北条家中の内乱は武田家自立のチャンスでもある
とりあえず、北条家の皆さんに、俺と源太郎と昌幸さんを加えた面々で、内容を確認したのですが
「此度の謀反の首謀者、松田左衛門佐は殿の側室の成姫様の父で、その成姫様が産んだ、殿の庶長子である新五郎様の祖父じゃ
つまり、少なからず北条家の一門にあたる。それなのに、何故この様な愚行を」
源三殿が大まかに教えてくれたのですが、うん。源三殿が言う様に、愚行ですね。新次郎くんが家康の娘で、氏直の正室の督姫様が産んだから、
次男と言えど、新次郎くんが嫡男である事が確定している。それを許せなかったのか?それとも、何か別の理由があるのか?とりあえず、何処を攻めているのか聞いてみようか
六三郎は、松田が何処に進軍しているのかを聞く事にした
「源三殿、新太郎殿、幻庵様。その松田とやらは、何処に攻め込んだのですか?まさか、直接小田原城に向かったのですか?」
六三郎の質問に答えたのは、幻庵だった
「いや、柴田殿。松田が向かったのは、上野国の北部じゃ。小田原城とは真逆なのじゃが、もしも、松田が上野国の北部どころか、
南部も征圧し、上野国一国を手にしたのであれば、松田の最大動員数五千に、上野国の中で北条家に不満を持つ者達や、
北条家の家臣達を唆し、軍勢に足したら、一万に届くかもしれぬ!それでも小田原を落とす事は無理じゃが、周辺の支城となると、話は別じゃ!
源三殿の八王子城も、今狙われたら、あっという間に落城するかもしれぬ!そして、この鉢形城も同じく!」
幻庵は、松田の行動次第では、人数が更に増えて行き、支城が落とされていく可能性が高いと説明する。幻庵の説明を聞いた新太郎は、突然
「皆!済まぬ!儂のせいじゃ!」
そう言いながら、5人に頭を下げた。それを見た源三は
「新太郎!どう言う事じゃ!説明せい!」
新太郎に説明を求める。新太郎はゆっくりと説明する
「実は、前年の正月過ぎに松田は、この鉢形城に新五郎様を連れて、嘆願に来ておったのじゃ!その内容が、上野国南部を武田家に割譲するのを止めてくれ!じゃ。
理由として自身の嫡男、つまり成姫様の兄の所領があるから、それを奪われたくないとの事だったのじゃが、まさか、この様な事になるとは」
新太郎の説明を聞いた六三郎は
(うわあ、これは北条家のフォローが足りない結果じゃないか!それでも謀反を起こしていい事には、ならないけど。これは、話し合いでは無理だろうな
と言うか、待てよ!上野国南部を武田家に割譲する事を拒否しているのであれば、最悪の場合、武田家も戦に巻き込まれないか?
上野国南部に武田家の人間が、生活拠点を作っている時に、松田や松田の家臣達が攻撃して来たら、、、間違いなく泥沼になる!それこそ、殿や大殿が出て来て、
北条家に対して、「此度の内乱の被害、どう落とし前つけるつもりだ?」とならないか?でも、松田が周辺勢力を味方につけたら、一万超えの大軍になる可能性もある
その可能性を考えたら、さっさと殿や大殿に報告した方が良いに決まっている!だけど、殿も大広間も畿内に居る!
以前の穴山との戦で信濃国に到着するまでに、2ヶ月少々かかっていた。そこから計算するに、この武蔵国に到着するのは、早くて4ヶ月と見た方がいい!
それじゃあ、松田が鉢形城に攻めてくる方が早いだろう!この鉢形城にどれだけの戦力が居た?たしか)
内心、どうしたら良いかを徹底的に考えていた。いつもの癖が出ている状態で。それを見ていた新太郎と源三は
「柴田殿の家臣のお二人。柴田殿は何故、固まっておるのじゃ?」
「しかも、独特な姿勢で」
源太郎と昌幸に質問する。源太郎も昌幸も
「殿は、戦においても内政においても、重要な考え事をする際、あの格好になるのです」
「きっと、松田とやらを叩きのめす為に、壮大な策を絞り出すかもしれませぬぞ。楽しみにお待ちくだされ」
「六三郎なら、局面をひっくり返す策を出すから、待っていてくれ」と言いながら、
北条家の面々に納得してもらう。そして、2人の説明が終わった直後、六三郎が提案した策は
「新太郎殿、源三殿。そして幻庵様。拙者からの提案ですが、小田原城の北条家本家は勿論、督姫様経由で、徳川様を動かす事、徳川様経由で織田家を動かす事をしていただきたく!」
督姫から家康へ、家康から信長と信忠を動かす事だった。それを聞いた新太郎と源三は
「それは可能じゃと思うが」
「その間に、松田が上野国を支配下に置き、軍勢が一万を超える可能性もあるのじゃぞ?」
北条家本家と家康、そして織田家を動かすのは構わないが、その間はどうするのか?と言う質問だった。その質問に六三郎は
「その間は、拙者が甲斐国の復興の為に連れて来た7000人で対応します!今の時点では、松田よりも我々の方が軍勢が多いのですから、
北条家本家、徳川家、そして織田家の大軍が来るまで、我々が持ち堪えてみせます!源太郎!喜兵衛!これから忙しくなるが、
儂のこの提案に、付け足した方が良い事はあるか?あるのであれば、遠慮なく言ってくれ!」
俺が意見を求めると、昌幸さんから
「殿。失礼ながら、殿の提案では、忘れておられる家があります。その家を動かさないといけませぬ!」
「ある家を動かせ」と言われました。その、「ある家」を考えて、出たのは
「喜兵衛!武田家の事か?」
武田家の名前を出すと、昌幸さんは
「その通りです!今はまだ、正式に武田家の領地になってないとは言え、名目上は武田家の領地である上野国南部を、
松田とやらに奪われた際、殿や北条家の方々が奪い返したのであれば、再び松田の様な輩が出て来ます!そうならない為にも、上野国南部に関する戦には
武田家を参戦させるべきです!殿!いつまでも、武田家を殿が後見人の様な立場で見るのではなく、自立している所を示させないと、
越前守様も奥方様も、江姫様を嫁がせても良いと判断しませぬぞ!?」
「次の松田を出さない為」、「武田家が自立している所を見せる為」そして、「江が安心して嫁げる為」に武田家を参戦させるべきだ!と教えてくれました
やっぱり、武将としても、親としても、昌幸さんは凄いよ。俺の胸の内を言ってくれるんだもの
「喜兵衛!よくぞ言ってくれた!儂もいつまでも虎次郎殿を甘やかしてはいかぬな」
「ならば、殿」
「うむ。儂が武田家に行き、虎次郎殿を始めとした面々に参戦要請をしてくる。そして、農作業に従事してくれた7000人と、追加で来てくれた面々の中から、
参戦しても良い者達を連れて来る!源太郎と喜兵衛!お主達は鉢形城へ残り、北条家を助けよう!儂の護衛は源次郎、銀次郎、新左衛門の3人で良い
兵力は、多いに越した事はないからな!新太郎殿、源三殿、そして幻庵様。話はまとまりました!
拙者は、少しばかり鉢形城を離れますが、必ずや!武田家を連れて戻って来ます!それまで、松田が来ても持ちこたえてくだされ!それから、督姫様に文をお願いしますぞ!
それでは、出立の準備に取り掛かりますので、失礼!」
こうして、六三郎は甲斐国への移動の為、大広間を出て行き、準備に取り掛かった。




