覚悟を決めた祖父と新たな方針
天正十七年(1589年)十月五日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「虎次郎様、五郎殿、そして六三郎殿。心配をかけてしまい、申し訳ありませぬ。ですが、形だけでも次郎を見送る事が出来ました。誠に、誠に」
皆さんおはようございます。朝から虎次郎くんの傅役の典厩様の挨拶を受けております柴田六三郎です
四日前に典厩様の嫡男の次郎さんの嫁と子供達が、躑躅ヶ崎館に来て、その時に次郎さんが亡くなった事を知った典厩様ですが、
「形だけでも葬儀をして、見送ってやりたい」と希望して、翌日に恵林寺で紹喜殿に事情を話した所、
「そう言う事ならば、やりましょう」と決断した事で、武田家一門が全員恵林寺に集まり、形式上の葬儀を開き、
その後、典厩様は3日は喪にふくしていたので、今回の挨拶になりました
で、その3日が過ぎたので、今日に至るわけですが、典厩様は
「これからは、孫達を沙穂と共に育てないといかぬので、いつまでも弱音は吐いては、次郎が成仏出来ませぬからな」
と、強く振る舞う。無理をしている様にしか見えないが、虎次郎くんも五郎さんも、勿論、俺も変な事は言えない。だからこそ
「分かりました。典厩叔父上。沙穂殿と子供達ですが、沙穂殿は女中として働きながら、子育てしていくという事でよろしいのですな?」
虎次郎くんは、何とか先行き明るい話題をふってみると、典厩様は
「はい。次郎から頼まれたのです。沙穂も働く事は苦ではないそうですし、
小幡家に嫁いだ娘の初夏からも、「沙穂殿を追い出したら、許しませんよ」と強く言われました。もっとも、そんな気はありませぬ
次郎右衛門と豊次郎が元服し、子を持つ時まで長生きしないといけませぬ、沙穂もその時に孫達の側に居てもらいですからな。
孫達も沙奈は四歳、次郎右衛門は三歳、豊次郎は二歳ですから、先は長いからこそ、頑張らないといけませぬ」
笑いながら、これからの予定を語る。その様子に虎次郎くんは
「その様に考えておられるのであれば、孫達が元服する時に、甲斐国を豊かな国にしておかないといけませぬな!それでは、甲斐国の復興について、話し合うとしましょう!
六三郎殿、これからの予定として、やるべき事と、準備してすべき物は、何がありますかな?」
話題をさらに変える為に、俺に話をふってくる。まあ、そろそろワイン作りの色々な準備に取り掛かる予定でしたし、このタイミングでも良しとしましょう
「そうですな、父上が昔仰っていた葡萄が原材料の南蛮人が好んで飲むワインという酒を作る為の、酒樽、それも、小型の酒樽を作ってもらいたく」
俺のリクエストに虎次郎くんは
「あの、食べても美味い葡萄が酒の原材料になるのですか!しかも、あの数ですからな!大量にワインと言う酒が作れるどころか、大量の銭になる事も!」
(テンションが上がっております。でも待てよ?このままだと、赤ワインしか作る事が出来ない。それだと葡萄が不作の年が来た場合、甲斐国の経済が大ダメージを受けてしまう!
そうならない為にも、やるべき事は何だ?桃の実は来年から実がなる。でも、桃は長距離輸送には耐えられないから、何かしらの加工品にした方が良いのは間違いない!
ただ、葡萄はワインになるけど、桃はそのまじゃ酒にならないから、え〜と?)
虎次郎の言葉を聞いて、六三郎は葡萄が不作になった場合、他に酒の原材料になる物を考えていた。しかし、虎次郎と話している途中だったので、虎次郎は勿論、五郎と典厩から
「叔父上達、また六三郎殿の癖が出ておりますな」
「きっと、妙案が出るかもしれませぬ」
「我々では思い浮かばない妙案かもしれませぬ」
とてもハードルが上がっているのだが、六三郎は自分の世界に入っているので、気づいていない
(酒の基本材料は、米と水だ!そして、酵母や麹を作る事が出来れば!桃もこの時代なりの果実酒に出来るはず!
よし、甲斐国の杜氏達も巻き込んでの酒作りをして、甲斐国へ銭を落とそうじゃないか!そうと決まれば!)
六三郎は考えがまとまった様で、
「虎次郎様!先程の」
虎次郎に話をふろうとしたら
「六三郎殿!妙案が出たのですな?」
「是非とも聞かせてくだされ!」
「どの様な内容ですかな?」
既に3人が自分を見ていた事に気づいた六三郎は
(あっ、また例のクセが出ていたっぽいな。今の今まで忘れていたよ。まあ、これはもう仕方ない)
仕方ないと諦めて、
「それでは、先程もお伝えしましたが、南蛮人の好むワインと言う酒の原材料は葡萄です。ですが、葡萄が不作の年が連続で続く可能性もあります!
そこで、これから植える桃は勿論ですが、麦も酒に加工してます!その酒作りの為に、杜氏の方々にも協力してもらいたく!」
虎次郎と五郎と典厩の3人に、大まかな説明を行ない、説明を聞いた虎次郎は
「ふむ。確かに、葡萄が毎年豊作になるわけでは無いですからな。それを踏まえて、葡萄以外も酒に加工出来る様にしておくと、そう言う事ですな?」
理解した様で、六三郎は
「はい。その通りです。なので、杜氏達の中で、新しい酒作りに挑戦したい者達を探し出していただきたく」
細かい部分の説明をして、虎次郎は
「分かり申した。農作業をしている六三郎殿に杜氏達との交渉まで担っていただくわけには行きませぬから、我々が交渉を担いましょう」
自分達が杜氏達との交渉を担うと言い、これから動き出す事になった。




