(未来の)鬼が出た!
「さあ!「柴田の神童」よ、儂と戦え」
面倒くさい感満載の声が聞こえる後ろを見ると、そこには小柄、もとい標準的な身長の子供が立っていた
「え〜と、あなた様は何処のお家の方でしょうか?」
「儂は徳川家家臣、水野藤兵衛の嫡男の国松じゃ!」
ああ。未来の「鬼日向」こと水野勝成か。さっきは井伊の赤備えを率いて徳川家の先陣を任される未来の井伊直政に会ったばかりなのに。なんで今日は本来の史実の有名人に会うかな。まあ、相手しないとしつこそうだから
「水野国松殿ですな。お初にお目にかかります。柴田吉六郎でございます」
「挨拶は良い!儂と戦え!武田を撃退したと噂のお主の武勇と戦いたい!」
挨拶は良いから戦え!とか、こんな小さい頃から脳筋とかマジか〜。正直苦手なタイプなんだよなあ
「国松殿。戦えと仰いましても戦う理由も無く戦ってしまうのは如何なものかと思うのですが?」
「戦う理由など「儂がお主と戦いたいから」それで良いではないか!」
うわあ、リアルジャ○○ンじゃないか。こんな小さい頃から自己主張強かったら「倫魁不羈」なんて後の世で呼ばれたり「戦国のニート」とか「戦国のフリーランス」とも呼ばれるか
「国松殿。拙者は元服はおろかいまだ十歳にもならぬ今年八歳の小童にございます」
「それなら儂も元服前で今年九歳になる小童じゃ!さあ条件は一緒じゃ!戦うぞ」
おい、武家の嫡男は此処まで面倒くさいのか?コイツ黙らせるには戦った方が早いんだけど、余計なトラブル起こしたら親父から正座で小言からの鍛錬コースが待ってるからなあ、仕方ない
「分かりました国松殿。戦いますが、戦う方法は拙者が選んでも宜しいでしょうか?」
「良いぞ!年下に花を持たせてやるのも年上の役目のひとつじゃ」
「ありがたき。では、源太郎。源次郎。儂の荷物のあれを持ってまいれ」
「「はは」」
「武田を撃退した神童と戦えるとは楽しみじゃ」
で、飯富兄弟が対戦道具を持って来た訳だけど
「ま、待て!戦うならば槍や刀や弓ではないのか?」
うん。やっぱり脳筋さんはそんな反応をするよね
「戦う方法は拙者が選んでも良いと仰いましたのは国松殿ではありませぬか。だから拙者は「将棋」で戦う事を決めたのです。それとも将棋をやった事が無いのでしょうか?」
「将棋をやった事はあるが」
「ならば問題ありませぬ!さあ戦いましょう」
「こ、この様な物が戦において何の役に立つ?武士ならば戦において必要なのは武勇じゃ!この様な」
「国松殿!」
俺の大声に国松が黙る。これはチャンス
「良いですか国松殿。戦において武勇は必要かもしれませぬ。しかし、国松殿は水野家の嫡男ですな?ならば、将兵と共に突撃するも策を練って敵の裏をかくのも知恵が必要と思いませぬか?昔から言うではありませぬか「智勇兼備の名将」と。知恵を使わずに闇雲に突撃して武功を挙げる武将は」
「分かった、分かった。父上みたいな小言を言うな!お主が持って来た将棋で戦う」
「ありがたき。では、拙者達が使わせてもらっている部屋でやりましょう」
で、将棋か始まった訳だけど
「む、むむむ」
「国松殿の番ですぞ」
「わ、分かっておる。こ、此処はこれじゃ」
「それならば、ここで飛車を取ります」
「あ!く、くそ。ならば、この歩を取る」
「ならば、ここで桂馬を置いて王手」
「ああ、しまった!この場はどうすれば」
「国松殿?」
「くそう!儂の負けじゃ!これで五回連続の負けじゃ!くそ」
かれこれ一刻も将棋をしていますが、国松殿がだいぶ長く考えるので回数は少なめですが、とりあえず負けなしです。しかし
「もう一回じゃあ!」
「拙者は構いませぬが、後ろの方々にも聞いてくだされ」
そう言いながら後ろを振り向かせると、
「殿!それに父上まで」
「このたわけ!!客人である柴田殿の嫡男に無礼を働いただけでなく、周りに聞こえる程の大声で醜態を晒しおって!」
国松殿の父親の水野藤兵衛さんはそう言いながら拳骨をした
「くお〜。ち、父上。此度は拙者が怪我をさせたとかではないのに、これは酷いではありませぬか」
頭を押さえながら国松殿が言い訳を始めた
「何を言っておる!お主が此方の吉六郎殿と話してみたいと申すから、儂が殿に許可を得て場を設けようと準備をしていたら、同輩の者達からお主が戦いを挑んでおると知らせてくれたのだぞ。事と次第によっては、儂は腹を切る事もありえたのだぞ!それをお主は」
ゴン!!
ひくレベルの音の拳骨が国松殿に再び落ちた。水野勝成が後々「戦国のフリーランス」になったのってこの鉄拳制裁も原因のひとつじゃないのかな?
と考えていると
「吉六郎殿!倅が無礼を働いて申し訳ない」
と水野藤兵衛さんが平伏してきた
「ちょ、ちょっと水野様。お止めください。ただ将棋をしていただけなのですから」
「誠に忝い。こ奴はお父上の柴田殿からの鍛錬を受けてないから、この様に無駄に動けるのです。明日からは徹底的に鍛えてくだされ!さすれば疲れはててこの様な事も無くなるはず」
「こればかりは父上が決める事なので、一応父上には伝えておきます」
「ありがたき。ほれ国松、屋敷に戻るぞ!吉六郎殿が遠江国に居る間に将棋で勝てる様に儂自ら鍛えてやる」
「将棋はもうこりごりです」
「だわけ!!将棋は言わば仮の戦場!駒を動かす事で将兵をどの様に扱うかを考えるもの!むやみやたらに突撃だけしては勝てぬ事を知らないなら、頭を使え!」
そんな事を話しながら水野親子は去っていったけど、藤兵衛さんの発言は、俺が出張で居る間は必ず将棋をやる事確定じゃないか!面倒くさい!
俺がそんな事を考えていると
「吉六郎。どうじゃ儂と将棋をしてみぬか?」
まさかの家康からの対戦希望だった
「拙者は構いませぬが、お時間等は宜しいのでしょうか?」
「ちょっとした息抜きじゃ」
「では」
こうして俺と家康の将棋対決が始まった




