寄り道の理由と毛利家の慶事
「事前連絡も無いのに、対応していただき、忝い」
「はっはっは。六三郎殿。儂と六三郎殿の付き合いじゃ。殿と大殿が居ない場では、固苦しいやり取りなぞ不要じゃ」
「そう言っていただき、こちらも気が楽になります」
「うむ。それで此度はどの様な用件で来たのじゃ?」
「実は、来月末に行なわれます拙者の家臣の土屋銀次郎と、次姫様の祝言の事でお願いしたい事がありまして」
「どの様な事じゃ?叶えられる内容なら、全て聞いてやろうと思うが、言ってみてくれ」
「はい。銀次郎の為に、耐え続けた次姫様の側に銀次郎を置いていただきたいと思いまして」
「ほお!次姫が耐えた事への褒美という事か!中々、粋な事をするのう。良かろう!銀次郎殿を祝言まで、客将として預かろうではないか!」
「ありがとうございます」
「うむ。ところで、話は変わるが六三郎殿、新たな領地の話を殿から教えてもらったと思うが、その事で聞きたい事があるのじゃが、よろしいかな?」
「はい。どの様な事でしょうか?」
「うむ。新しい領地として、儂は備前国、備中国、備後国、美作国、そして出雲国の半分と決まった。その中で本拠地の候補として、
備中国か備後国の二つに絞ったが、六三郎殿は新しい本拠地は決まってないじゃろうが、候補の国は何処か教えてくれぬか?」
「一応、今のところ、ですが播磨国にするつもりなのですが、殿から言われた事が気になっておりまして」
「何を言われたのじゃ?」
「播磨国は、状況次第では、反抗勢力を叩きのめしてから切り取り次第。と言われまして。最悪の場合は、官兵衛殿の黒田家以外、全て敵の可能性もあるのです」
「何とまあ。その可能性が否定出来ない程、播州武士が荒々しいのは、毛利との戦で目の前で見ておるからのう。これは、佐久間殿の調略がどれだけ広がっているか?次第という事になるか」
「そうなります。なので、本拠地にして良いのかを今から父上と相談する予定です。ですが、父上に楽隠居をさせるつもりで、家督相続したのにも関わらず、
働かせてしまう可能性があるとなると、播磨国以外も考えております」
「いや、六三郎殿。儂が言うのも変な話じゃが、殿も大殿も、柴田家と黒田家が協力したら播磨国も治められると思ったから、
播磨国を新たな領地にしたのだと思うぞ。ならば、完全に平定してから、本拠地の話は考えた方が良いと儂は思う」
秀吉の言葉を聞いた六三郎は
「羽柴様、少しばかり目の前が開けた気がします。ありがとうございます」
「気にせずとも良い。一度実家に戻るのであれば、そろそろ出立した方が良いから、銀次郎殿は預かっておくから、気にしなくて良いぞ」
「申し訳ありませぬ。それでは」
六三郎が立ちあがろうとした時、秀吉から
「そうじゃ六三郎殿。新しい本拠地が決まってからで良いのじゃが、儂の倅や娘も、六三郎殿の実家で、鍛えてくれぬか?」
子供を鍛えてくれとリクエストされたが、六三郎は
「羽柴様。拙者は構いませぬが、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
理由を尋ねると、秀吉は
「理由としては、「公方を見たから」じゃな。あの阿呆を見た後に、もしも、儂の嫡男の長望丸は勿論、他の息子達もあの様な阿呆になってしまっては、
羽柴家は間違いなく改易されてしまう。儂が死んだ後の為に、子供達を、俊英や名君。とまではいかずとも、最低限、まともな統治者になってもらいたいのじゃ。なので、六三郎殿。頼む」
秀吉が平伏して頼んで来たので、六三郎は
「羽柴様。そこまで考えていたのですね。分かりました。新しい本拠地が決まり次第、伝えますので、その際は、お子達を連れて来てくだされ」
「すまない!!この礼は、そうじゃな、播磨国平定に苦労しておる時に援軍として向かう事を含めて、遠慮なく言ってくれ」
「その時が来たら、お願いします」
こうして、子供を鍛える約束を交わした六三郎は銀次郎を長浜城に残して、越前国へ進行を再開した
一方、沙汰を申し付けられた後、安芸国へ戻っていた輝元と元春は、家中に慶事が連続で起きていた事に驚いていた
先ず最初の慶事として、小早川家の嫡男の元総の正室が決まったのだが、その正室に決まった娘の名は、
児玉周、諸説あるうちの一説では、毛利輝元の側室に無理矢理された。と言われている二の丸殿と呼ばれた悲運の女性である。年齢も元総の5歳下なので、
この世界線では、お似合いの夫婦である。そして、もう一つの慶事として、元総の兄であり養父でもある隆景の継室として、
内藤元種の娘のおたねを嫁に迎えた。年齢差23歳の歳の差夫婦だ。この慶事を成立させる為に動いたのは、輝元の娘の安芸乃だった
勿論、安芸乃が唯の善意で一門の嫁取りをしたわけではない。本音として
(お父さんには申し訳ないけど、周ちゃんを史実どおりに側室にしたら色々と拗れる可能性が高いから、藤四郎さんの正室になってもらったし、又四郎叔父さんの実子が出来たら、毛利家が一枚岩で居られるはず!
私が織田家への人質になるなら、毛利家が織田家につけ込まれない様に盤石にしてから、人質になってやる!)
毛利家の結束を固める為に動き回った結果だった。