織田家は沙汰と領地の色々な事で悩みに悩む
天正十四年(1586年)七月十日
近江国 安土城
場面は少し戻り、六三郎達が長門国から、大内家を連れて、安芸国へ戻っている頃、毛利家への対処に悩んでいる信長と信忠親子だけの安土城内から始まる
「父上。毛利の降伏条件について、どうしますか?筑前からの文では、織田家に渡す国は六ヶ国、保持したい国は五ヶ国。渡す国の中には銀山のある石見国も入っております
更には人質複数人、その中には当主である安芸守の実の娘も含まれております。そして、公方を捕縛して引き渡すとも、書いてありますが」
毛利家が示して来た降伏条件を秀吉からの文を信忠が見て、信長に質問している。質問された信長は、
「流石に五ヶ国残してくれは聞けぬ!そうじゃなあ、残してくれと言っておる国の内、備後国と隠岐国は織田家の領地とする。そして、長門国を一時的に織田家預かりとして、毛利家の領地は安芸国と周防国としよう」
毛利家の出した五ヶ国保持の条件から、二ヶ国保持とした。その事に信忠は
「父上。備後国と隠岐国を織田家の領地とするのは分かりますが、長門国を一時預かりにする理由とは?」
信長に理由を求めると、信長は
「文の中にもあったが、毛利家としては最悪の場合、安芸国一国でも良いとあったが、流石にそれでは、毛利家が破綻してしまう。
それで織田家に余計な憎しみを持たれても困るからのう。少しでも憎しみを減らす為の措置として、周防国は保持させる。長門国は交易の重要な拠点じゃから
毛利家としては、石見国の次に手放したくないはずじゃ。そこで、一時的に織田家の領地として、九州征伐での働き次第で返す事を餌にしたら、毛利家も働くじゃろう。そう言う理由じゃ」
「そう言う理由だったのですね。分かりました。では、毛利家への沙汰の領地に関して、「領地は安芸国と周防国のみとし、長門国を九州征伐での働き次第で返す」とします
次に人質に関してですが、安芸守の娘の他は、毛利家の重臣としようと思うのですが」
「ふむ。確かにそれが一番無難じゃが、それに加えて、毛利家重臣の嫡男を含めた倅達も複数人、人質とすべきじゃな。余計な事をしたら家が断絶するかもしれぬと危機感を持たせよ」
「承知しました。では、公方の件は」
「まあ、そうじゃな。多少の傷をつけてでも、五体満足な状態からで連れてきたならば、多少は沙汰を緩めても良い。阿呆の公方を主上の前に連れて行き、征夷大将軍の位を返上させて、織田家に従わせるとしよう」
「承知しました。それでは、ここからが難題ですが、毛利家から手にした領地の分配ですが、やはり最大の功労者である羽柴筑前に最低でも三ヶ国以上与えると同時に、
毛利家を見張る役割を担ってもらう事は確定として、それ以外の面々をどの様に対応しましょうか?」
「先ずは尼子家じゃが、戦で見事な働きを見せたと言えど、臣従もしてない家に一国を与える事は出来ぬ!
だが、何も無しでは織田家に従っても意味が無いと思われてしまう。なので、落とし所としては、出雲国を半分与えて、
残りの半分は毛利家と同じく、九州征伐での働き次第としよう。次に、黒田家じゃが、尼子家と同じく、臣従しておらぬからのう。但馬国の半分を落とし所とするか。黒田家も九州征伐での働き次第で一国としよう
次に長宗我部家じゃが、伊予国の半分を与えたら良い。残りの半分は、当面は源三郎に見てもらい、おいおい決めていくとして、次が最も難しい!
六三郎の柴田家の働きは見事!いや、見事過ぎるからこそ、筑前の次の武功として、何処か一国与えて、越前国を召し上げるとして、勘九郎!お主の考えを聞かせてみせよ!儂ばかりに考えさせるな!」
領地分配を考え過ぎて疲れたのか、信忠に考える様に命じる。命じられた信忠は
「分かりました。では、柴田家が移動して空く越前国には、明智家を移動させるとして、その柴田家は、羽柴家と大差ない石高にする為には、筑前の領地を
備前国、備中国、備後国、美作国、そして出雲国の半分として、およそ九十万石になります。それに対し、六三郎の柴田家の領地を丹波国、丹後国、因幡国、伯耆国、播磨国の大部分、そして但馬国の半分としたら、羽柴家と同じく、
九十万石となりますので、これで働きに対しての苦情は出ないかと思います。黒田家には、但馬国半分と、播磨国の現在の所領安堵で納得してもらいましょう
柴田家の領地には、権六の隠居用の領地も含む形としたら、筑前もうるさく言わないはずかと」
出来るかぎり、考えて秀吉も六三郎も百万石にならない様に領地分配を提案した。提案を聞いた信長は、
「権六の隠居用の領地とは。まあ、権六のこれまでの働きに対して、うるさく言う阿呆が居るとは思えんが、黙らせる名目は必要じゃな。
それでは、これまでに決まった事をまとめると、毛利家への沙汰、手にした領地の分配、筑前からの文にあった六三郎に引き寄せられた大内家に関しては、
連れて来てから考えるとして、問題は半介の佐久間家じゃ!此度の大怪我で半介は家督を譲ると言っておるが、そのまま嫡男の甚九郎に譲って良いのか?
と迷っておるそうじゃ、更には三男坊の新十郎に家督を譲った方が良いかもしれぬと迷っておる。これは半介本人だけでは決められないじゃろうから、戻って来てからの話し合いで決めるとするか
よし!勘九郎!毛利家への沙汰を含めて、これで決まりとする!お蘭!今の内容を文にまとめておけ、完成したら筑前に届けるぞ!」
「ははっ!」
こうして、信長と信忠が悩みに悩んで、毛利家への対応を含めた、色々な事が決まった。




