祝言のスタートは緊張しまくりから
六三郎に言われた紀之介は、あっという間にそれぞれのパンケーキを焼き終え、積み重ねる。同時進行で六三郎もカスタードクリームを作り終えた
そして、パンケーキにカスタードクリームを塗り終えると、紀之介は
「六三郎殿。これでは基本形のままですが」
何も変わってない事に疑問を持つ。しかし、六三郎は、
「紀之介殿。ここからが2人の希望を形にした物です。先ずは銀次郎の希望した木の実を潰して、更に漉します。すると、水分だけになります。ですが、見てくだされ!見事な赤い水分が出ました」
「それは、そうですが。これをどうするのですか?」
「この木の実の汁を形にする為に、紀之介殿!先程のコンフェイトを、鍋に全て入れてくだされ。あとで銭は払いますから」
「わ、分かりました。では」
六三郎の勢いに負けた紀之介は、金平糖を全部鍋にいれる。野苺の果汁が温まると、金平糖も溶けていく。やがて完全に無くなると、今度は、液体になった金平糖をまな板の上に広げて冷えるのを待つ
そして、完全に冷えた真っ赤な金平糖を見た紀之介は
「これは、何と見事な!無色透明だったコンフェイトが、赤に変わったではありませぬか!」
金平糖の色が変わった事に興奮する。しかし、六三郎は
「紀之介殿。これが出来て、やっと半分です。まだ道半ばですぞ」
まだ途中であると告げる。それを聞いた紀之介は
「これ程、素晴らしい物が出来たのに、まだ途中なのですか」
驚くが、六三郎は
「そうです。なので、まだ頑張ってくだされ」
紀之介を励ます。そんなやり取りの後、固まった金平糖を砕いていくと、溶かす前の金平糖くらいの大きさになり、六三郎は
「では、紀之介殿。この赤くなったコンフェイトを、今度はコンフェイトだけで溶かします。忙しなく動きますので、気をつけてくだされ」
「は、はい」
そう紀之介に言うと、金平糖だけを鍋に入れて、鍋を回し始めて作業に集中する。そして、時間にしておよそ5分後、
「紀之介殿!出来ましたぞ!これは急いでやらないといけないので、甘味の基本形を持って来てくだされ」
「はい!」
六三郎に言われて、紀之介がパンケーキを乗せた皿を持って来る。すると、六三郎が鍋に入っていた金平糖を茶筅に絡め取りながら、パンケーキの上から素早く茶筅を振ると、
「おおお!これは、先程まで固まりだったコンフェイトが、まるで糸の様な細さに!」
(紀之介殿のリアクションを見るに、このパターンが2人のリクエストを形に出来る様だな。いやー、記憶の片隅にあった、信長の元に現代のシェフがタイムスリップしたマンガとドラマの中にあった、
金平糖を溶かして、ミニ綿飴を作る話。綿飴を作る機械が無い場合の代用で、火をかけながら鍋を回し続けるやり方だったけど、これが出来るかは賭けだったけど、何とか赤色の簡易綿飴が
出来た!これで、銀次郎と次姫のリクエスト、2人分を形に出来たぞ!)
顔は落ち着いていたが、心中はテンションの上がっていた六三郎は
「紀之介殿。実は、この甘味をお出しする際、少しばかり趣向をこらしたいので、大殿と筑前様に話しておきたい事があるので、お二人の元へ行きましょう」
「分かりました」
紀之介を連れて、信長と秀吉の元へ向かう。しばらくして到着すると
「六三郎!祝言の事で相談とは、面白い事でも思い浮かんだ様じゃな?」
「六三郎殿、何か準備が必要か?」
2人共、ウキウキになっていた。2人に対して六三郎は、
「はい。祝言にお出しする甘味で、2人が夫婦として最初の共同作業をしてもらう為の準備として、大広間で鍋に火をかけられる様にしていただきたく存じます」
火を準備してくれとリクエストする。それに対して信長は
「藤吉郎!頼めるか?」
「勿論です!祝言に甘味が出るだけでも珍しいのに、更に六三郎殿が何かやるのですから!楽しみです!六三郎殿!それだけで良いのか?」
「あと1つありました。次姫様に足場を準備していただきたく。それこそ、銀次郎と目線が同じくらいになる様な足場をお願いします」
「ほう。2人の共同作業に身の丈の差がありすぎると困るのか。面白そうな事を考えおって。藤吉郎!これも頼めるか?」
「勿論です!今から準備に取り掛かります」
「六三郎!これ程、事前準備をしたのじゃ!中途半端な出来は許さぬぞ?」
「ははっ!」
こうして、六三郎のリクエストを叶えてもらい、祝言当日
天正十五年(1587年)一月十一日
近江国 長浜城
「銀次郎様。緊張し過ぎです。戦と違って死ぬ事は無いのですから」
皆さんおはようございます。銀次郎と次姫に声をかけに行ったら、緊張し過ぎて石になったんじゃないかと思う銀次郎を次姫がフォローしている場面に遭遇しました、柴田六三郎です
こういう状況なら、次姫に任せて、俺は大広間に居とこう。そんなこんなで祝言が始まりまして、
つつがなく進行しましたら、いよいよウエディングケーキの入場です。紀之介殿と蘭丸くんと、大殿の従者の顔を隠している人が運んで来ましたら
俺の後ろに置いていた鍋に野苺の果汁で真っ赤に染まった金平糖を入れて、大広間の中央に準備された小型の火の手で、鍋を回しながら金平糖を溶かしていきましたら
「銀次郎!鍋を取りに来い!次姫様!茶筅を準備してくだされ!」
「「は、はい」」
2人がそれぞれ返事をしながら動く。次姫用の足場も準備完了している。銀次郎が直ぐに鍋を取って高砂に戻り、意図を察した次姫は茶筅で、溶けた金平糖をウエディングケーキの上で、左右に振ると
「おお!赤い糸が甘味を覆っておる!」
「織田家と羽柴家の旗印に使われている黄色に、銀次郎殿が在籍しておる赤備えの赤色が見事に華やかさを見せておる!」
皆さんが良いリアクションをしてくれます。大殿も
「六三郎!これが言っていた事じゃな!皆が盛り上がっておる!見事じゃ!」
と、褒めてくれました。甘味は上々!最期は赤備えの皆、任せたぞ!
六三郎は赤備えの皆に任せた事とは?