新たな官位に喜ぶ秀吉と家臣達の変化と嫁取りの開始
天正十六年(1588年)十一月十日
備中国 備中高松城
場面は前年の十一月に戻り、羽柴家の新たな本拠地である備中高松城。信長が面談合格者達を甲斐国へ引率している頃、秀吉は城下町の整備に励んでいた
「先ずは、領民達が暮らしやすい町作りからじゃ!ひとつずつで構わぬ!そして農村の百姓には、六三郎殿から教わった、滋養豊富な土の作り方を教えよ!
そこから、一気に全ての事は出来ないが、少しずつ確実に進めていけば、早い段階で形になっておる!そうじゃろう小一郎!」
秀吉に聞かれた秀長は
「そうですなあ。少しずつ、確実に。これは兵達にも言えますな。六三郎殿の柴田家にはまだまだ遠く及びませぬが、虎之助と市兵衛は、六三郎殿が実行した、
「百里を十日で走り抜く」を成し遂げて、更に自信に満ち溢れております。それでも、六三郎殿の家臣の赤備えの面々と比べたら、
「自分達は遅かった、ついていくのがやっとだった」と、悔しさも噛み締めております。だからなのでしょうな。城の近くに登り坂を作り、登り坂を全力で走り、
下り坂は小走りで進む。そして、兄上がやっている四種の動きを、若い者達全員でやっておりますからな
それこそ、主に内政を担う佐吉は勿論、仕えて間もない宇喜多家の八郎までも走り、鍛え、あっという間に逞しくなりましたから、間違いなく良い影響ですな」
加藤清正や福島正則達が、毛利との戦以降、自分達がまだまだであると痛感して身体を鍛えだした事を話し、秀吉も
「はっはっは!やはり六三郎殿と共に行動すると、羽柴家全体に良い影響が出るのう!その最たる結果が、
殿が朝廷と交渉してくださり、儂に与えてくださった弾正大弼の官位じゃ!以前までの筑前守でもありがたかったが、その筑前守よりも二段は上と言っても過言ではない官位じゃ
ありがたく頂戴して、更に織田家の為に働こうではないか!それに、六三郎殿は播磨守の官位じゃから、殿は六三郎殿に播磨国を完全に征圧しろと、遠回しに仰っておるな」
六三郎に感謝を示しながらも、これから更に播磨国切り取りが待っている事を不憫に思いながら話す
すると秀長は
「やはり、内府様も織田家当主になって数年経過しておりますから、六三郎殿への信頼があるのでしょうな」
信忠の六三郎への信頼を話し、秀吉は
「それは間違いないな。しかし、今更ながらに六三郎殿は、元服してから領地で大人しくしておる年が一年も無いのう。三河国での戦を終えたと思えば、
その三河国での財政改善を行ない、成し遂げたと思えば、次は伊勢国で殿の御舎弟の三七様と三介様の国主を決める争いに参加し、その争いが終われば、儂の子作りの為に協力してくれて、
それが終われば紀之介を連れて、武田、正確には穴山討伐へ出陣して、それから一年も経たずに次は上杉との戦、そして、上杉との戦が終わって数ヶ月後には
毛利との戦じゃ。今のところ、甲斐国の復興に尽力しておるが、恐らく、そう遠くないうちに甲斐国の近くの戦に出陣しておるとしか思えぬ働きっぶりじゃな」
六三郎のこれまでの働きを振り返りつつ、フラグを建てて、秀長も
「そうですなあ。改めて言葉にすると、正に「休み無し」ですな。まあ、だからこそ越前守様も、更なる子作りに専念出来た。とも言えますが」
六三郎の働きに驚きつつも、勝家に新たに子が生まれた会話になると
「そうじゃそうじゃ!親父殿は六十六歳で子を授かったのじゃ!この話を聞いた時、更に儂も頑張らないといかぬと思ったぞ!流石に寧々との二人目は、寧々の年齢と体力的に無理じゃから
側室の誰かしらが相手になるが、大殿も孫が増えたそうじゃ!儂もまだまだ頑張って親父殿とお市様との約束を守って、
吉が六三郎殿の弟君、京六郎殿の正室にする話を、何としても成し遂げたい!さすれば、羽柴家も少し遠いが、織田家の一門となる!織田家の天下取りの次に、
重要な目標じゃ!その為に小一郎よ、しっかりと長生きせんといかんぞ!」
秀吉は興奮しながら、既に9人も子供が居るのに、更に子作りを励む宣言と、勝家と市に言われた「京六郎の正室にお前の娘を推挙してやる」を成し遂げる事を目標とするが
秀長から、ある事実を突きつけられる
「それは勿論ですが、兄上。その目標の為に、我々が頑張らないといけない事があるのを忘れていませぬか?」
秀吉は
「何の事じゃ?」
忘れているのか、考えてなかったのか、素っ頓狂な答えを口にすると秀長は
「兄上、虎之助や市兵衛達の嫁取りですよ!それこそ、若君の年齢を考えると、若君が平均的な年齢で元服する頃、兄上は還暦ですし、拙者も五十後半です
我々より若い虎之助達は、三十代ですから問題無いでしょうが、念の為、今のうちに嫁取りさせて子を授かってもらい、虎之助達が今の我々と同じ五十代になった時の不安を取り除いておくべきかと」
加藤清正達に嫁を取らせて、長望丸を支える世代の子が生まれて、将来の不安を取り除いておくべきだと提案する。提案を聞いた秀吉は
「ふむ。小一郎の言うとおりじゃな。これは儂達が関連どころか喜寿になっても働かない為にも必要な事じゃな!とりあえず、家中の中で姉か妹が居る者は、
紹介してもらって、それでも駄目なら、町の娘を女中として雇い、そこから誰かしらの嫁になってもらうか」
現時点で可能な案を話し、秀長も
「今のところは、それが一番現実的と、拙者も思います」
秀吉の提案を後押しした。そして秀吉は
「よし!先ずは独身の女子が居るのかの確認といこう!」
「ははっ!」
こうして、羽柴家中の嫁取りがスタートした。




