吉田郡山城でのご対面は
天正十四年(1586年)七月二十六日
安芸国 吉田郡山城
場面は安芸国に変わり、六三郎達が吉川元春と小早川元総に連れられて、吉田郡山城の中に居る場面から始まる
「前日に話しましたが、織田家より柴田六三郎殿に来てもらった次第ですので、これから三ヶ月と少しは
料理番達に六三郎殿の料理を覚えてもらう為と同時に、六三郎殿の家臣の赤備え達が藤四郎と同世代の若武者達を鍛える事になりました」
「いや、次郎叔父上。なりました。と言っておりますが、その様な前代未聞な事」
皆さんおはようございます。吉川さんと藤四郎くんに連れられて、毛利家の居城、吉田郡山城の大広間で、毛利家の話し合いを見ております柴田六三郎です
実を言うと、前日の時点で城の中には入っておりましたが、吉川さんと藤四郎くんから、「明日の顔合わせの為の準備があるから、今日は此処に居てくれ」と
言われて、源太郎を含めた一部と、待つ事1日、やっと呼ばれたと思ったら、何だかまとまってない感じです
そんな中、吉川さんに「次郎叔父上」と言った人が、毛利家当主の安芸守輝元である事は分かりましたし、
吉川さんと小早川さんと藤四郎くん以外の見た事ない顔の人達も、毛利家の重臣だと分かりました
そんな中で、吉川さんと小早川さんと藤四郎くんは、俺の事を知ってるから嫌な顔はしてないけど、他の方々は勿論、輝元も嫌な顔をしているのは分かる
ただ、輝元の側に居る娘らしき女性に睨まれているのは何故だ?初対面なのに、睨まれる事をしたつもりはないのだが?
俺がそんな事を考えていたら、吉川さんは輝元に
「殿。よろしいですか!前日も話しましたが、拙者と藤四郎は殿の命令により柴田殿と共に長門国へ行き、
そこで、かつて日の本の西国の殆どを領地としていた大内周防介の子孫と出会い、保護した時、柴田殿の家臣達がやっていた訓練と六三郎殿が作る料理のおかげで、
十日で百里を走り抜く事の出来る精強な軍勢が出来た事を参考にし、毛利家の藤四郎達の世代を強くして、来たる戦に備えると同時に、若君が健やかに育つ為にも、六三郎殿の料理を料理番達に学ばせるべきだと、
話したではありませぬが!毒殺や謀殺を警戒しておられるのであれば、拙者も藤四郎も長門国で死んで、この場には居ませぬ!拙者と藤四郎が生きている事こそ、柴田殿が殺意も敵意も無い証でしょう!」
めっちゃ俺が問題無い事をアピールしている。それに助け舟を出したのが、小早川さんなんだけど
「殿。そこまで疑うのであれば、殿の目の前で料理を作る所を全て披露してもらう。というのはどうでしょうか?食材も味付けも、毛利家の台所にある物を使ってもらいながら、目の前での料理というのは?
それならば、柴田殿が細工をしてない事が目の前で分かるではありませぬか」
「大広間で料理を作れ」と、少しばかり無茶振りをして来ました。しかも、「毛利家の台所にある食材で」なんて縛り付きですよ。食材次第では難易度が上がるなあ
毛利両川の圧に負けたのか輝元は、
「分かりました。柴田六三郎とやら、今から食材を持ってこさせるから、目の前で料理を作り、儂を安心させてみよ」
俺に目の前で料理を作れと言って来た。食材次第だけど、頑張りましょう
「ははっ」
そんなこんなで食材か持って来られたんだけど、その内容が、人参、玉葱、ウド、山芋、芹、ふきのとう付きのふき、茗荷、生姜、そして小麦と炊かれた米と雉丸々一羽です。そこに鍋が3つありまして、調味料は塩と味噌です
うん。メニューは頭の中で描けた。でも、道具が足りないので、それも持って来てもらおうか
「安芸守様。準備していただきたい道具があります」
「何じゃ?申してみよ」
「はい。先ずは石臼を、次に多めの油を、そして最期に手を洗う湯を準備していただきたく」
「まあ、それくらいなら良かろう。おい、持ってまいれ」
で、持って来てもらいましたら、スタートです
「では、始めたいと思います。先ずは小麦を粉になるまで、石臼で引きます。これは、拙者の家臣にやらせますので。源太郎、頼む」
「ははっ」
小麦粉作りを源太郎に任せている間に、手を洗ってから、雉を骨と身に分けまして、骨を別のお湯の入った鍋に投入して、刻んだ生姜も投入して臭み消しをしたら、良い香りが漂いだして、
「何と素晴らしい香りじゃ」
と、言葉に出る人も居て、吉川さんは
「これは、長門国で味わった物じゃな。誠に優しい味であったのう」
と、思い出していました。雉出汁は完成したので、次は人参、玉葱、ウド、ふき、茗荷を食べやすい大きさに刻んで、そこから
「殿。これぐらいでよろしいでしょうか?」
「うむ。素晴らしい働きであった」
源太郎が頑張って作った小麦粉を水で溶いて、その水溶き小麦粉に雉出汁と味噌を混ぜて、刻んだ野菜に絡める
そして、混ぜた物を適温になった、油の中に出来るかぎり形を整えて投入する!
すると周りにはジュ〜。や、パチパチパチと音がしまして、良い揚げ色になったら取り上げて、同じく水溶き小麦粉の中に小さくした雉肉を入れて、絡める
そして、また揚げる。藤四郎くんのお気に入り、なんちゃって唐揚げが完成したら、藤四郎くんが食べたそうな顔をしております
とりあえず、これで雉出汁の澄まし汁、野菜のかき揚げ、雉肉のなんちゃって唐揚げの完成です
「安芸守様。出来ました。毒味役の方に食べさせてください」
俺がそう言うと、
「殿。拙者が毒味役をやりましょう」
1人の重臣が手を上げる。そしたら、
「いやいや四郎兄上!此処は拙者が毒味役を」
「いやいやいや兄上達!此処は拙者が!」
「いや、拙者が!」
「自分が毒味役をやる!」とアピールする人が続々と出て来ました。なので、追加でかき揚げと、なんちゃって唐揚げを人数分作って、皆さんに出しましたら
「何と美味い!」
「このサクッとした食感も素晴らしいが、野菜がこれ程に美味くなるとは!」
「雉の骨から、これ程に美味い汁物が出来るとは!」
テンションが上がって、いや、上がりすぎて、吉川さんも藤四郎くんも小さく笑っております
そんな重臣達の反応を見てから食べた輝元も、
「何と美味い。これ程に美味い料理は、京に行った時でも食べた事が無い。次郎叔父上。これが、次郎叔父上が仰っていた事なのですな」
テンションか上がった理由を理解した様で、吉川さんの言葉にも納得していた。
そして、姿勢を正して、改めて俺の方を向くと
「柴田六三郎殿。見事な料理の腕であった。これなら嫡男の幸鶴丸もしっかり食べる事が出来るはずじゃ、これから三ヶ月と少し、料理番達を鍛えてやってくれ」
「ははっ」
俺によろしくと頼んで来た。まあ、悪い印象は無くなったから、よしとしよう。ただ、あの女性が俺の事を睨んでいるのは、凄く怖いです




