到着した兄貴分はありがたくも上杉家は不穏な空気が
天正十七年(1589年)四月十日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「織田様より、柴田様の奥方様と、仁科様の奥方様の出産をお助けする命令により、本日からお世話になります」
「うむ。五郎叔父上と六三郎殿、どちらも無事に子が産まれる事を願っております!何卒、よろしくお願いします」
皆さんおはようございます。道乃と雪の出産を助けてくれる、産婆さん達が到着してホッとしております柴田六三郎です。いや、本当ありがたいですよ
だって、出産に関して男は神頼みしか出来ないんですから、本当に殿と大殿、ありがとうございます
ただ、鬼武蔵さんが大殿の代わりに、産婆さん達の引率を担当するのは、池田様が事前に提案していたので、甲斐国に居るのは理解出来るのですが、
何故、親戚のこの人が居るのか、とても不思議な状況になっております
「え〜と。玄蕃の兄上。領地の方は大丈夫なのですか?」
「その事ならば、六三郎の父である叔父上にしばらく見てもらっておる。それにな、六三郎よ。叔父上から、お主が子を授かると聞いたら、
何かしらの祝いの品を贈りたかったのじゃが、儂はお主の様に、領地を富ませる才が無いから、可もなく不可もなくな税収しか上げられぬ。かと言って、領民達に無理をさせたくない!
だから六三郎よ!お主が陣頭指揮を取っておる、埋め立てに参加して、お主が道乃殿の側に居てやれる時間を多く作る!それを祝いの品代わりに受け取ってもらえぬか?」
うん。鬼玄蕃さんが、そこまで真剣な顔で言って来たら、ねえ。しかも、領民に無理をさせたくない!なんて言われたら。祝いの品なんてそもそも、俺本人が忘れていたんだから、そのままでも良かったのに
そこまで言われたら、ねえ。気持ちを受け取りましょう
「玄蕃の兄上。そのお気持ち、充分受け取りました。なので、無理せず、埋め立てに参加してくだされ」
「そう言ってもらえて、ありがたい!何かあれば、遠慮なく言ってくれ!兄の様な立場として、出来るかぎりの事をやる!」
「その時は、よろしくお願いします」
こうして、鬼玄蕃さんは鬼武蔵さんと共に、埋め立て工事に行きました。まあ、この後、俺も行くんですが。ただ、両者共、連れて来た人数が、700人ずつ
合計1400人が、新たに埋め立て工事に参加する事になるのですが、上杉家と長宗我部家の皆さんの合計600人が帰って、人数が不安だと思っていたら、
まさかのプラスになりました。それだけでもありがたいのに、周辺領民の横のつながりから、300人が埋め立て工事に参加しているので、それを考えると、
柴田家から七千人、武田家から二千人、徳川家から六百人、織田家から百二十人、領民の三百人に加えて、
今回、新たに埋め立て工事に参加してくれる両家合わせて一千四百人。参加者全員合計が一万一千四百二十人ですよ。領民を抜かしても、一万一千は変わらないので、
北条家以外が攻めて来たら、一蹴出来るだけの大軍です。まあ、信濃国と信濃国の南側の駿河国と遠江国は徳川家の領地、信濃国の北側の越後国は上杉家の領地
徳川家は同盟相手で、上杉家は同じ織田家の家臣。これなら、安心して埋め立て工事に集中出来ます!
それじゃあ、俺も埋め立て工事の現場に行って、働きますか!
六三郎が埋め立て工事参加者の大幅増加に安心している頃、上杉家に不穏な空気が流れていた
天正十七年(1589年)四月十五日
越後国 上杉家 居館
「その様な決定、承服出来ぬ!」
「何故じゃ!反対しておるのは、お主だけじゃぞ!」
「何が気に入らぬのじゃ!新発田殿!」
上杉家の新たな拠点でもある、居館で評定を開いていると、新発田佐源太重家という家臣が反論していた。その理由とは?
「そもそも!何故に奥方様の実家で実施しておられる、兵達を鍛える方法を導入するのじゃ!越後国の人間は、それ程弱いと申されるのですか?殿!」
どうやら新発田は、赤備え達が柴田家や出陣先で実施している訓練を、上杉家でも導入する事を反対していた様だったが
「他にも!何故、褒美となる領地が、能登国を丸々一国ではなく、四分割してその内の三分なのですか!
これでは、越後国から遥か遠くの国で討死した者達が不憫ではないですか!殿!何故、織田家に抗議しないのですか!」
そう言って、景勝を説得しようとするが、景勝は
「のう、新発田佐源太よ。お主、儂を含めた二千人が義兄上と共に毛利との戦に出陣して、直江平八を含む五百人が甲斐国で土木作業にあたり、
残りの一千五百人が讃岐国で敵襲に備えていた頃、越後国で何をしておった?復興の陣頭指揮を取ってくださった明智日向守殿が残した名簿には、お主やお主の家臣が参加したという記録は無いぞ?
お主以外の揚北衆は参加したと、記録に残っておるのに、お主は何をしておった?
まさか、揚北で一人だけ何もしていなかったのか?どうなのじゃ?答えんか!!」
柴田家で勝家に、戦場で六三郎に鍛えられたから、なのか、景勝はこれまでに家臣達が聞いた事の無い大声を出して、新発田を一喝する。しかし、
「拙者は、今の殿にはついていけませぬ!殿が以前の殿に戻らぬかぎり、出仕しませぬ!失礼する!」
景勝の言葉を無視して、評定の場を出て行った。景勝は、
「のう、平八よ。新発田があの様な態度では、揚北衆がまとまらない可能性は高いじゃろうな」
「殿。いざとなれば」
「分かった。その方針は持っておこう」
景勝が上杉家を生まれ変わらせようと決断しても、一部の愚か者のせいで、景勝と兼続は頭を悩ませていた。




