慶事を伝えた頃、実家では
天正十五年(1587年)一月十三日
近江国 長浜城
「大殿、羽柴様。実家に帰る前に伝えておかねばならぬ事がありましたので、参りました」
皆さんおはようございます。実家に帰る前に伝えてあかないといけない事を思い出して、大殿と秀吉の前に居る柴田六三郎です
まあ、今回は俺以外に虎次郎くんが居るので、江との件は絶対に伝えないといけないですからね
「うむ。それで、虎次郎を連れて来たという事は、武田家に関して何かあったのじゃな?申してみよ」
「はい。実は、虎次郎殿が拙者の3番目の妹の江と夫婦になると宣言したのです」
俺の言葉に大殿は
「は?いやいや待て待て、江は確か五郎左の倅と見合いが決まっていたではないか。それが何故、虎次郎と夫婦になると宣言しておるのじゃ?」
俺と同じく「何故そうなった?」みたいな感じになっております。まあ、俺からしたら
「拙者が実家に戻った時には、そうなっていたので」
正直にそう言うしかありません。なので大殿は
「虎次郎!何故、そうなったか説明せよ!」
虎次郎くんに説明を求める。虎次郎くんは
「拙者が江殿に惚れたからです!」
スバっと言い切った。それを聞いた大殿は
「そ、そうか。だが、虎次郎はまだ元服前じゃから、祝言とかは早いと思うのじゃが」
虎次郎くんの勢いに少し引いていた。で、やっぱり祝言は早いと言っているので
「実は、その事で父上と母上が納得してもらった条件として「許婚の形を取って、5年以内に甲斐国の復興と武田家が二ヶ国保持する事」で、将来的に夫婦になる事を認めてもらいました
ですが、大殿や殿にも伝えておかないといけないと思いましたので、此度伝えたのです」
とりあえずの条件を伝えると、
「六三郎。甲斐国の復興に関しては、それで良い。だが、五年以内に二ヶ国保持という事は、五年以内に北条との戦が始まると見ておるのじゃな?」
大殿の顔が天下人の顔に変わる。でも、
「はい。今のまま、北条が臣従しないのであれば、遅かれ早かれ、戦に突入すると思っております」
やっぱり、ちゃんと伝えておかないとね。聞いた大殿は
「やはり、六三郎までもがそう思うか。そうなると、いや、しかし」
何か悩んでいる様子だ。で、結局
「六三郎!虎次郎と江の件は、儂からも条件をつける事を権六と市にも伝えておけ。とりあえず、二ヶ国保持の事は、一旦白紙にしておけ!良いな?」
「ははっ!」
一旦白紙になる事が決まりました。まあ、それならそれで良いですけど
「それで、六三郎。伝えておかないといけない事とは、虎次郎と江の件だけか?」
大殿が「もう終わりか?」と聞いて来たので、
「いえ、あとひとつあるのですが、大殿と羽柴様には衝撃的な話になると思いますが、よろしいでしょうか?」
「これまでの六三郎のやって来た事より、衝撃的な話があるのであれば、聞かせてもらおうではないか」
「六三郎殿。期待しておりますぞ」
2人共、ナイスな前振りになっておりますよ
「では。実は、前年の神無月に妹が生まれました。勿論、父上と母上の間の子です」
俺の発表に、2人はしばらく固まって、およそ10秒後
「は、はあああ!!」
「ろ、ろ、六三郎殿!そ、その話は誠なのか?親父殿は還暦を超えておるし、お市様は確か、大殿」
「市は、出産した頃は四十歳になっておる。し、信じられぬ!」
フリーズが直ったと思ったら、信じられなさ過ぎて叫んでおります。俺も信じられなかったけど、本当なんですよ
で、何とか落ち着いてもらいましたので、
「勿論、拙者も衝撃を受けました。ですが、父上も母上も体調が悪い様子も無いので、安心しております。この二つが、拙者が伝えておきたかった事です」
「そうか。まったく、柴田家には相変わらず驚かされてばかりじゃ。もう何も無いのであれば、そろそろ出立せよ。遅くなっては、甲斐国の復興も遅くなるぞ」
「ははっ!では、失礼します」
こうして、信長と秀吉を驚かせた六三郎は、虎次郎を連れて、越前国の実家へ向けて出発した
一方その頃、六三郎の実家の柴田家には珍しい客人が来ていた
「親父殿!先触れを出していたとはいえ、急な来訪、申し訳ありませぬ」
「いや、又左よ、気にするな。それでどの様な用件があるのじゃ?」
現在、能登国を治めている前田利家が勝家の元に来ていたのだが、その理由が
「実は、拙者の甥が、前田家で持て余しておりまして、なので、柴田家で鍛えてもらえないかと思いまして」
「問題児を鍛えてくれ」だった。それを聞いた勝家は
「いや、又左よ。儂の屋敷はもう手狭じゃし、年内に新たな領地に移動するのじゃから、流石に」
遠回しに断ろうとしていた。それでも利家は
「親父殿!無理を承知でお願いします!あ奴は、亡き長兄の子なので、無碍に扱う事が出来ぬのです!
親父殿も知っていると思いますが、拙者が前田家の家督を継いだ経緯を。それがあるから無碍に出来ぬのです。なので、どうか」
平伏して、勝家に頼み込む。熱意に負けた勝家は
「分かった分かった!又左よ、その甥は何処におるのじゃ?とりあえず連れてまいれ!」
甥を連れてくる様、促す。問題児の甥とは?




