赤備え達と兄を見た銀次郎は
祝言も終わりに向かっていた頃、信長より
「さて、そろそ祝言も終わりが近いが、此処で銀次郎と次を輿に乗せて、領内を練り歩こうではないか!」
と、いきなりの発表がされる。勿論、銀次郎と次姫以外の全員が仕掛け人であるので、
「おお!それは良いですな!」
「銀次郎殿と次姫様のお披露目ですな!」
「外も晴れておりますし、良いですな!」
言葉で盛り上げると、
「銀次郎様!行きましょう」
次姫に引っ張られる形で、輿に乗る事になった、そして、大手門に参加者が移動して、銀次郎と次姫が最期に大手門に到着すると
「銀次郎!おめでとう!」
「皆で祝いに来たぞ!」
「素晴らしい奥方をもらったのじゃ!しっかりせんといかんぞ!」
「儂達が先導と護衛をやって輿も背負ってやる!安心して乗ると良い!」
赤備えの皆が、甲冑を着て、輿を担ぐ準備をしていた。それを見た銀次郎は
「み、皆。儂の為に」
涙が止まらない程、泣いていた。そんな銀次郎に六三郎から
「銀次郎!奥方を娶り、赤備えの皆も祝っておるのじゃ!そんな時は笑顔で居るべきじゃろう!」
「こんな時は笑顔で過ごせ」と言うと、銀次郎は
「ははっ!皆、儂以上に、嫁の次の安全を頼むぞ!」
「「「任せよ!」」」
こうして、赤備え達が担ぐ輿に銀次郎と次姫が乗って、長浜城周辺の練り歩きがスタートした
距離にして2キロ程で、問題なく練り歩きも終了して、大手門前で降りたら信長から
「銀次郎!今日一日、色々あって疲れたじゃろうが、この者の顔を見たら全ての疲れが吹き飛ぶと思うぞ?」
顔を隠して従者のフリをしていた兄の惣右衛門を前に出す。何も知らない銀次郎は
「内府様。色々あり過ぎたので、驚くかは分かりませぬが、この方の顔を見てもよろしいでしょうか?」
「もう何があっても驚きませんよ?」と、素晴らしい前振りをした。その前振りに対して、惣右衛門は
「随分と強くなったのう、銀次郎!」
銀次郎にそう言いながら、顔を見せると
「あ、あ、あ、兄上!な、何故、甲斐国に居るはずの兄上が近江屋に居るのですか?」
見事に驚くリアクションを見せてくれた。そんな銀次郎に惣右衛門は
「内府様が、銀次郎だけ身内が居ないのは良くないと仰ってくださってな。儂達家族を呼び寄せてくださったのじゃ」
「そう、だったのですね」
「まあ、何じゃ。祝言の場でのお主や姫君の家格等、心配だったが、全員で祝ってくれる赤備え達、
祝言の為に、寝る間を惜しんで甘味作りを頑張ってくれる主君!銀次郎、お主は周りの者達に恵まれておるな」
惣右衛門の言葉に、銀次郎は既に涙を流していたが、
「銀次郎。あまり偉そうな事は言えぬが、嫁をもらったのじゃから、これまでの様な無茶な行動は控えよ
出陣しても、戦の勝ち負けではなく、生きて嫁の元へ帰る事を優先せよ!良いな?」
「肝に命じます」
「あまり話が長くなるのも良くない。だから、最期にこの言葉で締めよう。銀次郎、おめでとう」
惣右衛門のこの言葉に、銀次郎は
「はい。人生をかけて、次を幸せにします」
惣右衛門の顔を見据えて、しっかりと言い切った。それを聞いていた周りからは、自然発生的に拍手が鳴り響いていた
こうして銀次郎と次姫の祝言は、笑いあり涙ありで終わった
翌日
天正十五年(1587年)一月十二日
近江国 長浜城
「六三郎!祝言はご苦労であった!それで、儂と藤吉郎に聞きたい事があるそうじゃが、どの様な事じゃ?」
皆さんおはようございます。長浜城の大広間で、大殿と秀吉に、ある事の確認をしたいので、平伏しております柴田六三郎です
「はい。銀次郎の立場について教えていただきたく。銀次郎は名目上は、羽柴様の娘婿になりますが、実際は大殿の娘婿になります。そんな立場の銀次郎を、
赤備えの中に入れたままで良いのか?と思いまして、相談と確認に来た次第です」
そう、俺の確認したい事は、銀次郎の立場。はっきり言って、俺は銀次郎に赤備えに残って欲しい!でも、2人のうち、
1人でも、「うちの娘婿だから、うちに組み込む!」と言ったら、その時点で俺は退かないといかない事になる。
だけど、やっぱり銀次郎含めて全員が大事な家臣だから、赤備えに戻ってきて欲しい!
俺がそう考えていると、先ず秀吉から
「六三郎殿。羽柴家としては、次姫を銀次郎殿の元へ嫁がせたのじゃから、赤備えの一員としたままで良い」
と、「羽柴家は銀次郎を組み込まないよ」宣言が出たけど、残るは大殿だ。
俺が待っていると大殿は
「六三郎。お主はどうしたい?銀次郎を赤備えの中に入れたままで、共に戦場を駆け巡りたいか?」
逆に質問してきた。これは勿論
「はい!銀次郎含めて全員大事な家臣であり、家族です!」
そう言い切る、それを聞いた大殿は
「そうか。ならば、柴田家でこれからも銀次郎と次の事をよろしく頼む」
あっさりと「組み込まない」宣言をしてくれました。これは嬉しい結果になった
「では、大殿、羽柴様!銀次郎と次殿を実家に連れて帰りたいと思います」
「うむ。気をつけて帰ってから、甲斐国での役目に励め」
「ははっ!それでは失礼します」
こうして、銀次郎は引き続き、柴田家家臣として働く事になった。言質を取った六三郎は直ぐに大広間をあとにした
六三郎が居なくなった大広間では信長と秀吉が
「藤吉郎。やはり、あの二人は互いに必要としておるな。それに、次も銀次郎の愚直な性格に惚れた事も分かる程じゃ」
「そうですなあ。大殿も拙者も、銀次郎殿を直臣として迎えようとしましたが、銀次郎殿は六三郎殿以外には仕えたくない!と断言しておりましたし、次姫も
無理に召し抱えようものならば、刺し違えてでも、止める。と言っておりましたし」
銀次郎を客将として預かっていた頃に、組み込もうとしていた話をしていた。信長に召し抱えられたら、六三郎と同輩になれるのに、それを銀次郎が断った話もしている
「まあ、次には幼い頃から我慢に我慢をさせてしまったのじゃ。これくらいならば、聞いてやろう。罪滅ぼしとしてな」
「拙者もそう思います」
信長と秀吉の2人は、銀次郎の意思と次姫への罪滅ぼしを考慮して、銀次郎の立場を六三郎の家臣のままにする決断に落ち着いた様だった。