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転生武将は戦国の社畜  作者: 赤井嶺


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父として主君として

元亀三年(1572年)十月二十ニ日

美濃国 某所


「そろそろ屋敷じゃな」


「はい。あと一里ほどになります」


最初の声の主は柴田家当主の柴田勝家であり、答えたのは家老の吉田である。勝家は信長から「とある役目」を託され、ついでと言う形で領地に一時的に戻る事になっており、昨日のうちに出発して、今に至るわけである


「吉田よ。先触れは出しておるな?」


「はい。昼頃には着くと出しております」


「なら良い。しかし、此処も大分変わったな」


「確かに変わりましたな。去年の今頃は田畑があっただけなのに、今では田畑は増えて砦の様に強化されていますな」


「それだけに限らず、戦の跡が所々に見える。吉六郎からの書状だけだと圧倒的な勝利かと思ったが、やはり被害はそれなりに出ていた訳か」


「殿。そろそろ屋敷にございます」


「うむ」


二人が話しながら進んでいると、屋敷が見える位置まで来た。すると。


「お帰りなさいませ」


「「「「「お帰りなさいませ」」」」」


出迎えの者達が門の外から出迎えていた。そして家臣達の出迎えを終えて


「父上。お帰りなさいませ」


「大殿。お帰りなさいませ」


大広間で吉六郎が正装で勝家を出迎えた。その吉六郎の後ろに利兵衛を含む吉六郎の家臣達が平伏していたのは、勝家も面食らった


しかし気を取り直して


「先ずは皆、面を上げよ」


勝家に言われて全員顔を上げた。それを見て勝家は


「源太郎!皆をしっかりと鍛えておる様じゃな」


「ははっ!皆と共に鍛錬を欠かさず、いつでも出陣可能でございます」


「うむ。次に利兵衛」


「ははっ」


「吉六郎の補佐、大変であろう?こ奴は無理難題を言っておらぬか?」


「有り難きお言葉にございます。若様の無理難題は、この老骨にはとても良い刺激になっております」


「そうか。これからも吉六郎の事を頼むぞ」


「ははっ」


「そして吉六郎」


「ははっ」


吉六郎の顔を見た勝家は内心とても喜んでいた。領地を離れる前の吉六郎は自分の代わりに領地の差配をしていても、まだまだ子供だからか甘い部分があったのだが、戦を経験した事により凛々しい顔になっていた。我が子の成長に親として嬉しい事は当たり前なのだが、勝家はそこを抑えた


「先の戦ではお主も働いた様だが、一度戦に勝っただけで調子に乗るでないぞ!皆の働きがあったからこその勝ちなのだから、お主一人で戦った訳ではない事をゆめゆめ忘れるな!」


「重々承知しております」


「うむ。そして先の戦で共に戦い、今も武田を見張る役割を担って留まっている勝蔵」


「はい」


「色々と不便な中での働き、誠に感謝しかない」


「柴田様。勿体なきお言葉にございます」


「うむ。儂はしばらく留まってから殿からの命令で別の場所に動く。余程の事が無い限り、いつも通りに勤めてくれ。それでは解散」


こうして勝家への挨拶は終わった。その夜


「勝蔵、利兵衛。そして源太郎。良く来た。先ずは呑んでくれ」


勝家は吉田を使って三名を呼び出して小さいながらも酒宴を開いていた


「「「ではお言葉に甘えて」」」


呑み始めて間もなく、吉田が勝家に質問した


「殿。此度の吉六郎様のお顔を久しぶりにみた時は、大層嬉しそうでしたな?」


いきなりの発言に勝家は


「ゲホッゲホッ。こ、これいきなり何を言うかと思えば」


「間違っておられましたか?」


「長い付き合いのお主には儂の頭の中はお見通しの様じゃな。その通りじゃ」


二人の会話を聞いていた三人は


「柴田様。あれ程の言葉を吉六郎殿にかけていたのに、喜んでいたのですか?」


「大殿、誠でございますか?」


「全くその様な事は見えなかったのですが?」


「信じられない」といった顔だった。そんな三人に対して勝家はいきなり頭を下げて


「皆、これより話す事は内密じゃ。良いな?」


「「「は、はあ」」」


「うむ。済まぬな。改めてじゃが、確かに儂は吉六郎の顔を見た時、父親として嬉しかった」


「柴田様。それは直接言ってあけだ方が良いのでは?」


「大殿。拙者も森様と同じく直接言って差し上げたら吉六郎様もお喜びになると思いますが」


勝蔵と源太郎は同じ意見だった。しかし


「父親としての立場以上に主君としての御立場を優先したわけでございますか?」


利兵衛だけは違った


「利兵衛は経験から分かる様じゃな。我が子の成長はどの様な親でも間違いなく嬉しい。それは勝蔵、源太郎。お主達のお父上でも間違いなくな。しかし、戦乱の世では厳しく育てないとあ奴が儂の後を継いだ時、戦乱の世が続いていたらと考えると、儂は、儂は」


この時勝家は涙ながらに語っていた


「柴田様。考えを分からずに勝手な発言申し訳ありませぬ」


「拙者も大殿の御心遣いを分からず申し訳ありませぬ」


二人の発言に勝家は


「いや、気にするな。子が居ない者ならば、二人の反応が普通なのだからな。勝蔵。此処に居る間だけで構わぬ。吉六郎の手本となってくれ」


「ははっ」


「利兵衛。お主は内政で吉六郎の補佐を引き続き頼むぞ」


「ははっ」


「そして源太郎」


「ははっ」


「岐阜城でも伝えたが、戦において吉六郎と共に戦いながら補佐を頼める人間は今のところ、お主達しか居ない事は承知しておるな?」


「ははっ!我等二百名!吉六郎様に命を救われた身であり、吉六郎様の命あらば単身で敵陣に突撃して散る覚悟は持っております」


「そこまでの覚悟なら、他に言わぬ」


「ははっ」


「父としての立場と主君としての立場。儂の親父が生きていたら、どの様に使っていたか聞きたかったのう」

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