出立前にやっておくべき事
六三郎は甲斐国へ行く前に、高代に今回の事を伝えておこうと思い、比左の部屋へ向かった。すると、そこに高代と産婆達が居たので
「比左殿。申し訳ありませぬが、高代を少しの間、お借りしますぞ」
「は、はい」
「忝い」
比左に一言断ってから、高代を自分の部屋へ連れ出した。部屋に到着すると、六三郎と2人だけになった高代は
「もう、六三郎様。こんな日も高いうちから子作りですか?仕方ないですねえ」
いつもの調子で六三郎に接していたが、
「高代。此度は、その様な事をしている状況ではない。「しっかりと」話を聞いてくれ!」
六三郎の真剣な顔を見て、姿勢を正す。高代がふざけてないと確信した六三郎は、話を始める
「高代。よく聞いてくれ。実は、北条家中で内乱が起きた。しかも、最悪の状況になった場合、一万以上の軍勢で鉢形城に侵攻するかもしれぬ!」
六三郎の説明を聞いた高代は
「六三郎様。もしや、その内乱に参戦するおつもりなのですか?」
六三郎の次の言葉を当てる。当てられた六三郎は
「流石、高代じゃ。話が早い!今から北条家の同名相手であり、当主の左京大夫殿の御正室の督姫様の実家の徳川様経由で
織田家にこの事を知らせる文が届けられる予定じゃが、だからと言って、北条家本家と織田家と徳川家が
到着するまで無策のままでは、
内乱の首謀者に狙われてしまう!北条家が掴んでいる情報によると、敵の軍勢は現在五千。狙いは上野国北部との事じゃが、そこを完全に征圧した場合
軍勢が最大一万に到達するかもしれぬ。そうなった場合、上野国南部を狙うかもしれぬし、武蔵国を征圧に動くかもしれぬ!北条家の戦力状況は儂には分からぬ
だが、現在、この鉢形城には城主の新太郎殿の手勢の約三千と、源三殿が八王子城から連れて来た五百を合わせて約三千五百しか居らぬ
敵の軍勢が最初の進軍で鉢形城に来ていたのであれば、儂達も参加して、どうにか出来たと思う。だが、敵は上野国北部に行っておる
これは、敵の数が増える可能性が高いと同時に、我々も味方を増やせる時間を稼げる好機じゃ!
少しばかり話が長くなってしまったが、高代!儂は今から甲斐国へ行って、農作業に従事している面々と武田家を動かしてくる!儂が戻ってくるまでは
赤備えの殆どが残っておるから、安心して比左殿が無事に出産出来る様、側で支えてやってくれ!」
六三郎が説明を終えると、高代は
「分かりました。まったく、六三郎様は本当に普通の感覚の持ち主ではないですよね
普通、敵が攻めてくるかもしれないと分かったら、嫁や子供を非難させるのに、それどころか「味方を連れて戻ってくるから、役目に励め」なんて言って、
嫁を働かせるのですから。義父上様と義母上様が知ったら、さぞお怒りになるでしょうね」
六三郎に対して、「普通、こんな状況なら嫁を非難させるのに、働かせるなんて」と、小さな嫌味を言って来た
それに六三郎は
「い、いや、高代?勿論、儂も高代の安全を優先すべきではあると分かっているのじゃが、儂は織田家から北条家の源三殿の」
しどろもどろになりながら、何とか高代の機嫌を直そうとしていた。そんな六三郎を見て、高代は
「ふふふ。本当に六三郎様は自分の事よりも、他人の事を最優先に考えておりますね。ご安心ください。怒っているわけではありませんから
どうせ、六三郎様の事です。自分が主役にならない様に、周りを巻き込むのでしょう?ならば、私の小言くらい笑って流してくださいよ」
六三郎を少しばかりからかっていた。そんな高代に六三郎は
「とりあえず、出来るかぎり早く帰ってくる!だから、無事で居てくれ!良いな?」
少しくらい武将らしい所を見せようと頑張るが、高代からは
「はい!いざとなれば、義母上様とつる殿に鍛えられた長刀で、敵を討ち取ります!」
むしろ敵を討ち取ると言う強気な言葉が、六三郎につげらかる。しかし、六三郎は
「高代。気持ちはありがたい。だが、声が震えておるぞ」
高代が強がっている事を指摘する。指摘された高代は
「その、様、な、事、は」
声どころか、肩まで震えていた。そんな高代を見て六三郎は高代の肩を抱いて
「高代さん。強がらなくて良いんです。逆行転生者同士、俺の前では気楽に過ごしてください」
優しい言葉んかける。その言葉に高代は、六三郎の腕を掴みながら
「とても、怖、い、です。でも、でも、前線で戦う六三郎さんの方が」
本音を吐露する。高代の本音に六三郎は
「高代さん。勿論、俺も怖いですよ?でも、俺には俺を慕ってくれる皆が居ますから。だから、俺を信じてください。出来るかぎり、早く戻って来ますから」
高代に優しい言葉をかける。六三郎の言葉に高代は
「分かりました。でも、出来るかぎり早く戻って来てくださいね!」
声と肩の震えが止まる。そんな高代を見て六三郎は安心した様子で
「勿論です!それでは、出立準備に取り掛かりますので」
そう言いながら、部屋を出た。六三郎もやっておくべき事を終えた満足感から、足取りが軽くなった
こうして、六三郎は護衛の3人と共に、甲斐国へ出発した。
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