行き倒れていた理由とこれからの予定
「信子殿と万千代殿、一条と言う事は、京に居る公家の親類。という事でよいのか?」
「はい。京の一条家の庶流にあたると、私の父で、万千代の祖父の権中納言兼定から教えてもらいました」
「それ程に格式も歴史もある家の姫君と後継者らしき男児が、何故に浜に行き倒れていたのじゃ?」
「出来るかぎり簡潔に話します。私は今年で十五歳、万千代は七歳になるのですが、私が生まれて三年後に、
当時、土佐国を本拠地としていた一条家の当主の父上と嫡男の兄上が長宗我部との戦に敗れ、土佐国を捨てて、伊予国の河野家を頼ったのです。
そこで兄上の嫡男の万千代が生まれて、そこから父も兄も長宗我部を倒して、土佐国を取り返すつもりで、
河野家の武将の一人として働いておりました。ですが、数ヶ月前に起きた備中国での戦で、父も兄も討死したと伝えられ、
そこから、私の母も、万千代の母も、気を病んでしまい、そのまま亡くなったのです。更には前年に長宗我部が伊予国を征圧した事により、河野家も壊滅的な被害を受けたのです。これ以上河野家の世話になれないと
悟った私は、せめて万千代だけでも安全な土地に行かせる為に、船を漕いでいたのですが、途中で船も壊れて、行き倒れていた所を皆様に助けていただいたのです」
六三郎は話を聞いて、内心
(うん。戦に勝利する為に、弱い立場の人達が辛い目に遭っている、所謂「負の連鎖」だな。これは、俺が長宗我部家を動かす事を提案した事が原因なんだよな
いかんいかん。今はそれよりも。この姉弟、じゃない、叔母と甥にこれからの希望を聞いてみよう)
「それは、中々の覚悟で伊予国を出たのですな。それで、信子殿。これからのご予定は?」
「はい。何とか万千代を一条家の本家に預けたいのですが」
「船が壊れたので、道中の安全が不安であると」
「はい。それに、皆様に助けてもらう前に荷物も何処かに行ってしまった様ですので」
「それなら、こちらで回収しておるぞ。源二郎!」
「ははっ!此方です」
俺が信繁くんを呼ぶと、信繁くんは直ぐに荷物を持って来た。
「信子殿。中の確認をしてくだされ」
信子さんに、確認をしてもらうと
「路銀がありました!それに、一番無くしてはいけない、土佐一条家の家宝であり、家督相続の時に代々の当主から引き継がれる一条藤の書かれた扇子がある事が、とても、とても、嬉しいかぎりです」
大泣きしながら、感謝された。やっぱり公家って、色々と面倒だな。俺の子孫が諸事情で公家の娘を嫁にしないといけない時が来たら、「諦めろ」と遺言を残しておきたくなる程の面倒くささだよ
とりあえず、俺の子孫の事はおいといて、
「では、信子殿。路銀も家宝の扇子も戻って来たのじゃ。これから船頭が居るところまで、儂達と共に移動するか?」
途中まで一緒に移動するかと聞いたら、まさかの
「もし、よろしければ、皆様に路銀をお支払いして護衛をお願いする形で、私達を京まで連れて行ってくださいませぬか?」
「金払うから、京まで護衛してくれ」とリクエストされました。俺としては構わないけど、皆さんの反応は
と、それぞれの家の面々を見たら、上杉さん、尼子さん、そして黒田家の吉兵衛くん、大泣きですよ
「あの、上杉殿、尼子殿、吉兵衛殿?」
「申し訳ない。己の事よりも、甥の事、血筋が続く事を優先する姫君の強さに涙が」
「拙者は、尼子家再興の為に立ち上がった頃を思い出して」
「拙者、姫君の様な強さに感服して」
三者三様に、涙の理由があった様です。これはしょうがないな
「官兵衛殿。申し訳ないですが」
「六三郎殿。みなまで言わずとも分かっております。二人と共に、京まで移動するのですな?」
「察していただき、忝い。それでですが、念の為、羽柴様と殿達へこの事を文で知らせておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「それは間違いなく伝えた方がよろしいですな。今から書いて、六三郎殿の手の者に届けさせれば、備中国を抜ける前に羽柴殿には届くでしょう」
「申し訳ない。それでは今から書きますので。信子殿、万千代殿。そう言う事になったから、共に進もうではないか。それから路銀は要らぬ」
「ありがとうございます。しかし、誠に路銀は要らないのですか?」
「歳若い女子から銭を集ったと父上達知られたら、二十歳を超えて父上に拳骨を、利兵衛からお説教をくらってしまうのでな、なあ源太郎」
「確かに。大殿は「その時は無償でやらんか!」と仰るでしょうし、利兵衛殿は、「その様な事をしないといけない程、柴田家の財政は危なくありませぬぞ」と、殿を叱責するでしょうな」
「「「「わっはっは」」」」
俺の言葉の意図を理解した源太郎は、笑いに変えてくれた。ただ、皆?大爆笑って何故だ?
まあいいや。とりあえず
「信子殿、万千代殿。そう言う事なので、気にせずに、我々と京へ進みましょう」
進み事を伝えると、信子さんは
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と、涙を流しながら感謝していた。それじゃあ、秀吉への文と、殿と大殿への連絡の文を書きますか!