堺であの人達に会う
天正十五年(1587年)十二月五日
摂津国 和泉国 河内国 堺
「久しぶりに来たが、やはり堺の街は賑わっておるな!虎次郎!初めての堺はどうじゃ?」
「人と物が忙しなく動いていて、とても活気があります!」
「そうじゃろう!!この堺は摂津国、和泉国、河内国の境に面しておる!つまり、三国の人と物が動く街であり、人と物が動くという事は、その分の銭が動くという事じゃ!」
「内府様、やはり畿内はまだまだ日の本の中心なのですな!」
「そうじゃ!日の本の中心である畿内を抑えながら、支配地域を広げて行き、戦を無くして、最終的には日の本に住む者達全員が、
日の本を発展させる為に心血を注ぐ!その結果、南蛮の国々に負けない日の本にする!それが儂の考える天下じゃ!」
皆さんおはようございます。現在、大殿と虎次郎くんと典厩様と共に、日本最大の交易都市、堺に来ております柴田六三郎です
いやあ、初めて堺に来たのですが、名前と交易の中心地である事は知っていたのですが、何処の国に住所があるのか分からなかった堺が、
まさかの3つの国の境にある事を初めて知りました、今更ながらに、3つの国の人と物と銭が一ヶ所で動いていたら、そりゃ栄えるよな、と言うのが、正直な感想です
そんな事を考えながら、堺の街を歩いておりますと、商人っぽい見た目の男の人達が近寄って来たのですが、
「織田様!お久しぶりでございます。遅くなり、申し訳ありません!」
「これからのご予定は、どの様に?」
「我々、納屋衆総出で、おもてなし致します」
全員手揉みしながら、「稼ぐチャンス!」みたいな感じの、笑顔なんだけど、目の奥が笑ってない。とでも言う様な顔で大殿の前に集まっております
その中で、商人達をまとめてる、未来の商工会議所の会頭みたいな人が出て来ましたら、大殿が
「津田よ、久しぶりに来たが、以前よりも賑わっておるな!」
津田さんとやらを褒めていました。そしたら、その津田さんは
「いえいえ。織田様が美濃国より上質な麦を量産してくださるだけでなく、その麦の粉を使った料理を畿内中に広めてもらったおかげです
そのおかげで、我々納屋頭も素晴らしい商いをさせてもらったのですから」
美濃産の小麦粉のおかげで、懐がかなり潤った様で、その事で大殿に感謝を述べている。そんな津田さんの後ろから
「津田殿。美濃国の麦だけでなく、伊勢国の茶葉も我々に素晴らしい商いをさせてくれた事も、忘れてはいけませぬぞ」
と、伊勢国の茶葉の事を言う声が聞こえて来たら
「そうでしたな、田中殿。織田様、伊勢国の茶葉ですが、畿内は勿論ですが、東海や山陽に行商に出ても完売でしたから、織田様にも、伊勢国の太守の神戸様にも感謝しております」
もう一度、感謝を述べていた。でも、早い段階で顔が変わり、
「それでは織田様。本日は、どの様な品を買い付けに来られたのでしょうか?」
仕事を始める。大殿も、
「本題はそっちであろう?」
悪い笑顔で返すと、
「織田様も、人が悪いですなあ」
津田さんも、悪い笑顔で返す。そんな空気に耐えられなかったのか、田中さんが
「織田様も津田殿も、そろそろ交渉を始めましょう」
「さっさと交渉しろや!」とツッコミを入れて、やっとこ、交渉スタート、と思いきや
「それもそうじゃな!津田よ、此度は儂の共の者達の要望で堺に来たのじゃが、細かい話をしたいので、お主達が会合で使っておる場所を使わせてくれぬか?」
「ええ、構いませぬ。それではこちらへ」
その前に移動する事になりました。そして、少しばかり歩いて目的地に着きましたら
「さて、納屋衆よ。交渉の前に共の者達のうち、初めて見た者を紹介しよう。虎次郎、お主からじゃ」
「ははっ。お初にお目にかかります!甲斐武田家当主の武田虎次郎と申します」
「虎次郎様の叔父で、傅役の一人でもあります武田典厩と申します」
「織田家家臣で柴田家当主の柴田六三郎と申します」
自己紹介を終えると、納屋衆の皆さんは
「あの、甲斐武田家のご当主が、これ程お若いとは」
「傅役の方も、まだまだ壮健そうで」
と、2人に注目しております。まあ、俺が目立たないのであれば、それはとても良い事ですから、何も言いません!ですが、田中さんが
「柴田六三郎殿。ひとつ聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
何か俺に聞きたいらしい。何だろ?
「踏み込んだ内容でなければ、お答えしましょう」
「それ程、重い話ではありませぬので、ご安心くだされ。それでは質問ですが、柴田六三郎殿、何年か前に洛中にある人気の茶屋、「伊勢茶屋神戸家」で働いておられたのでは?」
「ええ、確かに働いておりましたが」
「やはり」
え?俺が神戸家で働いていた事が、何かに変わるのか?と思っていたら、津田さんが
「田中殿。あちらの柴田殿が神戸家で働いていた事で、何か気になる事でも?」
田中さんに質問する。田中さんから
「津田殿。あの柴田六三郎殿こそが、神戸家の開店当初の料理を作っていたお方なのですよ!」
説明されると、
「ま、誠ですか!?あの、宇治丸の白焼や汁掛け、更には汁物も作り、更には色々な味の饅頭を出していて、他にも美味い料理を出している、あの神戸家で料理を作っていたのですか!」
とても驚いておりました。どうやら、田中さんはオープン当初の神戸家に来ていた様だな
でも、甲斐国で新たに植える農作物の買い付けをするだけなのに、何で大殿は、この状況をスルーしているんだ?
そう思っていたら、
「納屋衆よ、今まで黙っておったが、実は美濃国で上質な麦を量産していたのも、麦の粉を使った料理を作ったのも、伊勢国の茶葉が売れた事も、神戸家が繁盛したのも全て、この六三郎が絡んでおる!
その六三郎が、甲斐国で領民達を救う為に、新たな銭の種を作ろうとしておる!その事で、協力を得たいのじゃが、期待しても良いか?」
何やら無茶振りの予感しかしない言葉が聞こえて来ました。その言葉に津田さんが
「織田様、その様な期待してしまう話を出されては、商人として、心が動かされるではありませぬか!詳しくお聞かせください」
凄いギラついた目になるし、大殿も同じくギラついた目になる。あ、これは、うん。きっと、どデカい話になる事が確定だな。