歓喜の躑躅ヶ崎館と慌ただしい信長
早苗と将の報告を受けて、六三郎と盛信は、道乃と⛄️が安静にしている部屋へ走る。部屋に到着すると、
「道乃!大丈夫か!」
「雪!大丈夫か!」
六三郎も盛信も同じ言葉をかける。最初に道乃が、
「あ、六三郎様。ご心配をおかけしました」
と、逆に六三郎を労うと、雪は
「五郎様。お役目は良いのですか?」
と、盛信を心配する言葉をかける。その様子を見た信長から、
「これ!六三郎と五郎!道乃も雪も、お主達の子を授かったのかもしれぬのだぞ!その様に呆けてないで、しっかりせんか!」
檄が飛ぶ。信長の後に典厩から、
「六三郎殿も五郎殿も。道乃殿と雪殿を休ませる事を優先すべきですぞ。甲斐国の冬は冷えますので、念入りに暖かくして、休んでくだされ。虎次郎様、明日の朝一番に医師を呼びましょう」
朝一番で医者を呼ぶ事を提案された虎次郎は
「うむ。六三郎殿と五郎叔父上は、お2人の側に居てくだされ。ありがたい事に、右府様も池田様もおりますから。
右府様、池田様。しばらくの間、六三郎殿と五郎叔父上を休ませる為に、お力を貸していただきたく」
信長と恒興に頭を下げて、頼む。信長と恒興は
「はっはっは!虎次郎よ。この様な状況じゃ!儂と勝三郎の様な年寄りが働いてこそ、皆が落ち着くというものじゃ!のう、勝三郎!」
「大殿の申す通りですな。虎次郎殿。拙者だけでなく、倅達も遠慮なく働かせても構いませぬ!」
六三郎と盛信は勿論、虎次郎を安心させる為に、豪快に笑いながら、場を明るくさせる。その様子に、
「大殿、池田様。ありがとうございます」
「しばらく、ご迷惑をおかけします」
六三郎と盛信は頭を下げる。こうして、道乃と雪の診断は明日の朝一番に行なう事になった
翌日
虎次郎の命令を受けて、惣右衛門が近くの医者を捕まえて、躑躅ヶ崎館まで連れて来て、診断させると
「それでは、それぞれの奥方様の診断結果ですが、おめでとうございます。お二人共、ご懐妊しております」
道乃も雪も妊娠している事が分かった。その事が広まると、
「「「万歳!万歳!」」」
「遂に!遂に!殿のお子が!」
「我々が先に嫁をもらい、子を授かっても祝ってくださった殿に、お子が!」
「嬉しい!嬉しすぎて!」
赤備えの創設メンバー達は、これでもかと大泣きしていた。その一方で
「母上。おめでとうございます」
「しっかりと身体に気をつけてください。私達も、出来る事は手伝いますから!」
「「母上!おめでとうございます!」」
盛信の娘達も、雪の事を祝っていた。躑躅ヶ崎館全体が、お祝いムードに包まれる中で信長は、
「医師殿。おおよそで構わないが、妊娠何ヶ月か分かるか?」
妊娠何ヶ月かを質問する。医者は
「こちらの道乃様がおよそ四か月、雪様がおよそ三ヶ月。と、いった所ですな」
道乃が四ヶ月、雪が三ヶ月であると伝える。それを聞いた信長は
「ううむ!流石に二人が出産するまで甲斐国に居てやりたい!そうすれば六三郎も五郎も役目を少しばかり休めるのだが、
それでは、勘九郎から遠出を禁止されてしまう!どうしたものか」
どうにかして、甲斐国に居る期間を延長しようと考えていた。そんな信長を見て六三郎から
「大殿。よろしいでしょうか?」
「何じゃ六三郎、何かしらの妙案でもあるのか?」
「はい。もっとも、殿が了承してくださるか怪しいですが、帰蝶様と松姫様を味方につけたら、上手く行く可能性がある提案として、
大殿は一度安土城へお帰りいただき、殿へこの事を伝えて、産婆を甲斐国へ引き連れていく役目を大殿が請け負ってくだされば」
「成程、そう言う事ならば帰蝶と松が儂に味方をしてくれるかもしれぬと!」
「はい。もしも、殿が了承しない場合は、池田様への負担が増えてしまいますので、大殿の代わりとなるお方が居てくれたら、ありがたいのですが」
六三郎がそこまで言うと、恒興が、
「大殿。もしも、もしも殿が了承しない場合は、拙者の娘が嫁いでおります、勝蔵が一番近い距離の者で、頼りになるかと。大殿が無理な場合は、勝蔵に来てもらうのも良いと思いますぞ」
信長が信忠から甲斐国へ行く事を却下された場合の代替え案として、美濃国に領地を持つ、森長可を代わりに寄越して働かせたら良い。と提案する
提案された信長は、
「うむ。確かに、甲斐国へ一番近い距離の領地を持つのは勝蔵か。勝蔵や家臣達ならば、埋め立ての役目でも、しっかりと役に立つか
分かった!勘九郎に甲斐国へ戻る事を却下された場合、勝三郎の提案を実行しよう!勘九郎から、如月のうちに戻って来いと言われておるから、今のうちに
安土城へ戻り、道乃と雪の懐妊を伝えて、産婆達を甲斐国へ行かせる様に話しておく。勝三郎!しばらくの間、役目が多くなるが、よろしく頼む!
六三郎と五郎!役目に行くのも良いが、出来るかぎり道乃と雪の側に居てやれ!良いな?」
「「ははっ!」」
「うむ。それでは、一度安土城へ戻るが、儂が居なくとも、それこそ六三郎が見てなくとも、埋め立てを進めておく様に!」
「「「ははっ!」」」
「それでは、お蘭。そして皆!一度、安土城へ帰るぞ!」
「「「ははっ!」」」
こうして、遠出禁止にならない為に、信長は一度安土城へ帰って行った。