真田兄弟が到着すると、景勝が震える
信尹からの情報を聞いた六三郎は、直ぐに床几を準備させて、その場で景勝への文を書き出した。書き出して約20分後、
「よし!完成した!喜兵衛!倅達は居るか?」
「はい!二人共、移動の準備は完了しております!」
「うむ!ならば話は早い!源三郎、源二郎!この文を1日も早く、上杉越後守殿へ届けよ!」
「「ははっ!」」
六三郎から文を受け取った信幸と信繁は、即座に出発した。2人が出発した事を確認した六三郎は
「この事は武田家全体にも伝えておかねばならぬ!今日明日で新発田左源太とやらの軍勢が甲斐国へ到着する事は無いと思うが、警戒はしておかねば!特に国境は警戒を強くしてもらおう!」
この件を武田家全体にも伝えて、武田家の軍勢も多く使う事を決めた。その日の埋め立て工事を終えて、
虎次郎と五郎と典厩に伝えると
「六三郎殿!その話は誠ですか!?だとしたら、その新発田左源太とやらは、かなりの阿呆ですな?」
典厩が最初に余裕ある言葉を話す。その言葉に拍子抜けした六三郎は
「典厩様?余裕ある言葉は、気持ち的にありがたいのですが、何故、それ程落ち着いていられるのですか?」
訳もわからず質問すると、典厩は
「六三郎殿、ご存知とは思いますが越後国は縦に長い国です。そのせいで越後守殿の養父で、先代の上杉家当主の不識庵謙信も越後国の統一に長い時を要したのですが、その要因のひとつが広すぎる国土です
それに、新発田左源太とやらの領地の揚北は、「阿賀野川から北側」だから揚北と呼ばれる地ですぞ。それこそ、甲斐国よりも、出羽国の方が近いのですから、
まあ、六三郎殿が毛利との戦で実行した、「十日で百里を走り抜く」を三回は実行して、更に北条家の領地である上野国を難なく通れたとしても、
甲斐国へ到着するのは早くとも二ヶ月後です。なので、それ程慌てずとも良いのです」
具体的に説明してくれた。その事で六三郎は
「そうでしたか。それならば、拙者が上杉殿に送った文の方が早く到着する可能性が高いですな」
と、少しばかり張り詰めていた気持ちが楽になる。そして、虎次郎から
「六三郎殿。恐らく、その新発田左源太とやらは、甲斐国へ到着する前、それこそ上野国を無理に通ろうとして、北条家に討たれる可能性が高いでしょう
なので、国境を警戒するくらいにしておきましょう。六三郎殿は引き続き、埋め立ての陣頭指揮をお願いします」
「恐らく、そいつら北条家に討たれるよ」とフラグ発言が出たので、六三郎は思わず
「ははっ!」
と、返事をして、対処の軍議は終わった。そして、六三郎からの文を上杉家へ運んでいる真田兄弟はというと
天正十七年(1589年)五月二十五日
越後国 上杉家館
「殿!甲斐国に居ります柴田様の家臣と申す者達が、殿へ文を届けに来たとの事です!文だけを受け取りますか?」
「人数が少ないのであれば会う。何人じゃ?」
「二人です!」
「ならば連れてまいれ!」
「ははっ!」
甲斐国を出発してから15日目にして、真田兄弟は上杉家の館に到着した。実際のところ、甲斐国から越後国に入ったのは10日目だったが、
上杉家の館を探す事に5日も費やしていたが、ようやく見つけて、景勝や家臣達の居る大広間へ通される事になった。そんな2人を見て景勝は
「おお!お主達、真田喜兵衛殿の倅達ではないか!久しぶりの再会に、酒でも飲み交わしたいが、義兄上の六三郎殿からの文を最優先としよう!見せてくれ」
「ははっ!此方です!」
再会を喜んだが、一先ず六三郎からの文を読む為、兼続経由で文を受け取り、読みだす
「どれ。「上杉越後守殿。茶々の兄の柴田六三郎じゃ。茶々とは仲睦まじく過ごしておるか?辛い思いをさせたら許さぬぞ。さて、本題に入るが、
実は、上杉家家臣の者達の中で、揚北と呼ばれる地域に領地を持つ新発田左源太とやらが、甲斐国を目指して進軍している。との情報をとある筋から手に入れた
勿論、何処まで信頼できる情報かは分からぬ。しかし、甲斐国は現在も埋め立て作業の真っ最中であるから直ぐに軍勢は動かさぬ!なので、もしも新発田左源太とやらが軍勢を動かしているのであれば、
出来れば越後国内で始末して欲しい!越後国は国土が大きいから、移動する事も大変であるとは思うが、
頑張ってもらいたい!もしも出来ないと申すのであれば、再び儂や赤備えの皆を含めた軍勢が越後国へ向けて出陣し、暴れ回るだけじゃ!
だが、出来ればその様な事をせず、甲斐国の復興に集中したい。だからこそ、新発田左源太とやらは越後国内で対処してくれ」と、あるが」
景勝は此処まではいつも通りだったが
「い、い、いかん!義兄上は、六三郎殿は、暴れ回ると宣言したら、誠に暴れ回る!それこそ、土地の復興に長い時を要する程じゃ!皆も知っておるじゃろうが、春日山城は未だに壊れたままじゃ!
その事を鑑みるに、六三郎殿は新発田左源太を越後国内で殺せと言うだけでなく、もしも甲斐国へ進ませてしまい、復興が遅れてしまったら、怒り心頭になる!
皆!急ぎ、出陣準備をせよ!六三郎殿が実行した、「十日で百里を走る」という事はせぬが、出来るかぎり早く移動して、新発田左源太を止めるぞ!」
「「「ははっ!」」」
「出陣じゃあ!」
「久しぶりの戦じゃあ!」
「上杉家にたてつく新発田左源太なぞ、討取り、晒し首にしてしまえ!」
「「「「おおお!」」」」
家臣達の殆どが出陣準備の為に、大広間から出て行くと、景勝と茶々と兼続と小姓数名と、真田兄弟が大広間に残った。そんな状況でも景勝は
「六三郎殿の戦関連の文、は、やはり背筋が、冷える。手の震え、も、じゃ」
六三郎からの文に震えていた。そんな景勝の手を茶々が握り、落ち着かせると
「喜平次様。私は優しい兄上しか知りませぬ。戦場での兄上は、震えが止まらぬ程、恐ろしいのですか?」
景勝に質問する。景勝は
「茶々。義兄上は、戦に勝利する為なら無茶苦茶な事を平気で出来る人じゃ。そして、何度か会話をして分かったが、
やらずとも良い戦を最も嫌うのじゃ、だからこそ、新発田左源太を越後国内で、上杉家で止めないと!」
景勝なりに六三郎の為人を理解しているからこそ、六三郎を出陣させてはならない!と、決断した。




