両家の現れた理由と大殿の笑顔の理由は
勝家からの質問に最初に答えたのは、官兵衛。
「越前守様、五日程前の事です。左中将様改め、内府様から拙者が従五位下但馬守、尼子殿が従五位下出雲守の官位を朝廷からいただいた旨の文が届いたのです
その文には、六三郎殿が従五位下播磨守の官位をいただいたとも書いてありました。その文を見て、拙者も尼子殿も、とても気になる事があったので此度、
越前守様の前に現れたのです。単刀直入にお聞きしますが、越前守様、柴田家の新たな本拠地は播磨国でしょうか?」
官兵衛の言葉のあとに勝久が
「越前守様。官兵衛殿が殆ど拙者の言いたい事を言ってくださいましたので、拙者も同じく柴田家の新たな本拠地の事を教えていただきたき!出雲国の隣の、伯耆国でしょうか?」
官兵衛と同じく、柴田家の新たな本拠地の事を聞いてきた。2人の言葉を聞いた勝家は
「黒田殿も尼子殿も、何故、柴田家の新たな本拠地の事を、そこまで知りたいのじゃ?」
2人が本拠地を知りたい理由を尋ねる。官兵衛は
「尼子殿も同じ理由だと思われますが、毛利との戦の際、六三郎殿が言っておりました。柴田家では、他家の嫡男は勿論、そうではない者達も、理財を中心に色々と学んでいる
それを聞いて、拙者としては次男の熊之助を、柴田家で学ばせたいと思ったのです」
次男に色々と学ばせたいからだと伝え、勝久も
「拙者も官兵衛殿と同じく、次男と三男を学ばせたいと思ったからでございます」
同じ理由だと答える。答えを聞いた勝家は、
「黒田殿、尼子殿。新しい本拠地の事じゃが、六三郎と話し合って、因幡国に決めたのじゃ」
隠す事なく答えるが、官兵衛は
「播磨国に近い国だから、まだ良いか」
と、少しだけ安堵して、勝久は
「出雲国の隣の隣とは。それでも、近いと言えば近いか」
少しだけ悔しそうな顔をしていた。そんな2人に勝家は
「尼子殿も黒田殿も、先に言っておくが、因幡国はあくまで仮の本拠地じゃ。その理由として六三郎が内府様より、「播磨国の大部分」を領地として提示されたが、
その大部分が安全か分からぬのでな。状況次第では、黒田家以外は全て敵の可能性もあるので、万が一を考えて、播磨国へ出陣しやすい因幡国を仮の本拠地に決めたのじゃ」
因幡国を仮の本拠地に決めた理由を話す。理由を聞いた2人のうち、官兵衛は
「越前守様!それが理由なのでしたら、播磨国が安全であれば、本拠地を播磨国へ動かすという事ですな?」
興奮気味に、勝家に質問する。官兵衛の勢いに勝家も
「う、うむ。裏を返せば、そういう事じゃな」
若干引き気味で答える。答えを聞いた官兵衛は
「越前守様!播磨国切り取りの件、この黒田家が全力でお支えしましょう!最初は交渉をし、それでも柴田家に降らないのであれば、武力で征圧してしまいましょう!」
とても気合いが入っていた。そんな中で勝久は
「越前守様、播磨国が本拠地になるのは仕方ないですが、その播磨国の征圧後に住まわれるお屋敷か城は、
拙者の次男や三男を寝泊まりさせても、大丈夫な広さでしょうか?」
柴田家が播磨国を征圧した後の居住地の事を聞くが、勝家は
「尼子殿。今のところは、因幡国を仮の本拠地にする事と、状況次第では播磨国切り取りの戦がある。ぐらいしか、決まっておらぬので、住む場所の広さまでは分からぬ。としか言えぬ」
殆ど、何も決まってない事を伝える。それを聞いた勝久も
「分かりました。その時になったら、また教えてくだされ」
と、だけ返す。こうして、黒田家と尼子家に出迎えられた勝家達は、因幡国を目指して再出発した
勝家達がそんなやり取りをしてから、2ヶ月後
天正十六年(1588年)十二月十日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
場面は変わり、師走の甲斐国。本来なら、合格者達を甲斐国へ連れて来たら、後の事は六三郎達に任せて帰ったら良いのに、
時々、六三郎達の土木工事を手伝ったりする等、信長はまだ安土城への帰路につかずに甲斐国に居た
「大殿!安土城からの文でございます!」
「ほう!勘九郎め、儂が甲斐国に居ると予想して、文を送ってくるとは。また何かあったのじゃな?どれ」
そんな信長が、信忠からの文を受け取り、目を通すと
「はっはっは!勘九郎め、大分、朝廷との交渉にも慣れてきよったな!儂を含めて、上の官位を手に入れるとは!
じゃが、見事じゃ!領地以外で、喜べる褒美でもある官位を使いこなすとは!」
大笑いしながら、信忠を褒める。その様子に虎次郎は
「内府様。とても喜ばしい内容の文なのですか?」
と、質問すると、信長は
「うむ!誠に喜ばしい内容じゃ!六三郎が今日の役目を終えたら、見せてやらないといかん!虎次郎、五郎、典厩!六三郎より先に見てみよ!儂が許す!」
そう言いながら、文に目を通すと
「内府様の官位が右大臣に変わり、左中将様の官位が内大臣に変わり、筑前殿が弾正大弼に変わり、六三郎達が播磨守、黒田殿か但馬守、尼子殿が出雲守に
それぞれ任ぜられると、これは素晴らしい事でありますが、これから色々と呼び方が変わりますな」
「六三郎殿は着実に出世を重ねておりますな」
「これからは、六三郎殿、ではなく播磨守様。とでも呼べばよろしいでしょうか」
と、言っていると、信長は、
「六三郎の事は、官位ではなく、そのまま六三郎と呼んでやれ。あ奴は、その様な小さい事を気にする男ではない!だが、これを知った六三郎は、間違いなく驚くじゃろう!くっくっく。今から六三郎が戻ってくるのが楽しみじゃ」
イタズラ小僧の様な笑顔で、六三郎が戻ってくるのを今か今かと待っていた。