名前の使用を聞いただけなのに
元亀三年(1572年)十月二十一日
美濃国 岐阜城内にて
「失礼します。柴田様の嫡男の吉六郎殿からの書状にございます」
「またか?今度はどの様な内容じゃ?」
「倅が申し訳ありませぬ」
今月三回目の吉六郎からの書状に、信長は面倒くさく、勝家は申し訳なさそうに声を出した
「渡せ」
信長は奪い取る様に書状を受け取って、読み始めた。そして
「権六。お主の家系の事での書状じゃ」
読み終えた信長は勝家に渡した
「は、はあ。え〜と「飯富兄弟が武田と決別する意味で名前を変えたいと申し出て、柴田家の通字か自身か父上の字を使いたいとの事。ですが元服もしていないので、どの字を使わせていいのか分かりませぬ。教えてください」
「お主の倅は元服前なのに、やる事が多いな」
「勝手にやるよりは聞いてくるだけ、あ奴も未だ童と思えます」
「して、どうする?」
「我が柴田家の通字は「勝」なのですが、二人に、しかも飯富兄弟は名前の下に飯富家の通字の「昌」を使っておりますから、「勝」を与えたら同じ名前になってしまうので、直ぐには決められませぬ」
「仕事を多く持ってくる倅と、その倅に忠誠心が強い家臣が居ると大変そうじゃな。ふむ」
信長が何か考えていると
「失礼します。遠江国の徳川三河守様からの書状でございます」
「次郎三郎からじゃと?」
信長は差出人を聞くと、書状を受け取った。読み始めて程なく
「権六!お主に役目が出来たぞ」
「ど、どの様なお役目でございますか?」
「それはな○○○○に○○○○達を連れて、しばし相手をして参れ」
「そ、それだと戦線に穴が出来ませぬか?」
「気になるのは分かるが、一年近く吉六郎を見ていないのだから、ついでに顔を見てから役目を果たせば良い。それにお主しかこの役目を遂行出来る者が居らぬ」
「分かりました」
「師走頃に此処に戻って来られる様に、あちらには言っておく。明日には領地へ着く様に出立せよ」
「では、お言葉に甘えて」
そう言って勝家は信長の前から去った
同日夜
美濃国 柴田家屋敷にて
「若様。大殿からの書状です」
「父上からか。飯富兄弟の名前変更の件だろうな」
吉六郎はそう思いながら書状を読み始める。すると、
「は?父上が短期間ながら戻ってくる?そこで大事な話かある?何故だ?」




