勝家と官兵衛の作戦会議の筈が
天正十八年(1590年)十月二十日
因幡国 柴田家屋敷
「越前守様。本日はお招きいただき、ありがとうございます。この様な機会はそうそう無いので、倅の吉兵衛も連れて参りました。毛利との戦の時の六三郎殿と比べると
まだまだですが、此度の播磨国切り取りに出陣させますので、よろしくお願いします!吉兵衛、挨拶を」
「ははっ!越前守様、六三郎殿と比べるとまだまだですが、よろしくお願いします」
柴田家に信忠からの文が届いてから、10日後、官兵衛親子が播磨国切り取りの話し合いをする為、勝家の元に訪れていた
最初の挨拶として、毛利征伐の際の六三郎の働きを話題に出したが、勝家は
「官兵衛殿と吉兵衛。六三郎の事を褒めてくれるのは親として嬉しいが、あ奴はやる事なす事無茶苦茶な常識外れじゃから、そんな六三郎と比べてまだまだなどと思わぬ方が良いと思うのじゃが」
六三郎の働きを目の前で見てない事もあって、官兵衛と吉兵衛が六三郎の働きの事を言っても、「また無茶苦茶な事をしたんだろうなあ?」みたいに捉えていた
そんな勝家に官兵衛は
「いえいえ、越前守様。六三郎殿は、毛利との戦の際、拙者の提案した策を更に容赦無い策に昇華させただけでも驚きましたが、
最も驚いた策は、十日で百里を走り抜くという、前代未聞の策を決断し、実行した事です。のう、吉兵衛」
毛利との戦で六三郎が実行した中国超大返しの話を、吉兵衛に振る。振られた吉兵衛は
「その通りです。越前守様!拙者も戦の経験は多少はありましたが、六三郎殿の提案し、実行する策の全ては。敵をただ倒すだけでなく、
完膚なきまで倒す為の策であり、あれ程の心踊る戦は、この先の人生でもあるのか?と疑う程でした!」
興奮しながら、勝家に話す。その内容に勝家は
「百里を十日で走り抜くじゃと!!あのたわけ!!己の軍勢だけならまだしも、与力の軍勢にまで無茶をさせおって!!」
また倒れるんじゃないかと思う程、激怒していた。その様子に、側に居た利兵衛は
「大殿!また、倒れてしまいますぞ!落ち着いてくだされ!」
何とか勝家を宥める。少しばかり落ち着いた勝家は
「官兵衛殿、吉兵衛。見苦しい姿を見せて申し訳ない」
官兵衛と吉兵衛に頭を下げた。官兵衛は
「そんな、越前守様。六三郎殿が既に伝えていると思っていた我々が悪いのですから、頭をお上げくだされ」
慌てて、勝家に頭を上げる様に促す。言われた勝家は
「官兵衛殿の言葉に従おう」
と言いながら、頭を上げる。改めて官兵衛から
「越前守様。その、六三郎殿は自らの戦の細かい話はしないのですか?」
空気を少し変える様な質問をされるが、勝家は
「官兵衛殿。六三郎の奴は、家に帰って来た時でも、「勝って来ました」としか言わないのでな。しかも、
「赤備えの皆の見事な働き」と、自身ではなく、赤備えを含めた家臣達の武功としか言わぬのじゃ」
六三郎が戦の話を殆どしないと、官兵衛に話す。話を聞いた官兵衛は
「それもまた素晴らしいではありませぬか。普通の若武者ならば、家臣の武功と言わずに、自らの武功と喧伝しますぞ?それを喧伝しないとは立派であると思いますぞ」
六三郎が自慢ばかりのバカ息子じゃない事を、褒める。褒められた勝家は
「そう言ってもらえると、ありがたいのじゃが、幼い頃から、あ奴は常識外れな行動が多かったからのう。それこそ、五歳や六歳で領民の者達と猪や鹿を狩り
身の半分を領民達に分け与えて、残りの半分を持ち帰る事もやっておったしのう」
六三郎の昔からの常識外れと思う行動を話すと、吉兵衛は
「越前守様。六三郎殿は、その様な幼い頃から戦と言っても過言ではない事を経験していたから、あの様な軍略の才があるですか?」
六三郎の軍略の才の始まりかもしれないと、食いつく。そんな吉兵衛に勝家は
「まあ、その経験が微々たる程度には戦に役立ったと思うところはあるが、済まぬ。播磨国切り取りの話し合いをする予定だったのに、
六三郎の話ばかりしてしまった。本来の話し合いに入ろう」
播磨国切り取りの本題に入る様に話を振ると、
「そうですな。我々も調子に乗って、六三郎殿の話をしすぎてしまいました。それでは本題に入りましょう」
と、本題に入る事を了承すると、
「それでは、拙者の提案として、最初は調略を軸としまして、その際、越前守様には軍勢を率いてもらい、播磨国に居てもらいたく」
調略から始めるけど、その時に勝家に軍勢を率いて播磨国に居てくれと提案すると、勝家は
「官兵衛殿。それは、播磨国の国衆に「いつでも攻め込むぞ!」と思わせて、圧力をかけながら、調略をやるのじゃな?」
官兵衛の策の内容を推察する。すると官兵衛は
「その通りです。流石、戦場の経験が豊富な越前守様ですな。はっきり申しますと、六三郎殿の武名は、東海から中国地方まで轟いております
そこに越前守様が参戦したのであれば、余程の命知らずでないかぎり、膝を屈するでしょう」
具体的な内容も話す。しかし、その時に、
グ〜。と、吉兵衛の腹が鳴る。その音の大きさに
「吉兵衛!この様な時に、腹の虫を鳴らすな!」
官兵衛が思わず叱責する。そのやり取りに勝家は
「官兵衛殿。吉兵衛は若いから腹が減るのも仕方ない。飯の時間としようではないか」
飯の時間にすると伝えて、官兵衛も
「愚息が申し訳ありませぬ」
と、軽く頭を下げる。勝家は
「気にせずとも良い。それでは、飯としよう。利兵衛、準備せよ」
「ははっ!」
利兵衛に飯の準備を命令する。命令を受けた利兵衛は台所へ向かう。しばらくすると、大広間へ向かってくる足音が聞こえて、食べ物の香りも漂ってくる
勝家は、いつものつる達女中が運んで来たと思っていたら
「姫様!私達が運びますから!」
つるの慌てる声が聞こえたと思ったら、柴田家の四女の文が料理を運んで来たと思ったら、吉兵衛の前に置いて
「黒田様!私を嫁にもらいませんか!?」
いきなりの逆プロポーズをして来た。その様子に勝家は
「またか」
そう呟きながら天井を仰いだ。




