日の本の酒とは違う美味さじゃな!
これは三郎殿を通して、原材料の葡萄とやらを手に入れてから、領地で育てられないか試したいのう。於義伊が経験したから、任せても良いのう」
浜松城でワインを堪能しつつ、於義伊を元服させた後の領地や葡萄栽培の事を考えていた
そんな平和な時間も於義伊と六三郎からの文が届くと一変する
「殿!甲斐国で働いております於義伊様と、柴田六三郎殿からの文が届きました!」
「於義伊と六三郎殿からじゃと!?嫌な予感しかしないが、見せてみよ!」
家康は家臣が持って来た文のうち、於義伊からの文から読む
「どれ。「父上へ、甲斐国で働いております於義伊です。いきなりの文で驚かせてしまい、誠に申し訳ありませぬ。文を書いた理由ですが、現在、六三郎様が織田家からの命令で、北条家へ行っているのですが、
その北条家で、謀反が起きました。謀反の首謀者は、上野国北部へ進軍しており、このままでは南部へも進軍して、上野国全域を征圧するかもしれませぬ
新次郎殿の件で、北条家が武田家へ割譲した上野国南部を奪われてはならぬと同時に、首謀者を叩きのめす為に武田家の皆様と六三郎様の軍勢に拙者も参戦する事に決めました
ですが、六三郎様から「武功を挙げない事」と「父上へこの件を伝える事」を条件に本陣に居る事を許されました
文が届いている頃、拙者は武蔵国に居ると思われます。先ずはご報告とさせていただきます」との事じゃが、六三郎殿が居て、武田家と北条家も出陣しておるのであれは、大丈夫な気もするが、六三郎殿からの文を見せよ!」
家康は、於義伊からの文に続いて、六三郎からの文を読む
「六三郎殿は、なんと言っておる?「徳川様へ。柴田六三郎です。いきなりの文、誠に申し訳ありませぬ。拙者からの文と、於義伊殿からの文、どちらを先に読んでおられるかは分かりませぬが
先ず、御報告として於義伊殿の希望もあり、北条家の謀反を鎮圧する為の戦に、於義伊殿を連れております。勝手な事をしてしまい、申し訳ありませぬ
於義伊殿より、「此度の機会を逃したら、初陣がいつになるか分からない。その様な自分は徳川家では、タダ飯喰らいの穀潰しになってしまうので、初陣を経験させて欲しい」と真っ直ぐな目で訴えられては
無碍に出来ないので、「武功を挙げない事」と「徳川様へ文を届ける事」を条件に、参加を許可しましたが、個人的には、徳川様にも出陣していただき、
徳川様より「武功を挙げて来い」と於義伊殿へ言ってくだされば、その手伝いをしたいと思います
この文と前後して小田原城の督姫様から、似た内容の文が届いていると思いますが、拙者と違い於義伊殿には、
お父上の徳川様の目の前で初陣を経験すべきだと思っております。若造が出過ぎた事をして、申し訳ありませぬ。最後に、於義伊殿の事以外を書いた文を安土城へも届けております
距離的に浜松城が先に届くでしょうが、先ずは報告まで」とあるが、「初陣は親の目の前でやらせてあげたい」か
弥八郎よ、親としては於義伊の初陣を見るべきだと思っておるが、武将として、大名として出陣する理由はあるか?」
家康は、於義伊の初陣を見たい理由を武将として、大名としての目線で正信に質問する。聞かれた正信は
「殿。武将として大名としてであれば、伊豆国の一部を割譲要求で良いのではないでしょうか?駿河国の隣ですし、北条家は此度の戦で恐らく、
上野国一国を武田家に渡さないといけない可能性もありますし、徳川家の領地が微増程度かもしれませぬ。ですが、殿の目の前で於義伊様が初陣を経験する事は
「徳川家は北条家を気にかけている」と見せる事に繋がるでしょう。なので、拙者としては六三郎殿の軍勢と合流すべきかと!」
家康へ親として武将として大名として、出陣すべきだと背中を押す。背中を押された家康は
「儂が居る事で、徳川家の立場が良くなるか。ならば出陣するだけじゃな!今から出陣する!皆に急ぎ準備する様、伝えてまいれ!」
「ははっ!」
家康の言葉を聞いた正信は、家臣を使い、家康が出陣する事を伝えると
「出陣じゃあ!」
「急いで準備せよ!」
「出陣じゃ!急げ!」
浜松城内は一気に慌ただしくなる。こうして、徳川家の出陣が決定した。ちなみに、まだ督姫からの文は届いてない。




