新たな官位と柴田家を出迎える者達
天正十六年(1588年)九月一日
近江国 安土城
場面は少し戻り、信長が合格者達を連れて甲斐国へ出立した後の安土城。そこで信忠が長秀と話し合う場面から始まる
「のう、五郎左。父上の事なのじゃが」
「大殿の事で何かありましたか?」
「うむ。父上は現在の日の本において、最も天下取りに近いお方じゃ。周辺勢力を征圧している地域に行くのは問題無いのじゃが、そうでない地域に行かせて良いものかと思ってな」
信忠は、自由に動き回る信長の身の安全を心配する発言を長秀にしていた。長秀としても、信忠の言い分は理解出来るが、
言い出したら聞かない信長の性格も分かっている。だからこそ両者が納得出来る様な言葉が見つからなかった。そんな中で長秀は、信忠に提案する
「殿。この様にしてはどうでしょうか?大殿を始めとした何人かに、更に上の官位を朝廷へ求めると同時に、毛利との戦で働き、新たに織田家に臣従した黒田家と尼子家が、官位をいただける様、朝廷へ求めるというのは?」
「それは何故じゃ?」
「はい、大殿が更に高い官位を得た場合、出陣した場合は仕方ないですが、そうではない、それこそ此度の様に家臣の領地へ遠出しただけの大殿へ攻撃したならは、
織田家への宣戦布告、更には朝廷に弓引く形になると見做し、織田家が攻撃する大義名分になると思ったのです」
長秀の説明に信忠は、
「ふむ。言い方は悪いが、高い官位を持つ父上が出歩くだけで、父上の居る土地周辺の者達が、大規模な戦場にならぬ様にする可能性が高いという事か」
「簡潔に申し上げるならば、そういう事です」
大まかに理解して、長秀もその通りだと話す
「ふむ。それならば一日も早く、父上と周囲の者達に新たな官位が必要になるな。五郎左よ、これより京へ向かう!準備せい!」
「ははっ!」
長秀の提案を聞いた信忠は、即決し、直ぐに京へ向かう。長秀も共に京へ向かうと、色々な手続きを行ないながら、新たな官位を手に入れて、やっと安土城へ戻る
天正十六年(1588年)九月二十五日
近江国 安土城
この日、京から戻って来た信忠と長秀は、大広間に戻ると、官位の確認を始めとした諸事の処理を行なっていた
「何とか、新しい官位を得たな。確認するが、先ず父上が内大臣の官位から新たに従二位右大臣、儂が左中将の官位から正三位内大臣、黒田官兵衛が従五位下但馬守、尼子又四郎が従五位下出雲守、
藤吉郎が筑前守の官位から新たに従四位下弾正大弼、最後に六三郎が従五位下播磨守となったが、五郎左よ、佐久間摂津に関してはそのままでも良いな?」
「はい。佐久間殿のこれまでの働きを見た上で、官位に関してはそのままにしておき、嫡男の甚九郎に関しては、自力で頑張ってもらう。その形がよろしいでしょう」
「うむ。行き違いになるかもしれぬが、父上に六三郎に勅許状を渡しに甲斐国へ、誰ぞ行かせてくれ!それから、播磨国の黒田家と、出雲国の尼子家にもじゃ!急ぎで頼むぞ」
「ははっ!」
こうして、信忠は目的どおり、信長の自由行動を抑える為の高い官位と、毛利との戦で頑張った面々のうち、上杉景勝以外の面々が新たな官位を手に入れる為の交渉に成功した。一仕事終えたあとの信忠は
「松。三法師が元服したら、儂も父上と同じ様に自由に動き回るかもしれぬが、その時は共に動き回ろう」
松に将来の事を話す。松は、
「勘九郎様。その時は何処でもお供しますよ。でも、その前に側室の方々が産んでくれました娘達の嫁ぎ先も決めないといけませんよ」
娘達の嫁ぎ先も決めないと。と、釘を刺すが、信忠は
「まだ、産まれて一ヶ月も経っておらぬのじゃ。じっくり考えるのは、まだまだ先の話としよう」
嫁ぎ先を決めるのは、まだ先だと言って先送りを決めた
信忠がそんな一仕事を終えて、少しばかり気が抜けていた頃、家臣達は新たな領地に移動していたが、そんな中で柴田家は勝家が、新たな領地の各国に信頼できる家臣を配置しながら、仮の本拠地である因幡国を目指していた、そんな道中にて
天正十六年(1588年)十月十五日
但馬国 某所
「柴田越前守様一行で、お間違いないでしょうか?我々、御子息の六三郎殿と共に毛利と戦いました黒田官兵衛と家臣の一部にございます」
「同じく、御子息の六三郎殿と共に毛利と戦いました尼子又四郎と家臣の一部にございます」
まさかの黒田家と尼子家、それぞれが因幡国へ向かう勝家達を出迎えに来ていた。そんな状況に勝家は
「立ち話をさせるわけにもいかぬので、簡単ではありますが、本陣を作りますので、そこで用件を聞きましょう」
そう言って、家臣達に急拵えの本陣を作らせて、完成してから、黒田家と尼子家の主要な面々と話を始める
「さて、黒田家と尼子家の方々。先ずは、愚息が世話になり申した。それこそ、多大なご迷惑をかけたり、無茶な行動をさせてしまったと思う。改めて、申し訳ない」
話を始めた途端、勝家は頭を下げた。理由は、」六三郎が無茶苦茶な事をして、迷惑をかけて済まない」と言う事からだったが、2人共、
「越前守様。六三郎殿の無茶な行動は、戦の勝利の為ですから、迷惑など、とんでもありませぬ!」
「そうですぞ!それに、いきなり六三郎殿の前に現れて、「与力として参戦させて欲しい」と頼んだ我々の事を受け入れてくださったのですから、感謝すれども、迷惑だなんて」
六三郎の行動に迷惑なんて、とてもとても。と言って、勝家をフォローする。フォローされた勝家は
「そう言ってもらえて、忝い。それでは、改めて本題に入りますが、どの様な用件で我々の元へ来たのでしょうか?」
両家が現れた理由を問うが、その理由とは?