秀吉の募集に現れた者達の中に
天正十六年(1588年)十一月十一日
備中国 備中高松城 城下町
「へえ〜。新しい領主の羽柴様が、高札で城の中で働く者を男女問わず募集しておるそうじゃ」
「そうなのかい?でも、男の方は戦に連れて行かれるんじゃないのかい?」
「いや、男の方は希望者は戦に連れて行くけど、基本的に連れて行かない。と書いてあるぞ」
「なんとまあ、戦に連れて行かないなんて、よっぽど武士が沢山居るのかねえ。でも、女の方の仕事は何だろうか?まさか、羽柴様の夜のお相手とかかい?」
「いや、基本的には城の中の掃除とかの雑事らしいよ。でもさ、もしかしたらだけど、城の中で働いていたら、羽柴様の家臣の方に娘が見初められて、嫁入りするかもしれないよ?」
「まあ!ちゃんとしてる家臣の方なら良いけど、だらしない家臣の方は勘弁して欲しいねえ」
「とりあえず、話を聞くだけでも良いとあるし、代官様のところに行ってみるか」
「そうだねえ、行ってみようか」
秀吉は清正達の嫁取りの為、翌日に行動を起こした。もっとも、甥の秀次を無理矢理連れて行って、信長から叱責された反省から、高札を立てて、希望者を募るやり方を取っている
その高札に、城下町の領民達は群がり、戦に行かないで良いのであれば、代官の元に行って話を聞いてみるか!
と、盛り上がっている。そんな、盛り上がっている領民達から少し離れた所に、4人の家族が居た、その家族のうちの男児は
「父上!羽柴様の元へ行きましょう!あの毛利に勝利した方ですから、きっと」
父親へ、羽柴家の募集に行こうと提案する。母親も
「立之進様、三之尉もそう言っておりますし。此処は」
そう言って、父親の背中を押す。更に
「父上。このままだと、御家復興など夢のまた夢ですよ!三乃はだらしない父上は嫌いです!兄上と母上が仰る様に、早く羽柴様の元へ行きましょう!」
娘までもが、背中を押す。家族3人から背中を押された父親は
「分かった。羽柴様の元へ行こう」
遂に決断して、代官の元へ向かう。代官職に就任しているのは、秀次の養父の宮部継潤だった。補佐として秀次も側に居る。そこに例の親子が来て
「◯◯立之進と申します。後ろに控えるは、拙者の家族でございます」
と、名乗ると、宮部は
「◯、◯◯じゃと!もしや、十数年前まで、この備中国の大きな勢力であった、あの」
驚くが、立之進は
「はい。あの◯◯家の生き残りです」
堂々と言い切る。その立之助に秀次は
「あの、ちなみに何故、羽柴家へ仕官を?言っておきますが毛利との戦は、恐らく二度と起きませぬ。なので」
立之進の実家に関係ある毛利との話をする。しかし、その話を聞いても立之進は
「父上の事は、確かに思うところはあります。ですが、拙者の思いは、羽柴様が毛利を倒し、屈服させた事で成し遂げられました
今は、家族の為に、小さな領地を得たいのです!なので、羽柴家への仕官を、お願いします」
そう言いながら、頭を下げる。後ろの三之尉達も
「「「お願いします」」」
と、頭を下げる。その様子に継潤は
「治兵衛。この家族は一度、殿の元へ連れて行った方が良いかのう」
秀次へ、秀吉の前に連れて行った方が良いか聞き、秀次は
「父上。それがよろしいでしょう。はっきり申しまして、我々では荷が重いです」
自分達では対処出来ないから、そうしようと言う。そして、
「分かりました、◯◯殿。明日の朝に此方に来て、そらから殿の居る城へ行き、ご自身を売り込んでくだされ」
「ははっ!」
こうして、今日の面談は終了した
翌日
立之進達家族は秀次の案内で、備中高松城に到着し、大広間で平伏していた。そこに秀吉が来て、
「治兵衛!お主と宮部の親父で対処出来ないと言っておったのは、この家族か?」
「はい。その通りです。父上が対処出来ない家族なので、拙者にはとても」
秀次に質問するが、秀次は正直に答える。その状況に秀長が助け舟を出す
「まあまあ兄上。先ずは、この家族に自己紹介をしてもらいましょうか。その為にも、兄上から自己紹介してくだされ」
「それもそうじゃな。そなた達。先ずは面を上げよ」
秀吉に言われて、立之進達は平伏をやめる。全員の顔を見た秀吉は
「それでは自己紹介といくが、儂は織田家家臣羽柴従四位下弾正大弼で、此処、備中国を中心に九十万石程、領地として治めておる。お主達の自己紹介してもらおうか」
自己紹介をした後、立之進達は自己紹介を促し、立之進は
「はは。拙者、三村立之進勝親と申します!後ろに控えるは、拙者の家族であります。嫁から自己紹介させていただきます」
「立之進様の嫁の、三好と申します」
「嫡男の三村三之尉三親と申します」
「娘の三村三乃と申します」
4人の自己紹介を聞いて、秀吉は
「成程。かつて、この備中国の半分、いや、殆どを治めておった三村家の生き残りというわけか、くっくっく。これは確かに、治兵衛や宮部の親父では対処出来ぬな」
と、軽く笑い、ひと通り笑い終えると
「さて、三村立之進よ。お主、今年で何歳じゃ?」
「今年で二十六歳になります」
「そうか。では、備中国が毛利に奪われて、父親達が討死した時は何歳であった?」
「十三歳でした」
「倅の三之尉は、今年で何歳じゃ?」
「今年で十歳になります」
「ほう。元服するには少しばかり、早いと思うのじゃが、何故それほど早く元服をしたのじゃ?」
「ははっ!父上と共に武功を挙げ、いつか、小さいながらも領地を持ちたいと思ったからです!」
「そうか!立派な心がけじゃ!次に嫁の三好、お主は今年で何歳じゃ?」
「今年で二十五歳になります」
「そうか、それくらいの歳ならば知り合いもそれなりの数が居るはずじゃな。では、娘の三乃は何歳じゃ?」
「今年で四歳です!私達家族を召し抱えてください!お願いします!」
三乃の切実な姿に、側に居た寧々が
「殿。あの様な幼子が家族の為に頭を下げておるのですから」
絆されてしまったのか、秀吉に召し抱える様に頼むと
「分かった、分かったから。とりあえず三村家全員、召し抱えよう。しばらくの間、戦は無いじゃろうから、立之進と三之尉、
お主達が武功を挙げる機会は、まだまだ先じゃが、それまでは身体と頭を鍛えてもらうぞ、良いな?」
「「ははっ!」」
「そして、三好と三乃。三好は勿論じゃが、三乃も少しばかり女中として働いてもらうぞ」
「「はい」」
「うむ。これからよろしく頼むぞ」
「「「「ははっ!」」」」
こうして、三村家は秀吉の家臣として召し抱えられた。
 




