戻ってみたら提案の前に驚きが
五郎さんや赤備えの皆の期待を受けて、俺は一旦、躑躅ヶ崎館に帰って、計画見直しと内容の提案をしようと思っていたのですが、躑躅ヶ崎館に戻って大広間に行ってみたら、
懐かしい知り合いが居たのです、その人は
「雪!久しぶりじゃな!」
「六三郎様!お久しぶりです」
山県家の三女の雪、虎次郎くんを松姫様が連れていた時に、流れの中でなのか、計画的なのかは分からないが出会って、一時的に保護して、そこから美濃屋で一緒に働いて、
松姫様の侍女として、当時の居城の岐阜城に行ったと思ったら、三七様の神戸家で再び一緒に働いて、
と、それなりに縁のある人物です。松姫様と一緒に安土城に移動したと思っていたのですが、何故、甲斐国に?
「雪。久しぶりに会えて嬉しいが、何故甲斐国に居るのじゃ?確か、松姫様の側で働いていたのでは?」
俺の質問に雪は
「実は、松姫様たっての希望で、生まれ変わった武田家の為に、何か協力したいと申し出がありまして、左中将様も了承してくださったのですが、
流石に松姫様本人が動くわけにもいかないので、私に白羽の矢が立ったです」
松姫様の希望を殿が了承した事で来た。と答えてくれたけど、雪本人としては、別の目的もあった様で
「それと、六三郎様!失礼を承知でお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「とりあえず言ってみてくれ」
「では。六三郎様が、「この殿方ならば、私の夫に相応しい!」と思える殿方を紹介してもらいたく!」
そう。雪の目的は俺に対して、「良い男を紹介してくれ!」だった。こんな出張と現場仕事ばかりの俺じゃなくても、
松姫様か殿の知り合いを紹介したら済む話と思うのだが、一応理由を聞いてみるか
「雪よ。何故、儂からの紹介が良いのじゃ?言ってはなんじゃが、殿と松姫様のお側に居るお主なら、良き殿方の紹介は、直ぐに来ると思うのじゃが?」
「私も最初は、そう思っておりました。ですが、蓋を開けてみれば紹介される殿方のほぼ全員、私ではなく、私の後ろの松姫様や左中将様、
更には内府様を見ておりました。つまりは、私を出世や栄達の為の道具としか、見てないのです!その事を松姫様、左中将様、内府様に伝えましたら、
甲斐国で六三郎様に頼んでみると良い。と言われまして、それこそ菫姉上が三七様と夫婦になったきっかけも六三郎様が居た事によるものですから、
六三郎様!弓姉上や菫姉上の様に、一国を領有する殿方でなくとも構いませぬ!出世や栄達の為の道具としてではなく、私を一人の女子として、見ていただける殿方を紹介してください!」
(おおう。中々、重い理由じゃないか。まあ長女の弓は越中国を領有する佐々様の正室で、嫡男を産んでいるし、次女の菫は三七様の正室で、
三七様は伊勢国と実質的に伊賀国を領有しているから、織田家中においても、立場が上の人と見られるのも仕方ないか。で、三女の雪は松姫様の侍女で、殿からの信頼も厚いし、大殿からの覚えも良い
それでいて、見た目も良いから、下心全開のアホが近寄ってくると。しかも、それは松姫様や殿、更には大殿へのおべっかやゴマ擦りの為だもんなあ
それを考えると、松姫様や殿には申し訳ないが、雪は中央から遠い場所の人の嫁さんか良いかもしれないな。雪は俺の無理難題を聞いて、
一緒に働いてくれた仲間だし、幸せになって欲しい!どんな相手が良いかなあ?)
六三郎が雪の嫁入りの為に、色々考えていると、
「六三郎殿、六三郎殿」
「典厩様、何かありましたでしょうか?」
「こちらへ来てくだされ」
典厩が、何故か小声で六三郎を呼ぶ。しかも、雪とはかなり距離を開けている。大広間に近い外の廊下まで移動しており、不思議に思いながらも、六三郎は典厩の元へ行ってみると
「典厩様、何事でしょうか?」
「先程、雪殿が言っていた、殿方の条件ですが、どうにかなりそうですぞ?」
雪の嫁入りの条件にピッタリな男が居ると言って来た。六三郎は驚きながらも
「そ、それは、何処の誰でしょうか?」
典厩に質問すると、典厩は
「六三郎殿。見つからない様、ゆっくりと後ろを向いてくだされ」
六三郎にゆっくり振り向かせる。言われたとおり、六三郎がゆっくり振り向くと、そこには
「山県殿には、若い頃から世話になっておりました。しかし、山県殿の姫君が、妹の松の侍女をしておるとは。松は無理をさせおりませぬか?」
「仁科様。松姫様は勿論、左中将様からも良くしてもらっております。それに虎次郎様が岐阜城で養育されておりました頃には」
にこやかに、でも顔の赤い五郎さんが、雪と会話をしていた
「典厩様。そう言う事でしたか」
「ええ。五郎殿ならば、出世や栄達の為に雪殿を道具として扱うなど、絶対にやりませぬ。それに、ここ最近は、あの様な笑顔を見た記憶もありませぬからな」
典厩様はそう言ってるという事は、五郎さんと雪を夫婦にしてしまえば、確かに雪の希望する殿方の条件全てに一致する!
「では、典厩様。それとなく仁科様と雪が一緒になる時間を増やしてみましょう」
「そうですな。いきなり直ぐ。ではなく、少しずつ進めていきましょう」
俺と典厩様が、そう決断して大広間に戻ろうとすると、
「典厩叔父上、六三郎殿。話は聞こえましたぞ」
虎次郎くんが、惣右衛門さんと共に、側に居ました。何で、こんなに行動力があるんだ?
俺がそう思っていたら、虎次郎くんが
「典厩叔父上、六三郎殿。五郎叔父上が雪殿と夫婦になり、子が産まれたら、数少ない拙者より歳下の子になります。それか男児ならば、
拙者と同じ信玄公の孫になります。一族が増えることは、良き事ですから。何卒、五郎叔父上と雪殿が夫婦になれる様、何卒よろしくお願いします」
俺達に対して、2人を夫婦にしてくれ!と頼んで来た。本当、虎次郎くんは12歳の元服前ながらに素晴らしい主君だよ
俺の12歳の頃なんて、主君らしい行動は一切取ってなかったしな
それじゃあ、五郎さんと雪が夫婦になれる様、頑張りますか!