六三郎に丸投げ前提の話し合い
天正十六時(1588年)六月十日
近江国 安土城
場面は少し戻り、甲斐国に先駆けて梅雨入りしている近江国。そこで信長と信忠の話し合いから始まる
「勘九郎!何やら話し合いたい事があるとの事じゃが、どの様な事じゃ?」
「はい。実は、明智日向守より越後国の復興を、ほぼ終えたと、文が届いたのです。それで、確認も兼ねて上杉家の者達を越後国に戻して、それをきっかけに、
新たな領地が決まっている者達を、移動させた方が良いのでは?と思いまして、それこそ徳川様にも、新たな領地の事を伝えないといけないのですから」
信忠の提案を聞いた信長は、
「ふむ。確かに、一理あるな。六三郎の代理として権六からも、「播磨国の情勢が分からないので、伯耆国を仮の本拠地としたい」と文を届けられたしのう、
勘九郎よ。新たな領地に移動させるのであれば、喜平次に嫁ぐ茶々と、弥三郎に嫁ぐ初、二人を夫と共に、それぞれの国へ行かせるとしよう。流石に新婚なのに、自由に出来ないと、子作りも出来まい」
茶々と初を、夫である景勝と信親と共に本拠地に行かせる事を提案するが、信忠は
「父上。それですと、上杉家の五百人と長宗我部家の百人が甲斐国の復興作業から居なくなってしまいます。その結果、作業に遅れが出てしまっては」
甲斐国の復興速度が遅くなる事を懸念するが、信長から
「その点に関してじゃが、洛中を中心に畿内と、徳川家の領地から人を集める高札を出してみて、それで集まった人間を送れば、どうにかなるはずじゃろう」
高札を出して、人を集める提案を出すが、信忠は
「人を集めるのは良いですが、万が一にもゴロつきが集まったら、甲斐国の治安が悪くなるのでは、最悪の場合、北条家の領地にちょっかいを出してしまい、戦のきっかけになってしまう可能性も」
ゴロつきが集まったら、甲斐国の治安が悪くなると同時に、北条家との緊張が増すのでは?と口にする。しかし信長は
「勘九郎、甲斐国に居るのは六三郎率いる赤備え達、更には、赤備え達と同じ訓練を行ない、屈強な身体を持った柴田家の兵達じゃぞ?そこら辺のゴロつきに負ける事は、絶対に無い事はお主も分かるじゃろう?
それに、北条家との緊張が万が一にも生まれてしまっても、六三郎ならば、出来るかぎり戦にならない様、頭を使い、どうにかする事も、想像に難くないはずじゃ。違うか?」
六三郎なら何とかするだろ。と言う、良い意味で言えば信頼、悪い意味で言えば丸投げをしていた。それを聞いた信忠も
「そうですな。六三郎ならば、なんとかするでしょう。六三郎ではどうにもならなくなった時は、我々が動くだけですからな」
納得し、信長は
「そのとおりじゃ。基本的には、前線に居る者に任せて、前線に居る者が判断しきれなくなった時に、儂達が動く。それで良い。戦になるのは、最期の最期じゃ。北条家もそれは分かっておるに違いない
だから、勘九郎よ。お主は、既に移動を完了しておる羽柴家以外の家に移動準備をしておく旨の文を書いておけ。それと、二郎三郎には儂から文を書いておく、二郎三郎が来てから、色々と話し合いをするとしよう」
これからの予定を伝えて、大広間を出る。残った信忠は、各地への文を書き始める
天正十六年(1588年)七月一日
近江国 安土城
信長が家康に文を書いて3週間後、安土城へ家康が到着し、信長と信忠は歓待する
「二郎三郎、いきなり呼び出したのに、来てくれて感謝する」
「徳川様、ありがとうございます」
「いやいや、三郎殿も勘九郎殿も、変わらず壮健そうで、何よりですな。それで、此度は何を話し合うのですかな?」
家康は、歓待も早々に本題を聞くと、信長は
「うむ。実はな数年前の上杉との戦で、北陸の一部を徳川家の領地とする話を、しておった事は覚えておるか?」
家康に思い出させる様に話し、家康も
「ああ、あの件ですか。それで、徳川家としては、どれ程の領地になるのですかな?」
思い出した様に話すと、信長から
「うむ。皆で話し合ったのじゃが、能登国を四分割して、そのうちの一分を徳川家に、残りの三分を上杉家に治めてもらおうと思ってな。石高はおよそ五万石じゃが、納得してくれぬか?」
と、説明されると家康は
「はっはっは。三郎殿、倅が言ってたのですが、殆どの武功は六三郎殿と赤備え達と聞いております。徳川家は殆ど、被害が無かったと。それなのに五万石も新たな領地がもらえるとは、感謝するしかありませぬ」
納得した様だった。そこから安心した信長は
「そう言ってくれて、気が楽じゃ。どうにか、治められる者を置いてくれ。それでは、領地の話はここまで
とするが、六三郎が陣頭指揮を取って、甲斐国の土地改善に取り掛かっておる事は知っておるよな?」
甲斐国での話を始める
「はい。参加している者からの文では、甲斐国の中央にある広大な湿地を埋め立てているとの事でしたな、それが、何かあるのでしょうか?」
「うむ。実はな、その土地改善に参加していた者のうち、上杉家の五百人と、長宗我部家の百人が、国に帰る事になったのじゃ。合わせて六百人が居なくなると、
甲斐国の復興も遅くなる。そこでじゃ、二郎三郎に頼みたい事として、お主の家臣や家臣の倅、更には領地の地侍達から三百人程、集めて甲斐国へ送って欲しい
儂も、洛中を中心とした畿内で地侍や一旗上げたい者を送る予定じゃ。北条家との交渉で大変な時に済まぬが、最悪の場合、僅かな、それこそ十人くらいでも良い。頼めるか?」
「拙者からもお願いします」
信長と信忠の2人から頼まれた家康は、
「分かりました。十人くらいでも良ければ」
と、了承した。その事に信長と信忠は
「二郎三郎!誠に感謝する!」
「徳川様、ありがとうございます」
家康に感謝する
「はっはっは。まあ、六三郎殿と赤備え達が居たら、どれ程、鼻っぱしらが強くとも、間違いなく叩きのめされるでしょうからな、拙者としても楽しみではあります」
こうして、信長と信忠は勿論だが、家康まで、「何かあっても六三郎と赤備えが居たら大丈夫でしょ」と全てを丸投げして、今回の話し合いは終わった。




