梅雨入りの間に気がついたら
天正十六年(1588年)六月二十五日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「虎次郎様。梅雨入りした為、しばらくの間、埋め立ては中断となります。申し訳ありませぬ」
「いやいや、六三郎殿。流石に、自然には勝てませぬから。ですな、五郎叔父上、典厩叔父上」
「そうですぞ六三郎殿」
「今は、梅雨明けしてからの事を考えましょう」
皆さんおはようございます。朝から、武田家の中枢の3人に頭を下げております柴田六三郎です。いやあ、出陣したり、土木工事をしたりで、
日本のあちこちに行ってて、忘れていましたし、東日本に居た記憶も薄ら忘れていましたよ、梅雨というものを!豪雨じゃないから、他社マシとはいえ、流石に埋め立て工事を中断せざるを得ないので、
虎次郎くん、五郎さん、典厩様に頭を下げておりました。3人からも、「天気は仕方ないから、気にしないでくれ」と言われて、ホッとしております
とりあえず、今のうちに出来る事をやっておきましょう。と、言う事で
「ありがとうございます。少しばかり、部屋にこもって、梅雨入りの間に出来る事を考えたいと思います」
大広間を出て、部屋に籠ります。静かに過ごしたら何かしらのアイディアが出るかもと期待したのですが、
サアアアー!と聞こえる雨音で、まったく集中出来ません。いつの間にか夜になってしまいました。そんな状況で、
「六三郎様、入りますよ」
道乃が俺の部屋に入って来た。しかも、珍しく酒も持って来ている
「道乃、何かしらの行事でもないのに、酒を飲むのは」
そう言って、断ろうとすると
「しばらくの間は、お役目も出来ないのですし、六三郎様や赤備えの方々ばかりが、働いているのですから、束の間の休みという事にして、お酒でも飲みましょう、ね?」
道乃は強引に、俺に盃を持たせて、酒を注ぐ。まあ、道乃にかなり長く構ってやれなかったから、たまのワガママくらい聞くか
「分かった。たまには飲もう」
そう言いながら、飲みましたら、しばらくして記憶が無くなりました
翌日
(あれ?俺、いつの間に寝てたんだ?確か、道乃に酒を注がれていて、その酒を飲んだところまでは記憶があるんだけど)
六三郎かぼんやりしながら起床すると、隣から
「六三郎様、おはようございます」
道乃の声が聞こえてくる。六三郎がゆっくり振り向くと
「み、道乃、その格好は」
着物がはだけて、確実に行為の後と分かる血痕もあった。それを見た六三郎は
「道乃、儂は、無理矢理してしまったのか?」
と、情けない声で質問する。その質問に道乃は
「六三郎様、私は六三郎様の正室ですよ。いつでも子作りする決意を持っております。だから、無理矢理ではありません。お気になさらないでください。ね?」
そう言いながら、六三郎をフォローする。フォローされた六三郎は
(こんな形で初体験かよ。酒を飲んで前後不覚になって、そのままいたしてしまうとは。我ながら情けない)
内心、軽く落ち込んでいた。それでも道乃は
「六三郎様。これで、やや子が出来る可能性もあるのです。その様な情けないお姿を、子が産まれ、育っていく時に見せないでくださいね」
遠回しに六三郎に「しっかりしろ!」と叱咤する。六三郎はそう言われて、
「そうじゃな!子が産まれた時に、こんな父親ではいかぬな!目が覚めたぞ道乃!」
顔を軽く叩く。道乃も
「それでこそ、六三郎様です。それでは、そろそろ皆の元に戻ります」
着物を直して、部屋を出ようとする。しかし、出ようとする前に六三郎に
「六三郎様。私は勿論ですが、側室の方々とも、子作りをしてください。今なら、出陣もお役目も無いのですから、お願いしますね」
そう頼みこみ、部屋を出て行った。残された六三郎も、とりあえず着物を着替えて、部屋を出る
六三郎が外の状況を見ている頃、道乃の戻った部屋では、雷花、花江、うめ、高代が居た。4人は道乃の顔を見て、それぞれ
「お務め、お疲れ様でした」
「六三郎様は、お怒りではなかったですか?」
「やはり、とてつもない痛みでしたか?」
「道乃様!ご立派です!」
と、思い思いの言葉で道乃を労う。分かった人も居るだろうが、今回の子作りは、高代が立案して、雷花が改善した半強制的子作りだった
六三郎があまりにも、仕事ばかりで子作りをしない事に危機感を募らせた高代が、雷花に計画を持ちかけて、そこから、花江、うめ、そして道乃を巻き込んだのである
ちなみに、雷花の改善とは、人体に害の無い媚薬を使うとの事で、事前に源太郎、源次郎、銀次郎、金之助に使って、効果は確認済みである
全てを終えた道乃は
「こんな、六三郎様を騙す様な事をして誠に、良かったのでしょうか?」
と、先程とは打って変わって、しおらしくなるが、高代から
「道乃様!奥方様の様に、二十代終わりで出産して、母子共に無事な事は、はっきり申しまして、奇跡なのです。そこから三十代、更には四十代での出産は
せっかく出産しても、可愛い我が子を育てる前に死んでしまう可能性が高いのです!だからこそ、私達が安全に子を産み、育てられる年齢の内に、六三郎様に頑張ってもらうしかありません
戦で無茶をする六三郎様ですから、子作りで多少の無茶くらいは、許してもらえるはずです。だから今、道乃様は、六三郎様とのやや子が授かる事以外は考えないでください!」
「分かりました」
道乃が納得した事で、六三郎の嫁達の話し合いはお開きとなった。六三郎があまりに子作りをしない為に、高代が雷花を巻き込んでの計画だったが、
全員の目的が「六三郎の子を産む」なので、誰からも異論無く、計画は続行する事になる。