最悪の事態を避けられた理由とは
六三郎が源太郎達を大声で呼ぶと、
「皆!聞こえたな!殿がお呼びじゃ!急げと言っておるぞ!」
「それは急がねばならぬ!源太郎殿!確か、殿は大広間に居たはずじゃ!急ごう!!」
「「「おおお!」」」
赤備え全員で、六三郎の元へ全力疾走で走る。距離が近い事もあって、直ぐに到着すると、そこでは
「夏夜!頼むから、長刀を義姉上に渡してくれ!」
「夏夜!長刀を渡しなさい!」
「嫌です!父上から、弟達が愚行を犯したならば、性根を叩きのめしてくれと頼まれたのです!それが父上の、私への最期のお言葉だったのです!だから私は!!」
惣右衛門と勝が、2人がかりで夏夜を止めようとしていた。声が聞こえている晴之助は、簀巻きにされた状態でも何とか逃げようとしていたが、
「晴之助!待ちなさい!」
夏夜に見つかり、万事休すになる。しかし、
「義姉上!済まぬ!」
銀次郎が夏夜の元へ行き、長刀を強引に奪う。その長刀を赤備えの居る所へ投げて、夏夜に一瞬、隙が出来ると
「夏夜!」
パチン!!
勝が夏夜にビンタをする。勝のビンタで冷静になった夏夜は、
「か、勝姉上。う、う、うわああ」
泣いて勝に抱きつく。しばらくすると、落ち着いた様で
「お館様。騒がしくして、申し訳ありません」
虎次郎の前に出て来て、謝罪する。その謝罪に虎次郎は
「まあ、秋山家の姉達は、実家を思っての行動じゃ。だからこそ、うるさくは言わないでおくが、晴之助よ。お主、姉達、六三郎殿、
更には六三郎殿の家臣の赤備えの方々まで来たのに、まだ己の個人的感情を優先するのか?」
晴之助に対して、遠回しに「まだ我儘を通すのか?」と問いかける。その問いかけに晴之助は
「拙者は、、、拙者は、、、」
明確に答えられない状態になっていた。その様子を見た虎次郎は
「そのような状態では、お主は勿論、源三郎も源蔵も、選別から外れてもらうしかないな」
晴之助だけでなく、源三郎と源蔵も選別オーディションを不合格にする事を宣言する。それを聞いた源三郎と源蔵は
「そ、そんな!」
「初めての、お役目が!」
顔を上げる事も出来ない程のショックで動けずにいた。それを見た晴之助は
「お、お館様!拙者が攻められる事は分かりますが、弟達のお役目を奪わないでくだされ!」
抗議するが、虎次郎は
「晴之助よ。当主であるお主の行動の結果、弟達の役目も無くなり、他家に嫁いだ姉達に叱られる。その様な家の者が出陣したとて、与力としても期待されぬ
一手の大将など、もっての他じゃ。その様な家では武功も期待出来ぬし、その結果、お主達の父親の代から仕えておる家臣の倅達は、他家へ出奔するじゃろうな
最終的に、家臣もどれ程の数が残るのか、そこまで考えた上での行動か、改めて聞かせてもらおうか」
最悪の未来を想定させる内容を、晴之助に話す。最悪の未来が頭の中をよぎった晴之助は
「も、も、申し訳ありませぬ!全て、拙者が未熟者であった為、あの様な愚行を!お許しくだされ!」
恐怖に駆られて、簀巻き状態で謝罪していた。それを見た虎次郎は、
「源三郎、源蔵。晴之助の簀巻きを解いてやれ」
「「ははっ!」」
2人に晴之助の簀巻きを解かせる。簀巻き状態から解放された晴之助は
「お館様!!全て、拙者の咎でございます!どの様な責めもお受けします!なので、弟達は」
虎次郎に向かい、平伏して謝罪する。その様子に虎次郎は
「「どの様な責めも受ける」晴之助よ、そう言ったな?」
「はい。なので、弟達への責めは無くしていただきたく」
晴之助の言葉を聞いて、
「ならば、岩の板を多く作り、甲斐国中の川の流れを早くする事が一日でも早く出来たのであれば、此度の事は不問とする。一年や二年では終わらぬぞ。それでも耐える事が出来るのか?」
晴之助の忍耐力ゆ問う。晴之助は、
「はい!命を賭して、お館様からのお役目を成し遂げてみせまする!例え何年かかろうとも!!絶対に!!」
虎次郎に対して、役目を何年かかっても成し遂げてみせると宣言し、その宣言を聞いた虎次郎は、
「晴之助。その言葉は勿論じゃが、お主を諌める為に来てくれた姉達を裏切るでないぞ?」
「ははっ!」
「その言葉を信じて、お主達兄弟三人、明日より岩の板の製作に励め。良いな?」
「「「ははっ!」」」
「うむ。では、屋敷に戻り、明日からの役目に備えて休め。姉達も戻って良いぞ」
「「「失礼します」」」
「「「「「寛大な沙汰、誠にありがとうございます!」」」」
こうして、秋山家全体のゴタゴタは、晴之助が引く事で何とか収まった。秋山家の面々が居なくなった大広間で、五郎と典厩は
「虎次郎様。中々、見事な沙汰でしたな」
「厳しさだけでなく優しさも見せて、晴之助も心を揺さぶられて、最期は落ち着いた様ですな」
虎次郎の沙汰を誉めていたが、虎次郎は
「六三郎殿の実家で、越前守様と利兵衛殿に教わったのです。強情な相手程、本人ではなく周りを攻めよ、
押すだけではなく、引いてみよ。と。戦だけでなく、人の心を動かす事にも使える。と言われておりまして」
勝家と利兵衛から教えてもらった。と伝える。それを聞いた六三郎は内心
(親父と利兵衛!元服前の子供に何を教えてるんだよ!今回は家中で使われたけど、これが本番の戦だったら、大変な事になってたかもしれないぞ!)
勝家と利兵衛に、少しだけ怒っていた。