実家が知らない間に騒々しくなっていた
天正十五年(1587年)一月五日
越前国 柴田家屋敷
「皆!帰って来たぞ!!」
「「「殿!お帰りなさいませ!!」」」
皆さんこんにちは。長浜城への寄り道をしながら、15日ほどで実家に帰って来ました柴田六三郎です
物凄く久しぶりな実家です。出張と出陣で3年間も放ったらかしにしておりましたし、その間に親父から家督相続をしても、実家には帰って来なかったからなあ
と思っていた、俺のしみじみとした感情を吹き飛ばす事が起きていました。それは、
「六三郎、此度もしっかりと働いて武功を挙げた様じゃな!先ずは身体を休めよ!」
と、俺を労う親父の隣に居る、お袋が赤ちゃんを抱っこしているのです。これは、アレだよな?
「父上、母上。その赤子はもしや」
「あなたの妹ですよ。前年の神無月に生まれました」
やっぱり!いやいやいやいや、前年に生まれたと言う事は、数え歳で親父は66歳、お袋は40歳だぞ!?
不可能ではないといえ、あまりにも衝撃がデカすぎて、言葉が出ないのですが!
そんな俺の考えに気づいたのか、親父から
「まあ、その、何じゃ。六三郎、色々と思う所はあるかもしれぬが、先ずは新たな妹の誕生を祝ってくれ」
遠回しな、「何かすまん」的な事を言われました。まあ、家族が増えるのは良い事ですし、とやかく言うつもりは無いけどさ
「と、とりあえず父上、母上。その妹の名は決まったのですか?」
「ええ。神無月に生まれたので、少し字を変えて「環菜」と名付けました」
おお!この時代では、やや特殊だけど別に変じゃない名前だ。親父以外が考えたんだろうな
「環菜。ですか。良い名前ですな。父上。環菜が嫁入りするまで長生きしないといけませぬぞ」
「たわけ!その前にお主の子を早く見せよ!」
おう、激励したつもりが、小言を返されてしまった。流石に親父の方が人生経験豊富な分、語彙も豊富だから仕方ない
とりあえず、本題に入ろう。新しい領地の事もあるし
「父上、母上。話は変わりますが、新しい領地の事でご相談があるのですが」
俺の言葉に2人は、
「殿からその事を知らせる文は、既に届いておるぞ」
「それで、六三郎。あなたとしては本拠地にしたい国は何処ですか?」
殿達からお知らせの文を見せて来た。その内容に親父は
「しかし、越前国を丸々一国、加賀国を半国と儂の代で柴田家の最大領地を得たと思ったら、六三郎、お主はそれを軽く超えよったな。誠に嬉しく思うぞ」
と、言ってきた。え?親父、越前国だけじゃなかったの?
「あの、父上。加賀国を半国与えられていた事を、初めて知ったのですが」
「上杉との戦の後でな。それこそ、お主が甲斐国でのお役目に出立した後に言われたからのう。それに、最初は又左に加賀国を一国与えるつもりだった大殿と殿が
加賀国と能登国を又左に与えたら、内蔵助と差が有り過ぎてしまう。と言う事で、この様な沙汰に落ち着いたのじゃ」
「そうだったのですか。では父上。殿と大殿から文が来たと言う事は、領地替えの事も知っているのですな?」
「うむ。越前国に明智家が、加賀国に前田家が移動して、能登国を前田家から召し上げて、上杉家に四分の三、徳川家に四分の一を与える。と決まった事、
そして、柴田家に丹波国、丹後国、因幡国、伯耆国、播磨国の大部分、そして但馬国の半分を与える。とあったが、六三郎よ、この中で播磨国の事が、お主としては不安なのであろう?」
やっぱり親父は生粋の武将だよ。文の文字だけで、俺の不安点を当てて来た
「はい。播磨国は最悪の場合、共に毛利との戦を戦った黒田家以外、全て敵の可能性が高いのです。それを考えると、播磨国が本拠地候補の筆頭ではありますが」
「ふむ。それならば六三郎よ、先ずは安全な国を仮の本拠地として、そこから播磨国を平定する為に出陣しても良いと思うが」
親父、折衷案を出してくれるあたり流石だよ。
「色々と考えてみようと思います」
「うむ。仮の本拠地を決めたならば、儂が引越の指揮を取るから、お主は甲斐国でのお役目に励んでおけ」
「ははっ。
これで話は終わりかと思ったら
「それで、六三郎よ。お主と共に出陣した上杉家は、文の中に越後国を返す事と、能登国の四分の三が与えられる事とあったが、これは見事な武功を挙げた。そう言う事で良いのじゃな?」
ああ、茶々の件か
「はい。拙者の無茶な行動にも付いて来てくれて、毛利相手に一歩も引かないどころか、押していました」
「そうか。ならば、茶々を喜平次に嫁がせても問題無いな。市よ、良いな?」
「共に出陣した六三郎がそう言っているのですから、間違いないのでしょう。利兵衛、喜平次殿と茶々を呼んで来てください」
「ははっ」
お袋に言われた利兵衛が2人を大広間に連れてくる。そして、親父から
「茶々と上杉殿。いや、喜平次よ。前置き無しで話すが、二人が夫婦になる事を認めよう」
と、ストレートに発表されると、お袋がフォローに回って
「権六様。それでは、二人にちゃんと伝わりませんよ。改めてですが茶々、そして喜平次殿。喜平次殿と共に出陣した六三郎から、上杉家は見事な武功を挙げたと言っておりました。なので、二人が夫婦になる事を認めます」
そう言うと、茶々が
「父上!母上!嘘ではありませぬな?誠に喜平次様と夫婦になって良いのですな?」
興奮しながら聞いて来たので、俺から
「茶々、誠じゃ。父上も母上も認めてくださった。なので、喜平次殿。これからは義弟として、よろしく頼むぞ」
そう伝えると、喜平次殿から
「六三郎殿、いえ、義兄上。茶々殿に辛い暮らしをさせない事を誓います!此度はありがとうございます!」
平伏して、お礼を言われました。そんな喜平次殿の声が大きかったからなのか、気づいたら、大広間の周りどころか、見える範囲全てが人だらけです
まあ、幸せは皆で分け合えば、更に幸せが広がるだろうから、良しとするか。改めて、茶々と喜平次殿、結婚おめでとう!