休む事を許されない六三郎
六三郎が訓練を終え、朝食を食べ終え、甲斐国へ出発しようとすると、信長から
「六三郎!安芸乃が書物の続きを書くから、源三郎の嫁取り話を教えろと言っておったぞ!」
そう言われて、六三郎は
「もう、三七様と菫の話を書き終えたのですか?」
思わず、聞き返す。信長は
「何でも、前日の寝る時間を削って書き上げたそうじゃ。今日からしばらくは、その様になるじゃろう!!だから、六三郎よ。
源三郎と勝の話は勿論、弥三郎と初、茶々と喜平次、そして、虎次郎と江の話も教えてやれ!話すだけだから、早ければ一日で終わるはずじゃろう?」
信房と勝姫の話だけでなく、妹3人の話も教えてやれ。と命令する。それを聞いた六三郎は内心
(いや、大殿!安芸乃さん、恐らくですが、ひとつの話を書き終えるまでに、最低でも1日は必要ですよね?
そうなると、源三郎様の話、茶々、初、江の話、合わせて4話ありますから、最低でも4日必要ですよね?
それじゃあ、甲斐国の復興が遅れると思うのですが?こうなったら、納屋衆の皆さんが甲斐国へ来るのを遅くする為に、これを提案しよう)
甲斐国の復興が遅くなる事を危惧していた。その理由として、甲斐国の復興がある程度の進み具合である方が、納屋衆の持って来た農作物を植えやすいからでもある
そんな六三郎が考えた、時間稼ぎの作戦とは
「大殿。安芸乃殿が書く書物の事で、ひとつ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何じゃ?申してみよ」
「ははっ。では、安芸乃殿の書物を販売するのであれば、納屋衆も巻き込む為に、一度、安土城へ呼び寄せてから、安芸乃殿の書物を見せてみるというのはどうでしょうか?」
「ほう。納屋衆を巻き込んで、販路を拡大する。そう言う事か?」
「はい。安芸乃殿の書物が大量に売れたのであれば、儲けをどの様に振り分けるかは、分かりませぬが、織田家と納屋衆、そして、安芸乃殿の毛利家へ銭が行きます
そうなれば、戦で田畑が荒れた毛利家の復興の足しにもなるでしょうし、納屋衆も甲斐国の復興に使う銭を増やす事も出来ると思います。勿論、織田家の銭も増えるでしょう」
六三郎の提案に信長は
「ふむ。それは一考の余地があるな。それこそ、勘九郎と松が出会った美濃屋と、三七と菫が出会った神戸家の名も更に売れるじゃろう!
六三郎、お主の提案を原案として、納屋衆と話してみる!だから、お主は安芸乃の書物を完成させる為に、早く安芸乃の元へ行き、細かく内容を伝えて来い!」
「ははっ!」
こうして、六三郎の提案した時間稼ぎは、形を変えて進む事になるが、それは後日の事となるので、六三郎は安芸乃の元へ行く
「安芸乃殿!柴田六三郎です!藤四郎殿と又次郎殿が側に居ない場合、入る事はよろしくないので、お二人を呼んでもらえますか?」
「はい、分かりました!藤四郎殿、又次郎殿!」
安芸乃か呼ぶと、2人は早めに到着する。前日と同じメンバーが揃った事で、六三郎が信房と勝姫の馴れ初めを話す事からスタートすると
「なんて!なんて素敵な馴れ初めですか!父君の命を懸けた願いを叶える為に、母君と共に甲斐国を脱出し、
まだ見ぬ弟の家督相続の為に必要な家宝を、弟に渡す為に危険を承知で持ち運ぶ!それだけでも、心打つ書物になり得るのに
そこから追手が登場して、万事休すな所を、讃岐守様の命令で動いていた柴田様がお助けになる!
お助けした所から、安全な本陣へ連れて行き、お家の為に動く勝姫様に惚れられた讃岐守様!
そこから、内府様、左中将様、伊勢守様が登場するのは勿論ですが、更に同盟相手という事もあり、徳川様まで登場なされて、穴山達を討ち滅ぼす為の一芝居!
その一芝居を終えて数ヶ月後に、祝言を挙げて、讃岐国へ移動して、四国の発展の為に、長宗我部家の方々と協力するだなんて!ここれは、題目を付けるとしたら
「命懸けの姫と初陣を飾る美麗な若武者」に決まりです!これは、左中将様と伊勢守様も登場するから、
間違いなく、読まれますよ!!この話、年頃の男女には勿論ですが、その親世代にも読まれるでしょう!
親世代からしたら、我が子にも何かを命懸けで託さないといけない時が来るかもしれない!そんな時、讃岐守様の様な存在が現れたら!と、思うに違いありません!そこから、じっくりと読み漁るでしょう!
筆が進みます!藤四郎殿!又次郎殿!三刻程で、書き終えますので、しばらく柴田様と外で時間を潰してください!」
「分かりました」
「六三郎殿、申し訳ないのですが」
「構いませぬ。飯でも食いながら、安芸乃殿が書き終えるのを待ちましょう」
六三郎がそう言うと、男3人で部屋を出たが、六三郎が信長から呼ばれたので、藤四郎と又次郎も連れて大広間へ行くと
「六三郎!しばらく暇じゃろう!神戸家で作った宇治丸の料理を作ってくれ!藤四郎と又次郎も居るのであれば、食っていけ!これまでの常識が覆るぞ?」
「ウナギ料理を作れ」と言われて、即座に台所へ行き、準備されていたウナギを捌いて、白焼きと蒲焼きを作り、更にお吸物とう巻きを作って、大広間へ持って行くと
「うむ!二郎三郎が言っていたとおりじゃ!冬の宇治丸は脂か乗って、更に美味い!藤四郎と又次郎!どうじゃ?」
「宇治丸がこれ程に美味な事を、初めて知りました」
「宇治丸から、これ程に美味い汁物が出来るとは驚きです!」
「そうじゃろう!これも、六三郎の料理好きが高じて、作ったのじゃが、洛中にある神戸家という店で出した時は、周辺の魚屋からは勿論、川の中の宇治丸まで無くなったそうじゃ!
この様な美味な物を、公家達や、儂達武士階級だけでなく、百姓達が十日に一日くらい食える様になったなら、
その時こそ、生きる事に苦しまないで済む、安全に生きていける日の本になっておると思っておる
だからこそ、藤四郎と又次郎よ。いつか、毛利家に戻った時は、領民達が苦しくない暮らしを送る事が出来る様、安芸守や安芸守の嫡男を支えてやってくれ」
「「ははっ!」」
信長からの、日の本のこれからと毛利家のこれからを考えた言葉に、藤四郎と又次郎は、平伏しながら少し泣いていた。そんな中で六三郎は内心
(大殿、狙ってましたね?食べた事の無いウナギ料理を食べさせて、驚いた直後に優しい言葉で、日の本全体と毛利家の未来を話す。これも作戦でしょうから
つっ込まないですが、ちょっと、俺の事を休ませてくれませんか?)
信長に対して、休ませてくれ!と懇願していた。勿論、口にする事は無いので、休める事は無い。